「南北」さえうまく行けば韓国経済はどうでもでいいのか?
2018/05/27 05:05 朝鮮日報
盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は大統領選候補だった2002年5月28日、仁川で行われた政党演説会で、「南北対話さえ
成功させれば、ほかで騒動が起こってもいい。あとは適当にやればいいということだ」と語った。その発言をあえて
歪曲(わいきょく)するつもりはない。この発言で強調したいのは「南北対話の成功」であって、「ほかで騒動が起こる」こと
ではなかっただろう。ただ、盧武鉉元大統領は何を念頭に「ほか」と言ったのだろうか? その具体的な言及がないため推測する
しかないが、おそらく経済や外交・防衛、国民同士の確執などだろう。
それから16年が過ぎた今、盧武鉉元大統領の後継者を自認する文在寅(ムン・ジェイン)政権は南北問題解決にすべてを
賭けている。だが、「ほか」は騒動が起こってもいいとは言っていない。最大野党・自由韓国党の洪準杓(ホン・ジュンピョ)
代表は、文在寅政権が南北対話にすべてを賭ける一方で、「青年失業は最悪で、自営業者や中小企業は片隅に追いやられ、
企業は脅迫と圧力に苦しんでいる」と言った。文在寅政権が南北問題に取り掛かりっきりになっている間に経済は低迷していると
指摘したのだ。
このような低迷局面で、韓国が「平和」の対価として北朝鮮に支払わなければならない援助はどのくらいなのだろうか?
与党・共に民主党の金太年(キム・テニョン)政策委員会議長は「非核化が実現すれば南北経済協力は全面化されるだろう。
北朝鮮のインフラ投資や観光投資、資源開発といった事業などは活発に進められており、韓国経済にとって新たな活力になるだろう」
と言った。騒動が起こるどころか、もっとうまく行くだろうという見立てだ。
しかし、国際的専門機関の見立ては違う。米経済専門誌フォーチュンが英ユライゾン・キャピタル研究所と共同分析した結果、
北朝鮮が核放棄により差し出す「請求書」は2兆ドル(約222兆円)に達すると報道した。
この金額は、北朝鮮が核・ミサイル開発に投入した資金と、それに伴う経済損失に基づいて算出されたものだという。
また、西ドイツが東ドイツを吸収する際に支払った総費用1兆2000億ドル(約133兆円)を参考にしているとも言われる。
フォーチュン誌は、このコストを北朝鮮の非核化と密接な関係を持つ4カ国、つまり韓国・米国・中国・日本が今後10年間で
分担するとすれば、国内総生産(GDP)比で毎年韓国が18.3%、米国が1.7%、中国が1.6%、日本が7.3%となると推定している。
韓国について言えば、国防予算を2.4%(2017年基準)とすると、韓国が北朝鮮に支援する金額は国防費の7.6倍に相当すると
いうことだ。おとといの報道を見ると、北朝鮮が早急に要求すると見られる鉄道建設事業だけでなんと158兆ウォン(約16兆円)
かかるそうだ。米国は北朝鮮再建のために国家予算を使うことはないと明言している。結局、北朝鮮支援は韓国と、
国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行(世界銀行)など国際機関の役割となるのだろうが、国際機関も北朝鮮を信頼できずに
手を引けば、韓国の負担がさらに増すことになる。
北朝鮮の核廃棄が段階的に行われることになれば、途中で話がこじれ、既に投入された資金まで失う恐れもあるだろう。
韓国は1994年の米朝枠組み合意で北朝鮮にだまされた経験がある。結局、軽水炉建設に韓国の資金ばかりが投じられ、
北朝鮮の核開発は継続された。今の北朝鮮をその時とは違うと信頼させるに足るものは何もない。当時の北朝鮮は実質的な
「核保有国」ではなかったが、今では堂々たる「核保有国」であると主張している。
韓国には感傷的な南北統一至上主義がある。統一さえすれば、いや南北がうまく行きさえすれば何でもできるし、
何を与えても惜しくはないという盲目的な「統一=平和」の等式が成り立っている。また、統一で韓民族が幸せになるという
結果が確かならばともかく、今の韓国には北朝鮮の指導層が誠実かつ偽りなく、韓国人と同じ気持ちで南北のことに向き合って
いるという確信はない。南北問題が終盤になって揺れているのも、北朝鮮を信じられない要因の1つだ。
それでも、「北朝鮮を警戒して疑うのが保守系メディアだ」「平和ムードに水を差すのが保守系メディアだ」
「平和の道を目の前にしながらためらっているのが保守系メディアだ」というのが彼らの主張だ。
信頼の歴史がない未踏の道に手放しで浮かれ、数百兆ウォン(数十兆円)を投じるのは、保守の道でも進歩系や左派の道でもない。
この道が平和への道であったとしても、韓国が骨抜きになるような対価を支払わなければならないのであれば、
ためらうのが正常だろう。もし、盧武鉉元大統領が就職や日々の暮らしに悩む今の若者たちに「経済のことでは騒いでもいいから、
南北問題にすべてを賭けよう」と言ったら、韓国の若者をはじめとする国民は果たしてどんな反応を見せるのだろうか?