モンテネグロのNATO加盟の意義とロシアの脅威
2018年3月26日 WEDGEInfinity
モンテネグロは、昨年6月にNATOに加盟した最も新しいNATO加盟国である。2月27日、ペンタゴンにおいて、モンテネグロの
ボシュコビッチ国防相とマティス米国防長官が会談し、マティス長官はモンテネグロのNATO加盟を歓迎するとともにロシアの脅威を
強調した。マティス長官の発言の要旨は次の通り。
モンテネグロが2006年に独立を回復して以来、両国は、民主主義に基づく共通の価値に支えられ、着実に軍事関係を強化してきた。
昨年6月の貴国のNATO加盟セレモニーでストルテンベルグ事務総長が述べた通り、NATOは「価値の共同体」であり、
貴国は「共同体の不可欠の構成要素」となった。我々の大西洋同盟を再強化してくれることになろう。
米国は、貴国を同盟国と呼ぶことを誇りに思う。我々は、他のNATO加盟諸国とともに共通の安全保障上の脅威、例えば、
武力により国境線を書き換えたり、欧州の外交・経済・安全保障上の決定に拒否権を行使しようとしているロシアによる脅威に、
肩を携えて立ち向かっている。こうした脅威に直面し、米国は、ロシアに国際的約束の文言と精神の双方を尊重するよう働きかけ
続ける。
我々は、2024年までに防衛支出をGDP比2%にするとのモンテネグロの計画に感謝する。これは、防衛負担の分担であり、
我々の軍を時代に合ったものとし続けてくれる。
我々は、アフガンにおける任務への兵士を増やすというモンテネグロの約束にも感謝する。貴国の陸軍の兵士の25%以上が
16の異なるローテーションを通じてアフガンで任務に就いていることを認識しなければならない。約200年前の詩人アルフレッド・
テニソンによるモンテネグロについての言葉は今でも真実である。すなわち、モンテネグロの兵士より「力強い登山家」、
勇敢な兵士はいない。
モンテネグロは、旧ユーゴスラビア構成国の一つで、1992年の旧ユーゴ崩壊後、セルビアとともに2003年まで「新ユーゴ」を、
2006年までセルビア・モンテネグロを構成していたが、2006年に独立した。
昨年6月には、上記マティス発言にもある通り、モンテネグロはNATOへの加盟を果たした。このNATO加盟に対しては、
ロシアの強い反対があった。昨年4月にモンテネグロのNATO加盟を承認する文書にトランプ大統領が署名した際には、
ロシア外務省は抗議するとともに、「欧州に新たな分断線を引いて対立させるものである」と非難した。上記マティス発言は、
儀礼的な性格の濃いものではあるが、ロシアの脅威を正しくとらえ、モンテネグロをロシアと対峙するための最前線と位置づけている。
米国のロシアに対する厳しい姿勢の表れと言ってよいであろう。
モンテネグロは、EUへの加盟という面でも注目される。欧州委員会は2月6日、バルカン6か国(セルビア、モンテネグロ、
アルバニア、マケドニア、コソボ、ボスニア・ヘルツェゴビナ)のEU加盟への展望を示す文書‘
EU-Western Balkans Strategy: a credible enlargement perspective’を発表、セルビア、モンテネグロが早ければ2025年に
EUに加盟することなどを「指標」として掲げた。モンテネグロは、セルビアと並んで、既に加盟交渉の段階にある。
もちろん、バルカン6か国のEU加盟実現には極めて大きな困難が待ち受けている。バルカン6か国は、法の支配が脆弱であり、
政治腐敗が深刻で、組織犯罪が蔓延している。EU側はこうしたことの改善を加盟条件としているが、なかなか難しい。
また、旧ユーゴ崩壊に伴う国家間、民族間の対立の解消も求められるが、これも困難な課題である。他方、バルカン6か国側でも、
世論がEUの加盟にあまり熱心ではないようである。
しかし、バルカンを脆弱な力の真空として放置しておけば、ロシアに真空を埋める良い機会を与えることになってしまう。
軍事同盟としてはNATO、政治的統合としてはEUに出来るだけ取り込むことが望まれる。モンテネグロのNATO加盟は、
バルカン6か国の中ではアルバニアに続くものである。同国が、防衛費をGDP比2%にするとのNATO加盟国の約束を果たす
計画を示し、アフガンでの任務のための兵士を増やすなど、NATOに積極的に貢献していることは、有意義なことである。
出典:‘Remarks at a Bilateral Meeting with Montenegrin Minister of Defense Boskovic’, James Mattis, The Pentagon, February 27, 2018 )