【オピニオン】中国の台頭は高齢化で終わる
めぐる中国との口論は長引いているが、関税撤廃の合意が実現し、次の段階に進んだとしてみよう。
そうすれば、次の問題に取り組むことができる。それは、国民1人当たりの国内総生産(GDP)が
メキシコ以下である中国が、その経済規模と影響力において、米国を上回る現実的可能性があるのか
という問題だ。その可能性は、警戒感を生む。しかし、われわれは以前にも、同様の状況に置かれた
ことがある。「Trading Places: How We Are Giving Our Future To Japan」のような本のことを
覚えている人がいるだろうか。私も覚えていない。全ての国の行き着く先は人口動態で決まると
いうのが現実だ。
筆者は最近、サンフランシスコで開かれたソーン・カンファレンスという会合に参加した。
同会合は、慈善事業の資金集めのためにヘッジファンド・マネジャーたちが最良の投資手法を
競うものだ。話題の中心は、株価が急落した企業や3年以内に価値の倍増が期待される隠れた
クラウド・ソフトウエア企業に関するものだった。しかし、コモンウェルス・アセット・
マネジメントのアダム・フィッシャー氏は、何十年にもわたる中国のトレンドについて話した
(私はフィッシャー氏と直接会話していない。ばかばかしい証券関連の法律によって、資金集めの
会合でファンドが一般向けにマーケティングを行うことは禁止されている。従って、私のメモに
頼らざるを得ない)。
中国の労働年齢人口はピークに達したか、それに近い状況にあることが判明している。
これは、厄介な「一人っ子政策」によるものだ。中国政府にとってさらに悪いことには、
国連開発計画(UNDP)の予測によれば、同国の65歳以上の人口は2015年の1億3500万人から、
2040年には3億4000万人へと2.5倍以上に増えるとみられている。これは総人口の21%に相当する。
退職者が相当な規模になるということだ。ちなみに現在の中国での定年は男性では60歳、女性では
55歳になっている。ただ、この年齢は徐々に引き上げられるとみられる。
これに対し、日本の65歳以上の人口は2015年に全体の26%に達した。しかし、よく言われるように、
日本は高齢化する以前に金持ちになった。中国はどうだろう。
政治経済学者のニコラス・エバースタット氏によれば、中国の労働者のうち、退職手当がある者の
比率は65%以下だ。出稼ぎ労働者の場合は35%以下になる。これは、支援が必要な高齢者が非常に
多くなることを意味する。
そして、ここからが予想の難しい部分だ。北京、上海、深圳、広州といった沿岸の大都市は既に、
生産性や購買力平価という点で、東アジアの富裕国に追いついている。フィッシャー氏はこのため、
同国の持続的成長が内陸部の改善に依存すると指摘する。同氏の計算によると、中国西部は今後
増える2億0500万人の高齢者を支えるため、全要素生産性を年8~10%上げなくてはならない。
それは、中国が反重力装置か永久機関でも発明しない限り、事実上不可能だ。
日本で起こったことを思い返してみよう。フィッシャー氏によると、日本の株式相場が1990年に
ピークに達して以降、日本の総労働時間は20%減少した。その間に、米国の労働時間は40%増加した。
日本の生産性は米国より「高かった」にもかかわらず、日本の名目GDPは停滞した。政府は刺激策で
介入せざるを得なくなったが、その効果はだんだんと薄れていった。
日本の債務残高は対GDP比238%という驚くべき水準にまで上がっている。一方で、金利は
下がっている。金利低下の影響は、円高によって部分的に相殺されている。
そこで、多くのヘッジファンドが素晴らしき「キャリートレード」を活用した。これは日本で
低金利の資金を借り入れて、どこか別のところに投資する手法だが、より高い通貨で借り入れ分を
返済するときに、幾分のレバレッジ効果が失われる。
フィッシャー氏は中国でも似たようなことが起こるだろうと考えている。中国の公共部門
―そう、共産党のことだ―がGDPの不足分を埋め合わせようと景気浮揚を図る中で、金利は下がり、
その後さらに低下するとみられるからだ。フィッシャー氏は金利がゼロに向かっていくだろうと
考えている。
それはなぜか? ここに米連邦準備理事会(FRB)が一般化した見解がある。それによれば、
「平均寿命の伸びにより貯蓄が全般的に増加して消費が抑えられる結果、Rスター(自然利子率)に
下押し圧力がかかる」というものだ。また退職者の増加は生産の減少を意味し、したがって政府は
生産の減少に伴い、刺激策による介入が必要になる。
中国の通貨も要因の1つである。人民元相場は円と同じように上昇するとみられ、
「キャリートレード」の新たな大きな機会をつくり出す。しかし、だれも予想はできない
(それがマクロ投資家のパフォーマンスにむらがある理由だ)。覚えておくべきは、中国が日本と
異なり、豊かになる前に高齢化することだ。さらなる低金利は元の一層の下落を意味する可能性がある。
あるいは、そうした状況は、自国通貨の防衛策としての金利引き上げを意味するかもしれないが、
中国経済をさらに傷つける恐れがある。それはまさに板挟み状態だ。
これは投資に関する興味深い理論というだけでなく、国際的な意味合いもある。中国は製造分野で
大国だが、それはいつまで続くのだろうか。賃金上昇は同国が持つ比較優位が失われることを意味する。
生産性の向上が唯一の希望だ。ロボットを検討すべきだろう。
一人っ子政策と異なり、生産性は法制化ができない。生産性を上げられるかどうかは、報償措置と
財産権を活用して新たなものを開発し、真の問題を解決する優秀な人材にかかっている。
ラリー・クドロー米国家経済会議(NEC)委員長は昨年開催されたウォール・ストリート・
ジャーナル(WSJ)のCEOカウンシルで、中国の「国家主導型経済は失敗に帰する運命にある。
絶望的だ」と指摘した。国民が高齢化するにつれ、クドロー氏とフィッシャー氏の見解が正しい
ものかどうか分かるだろう。
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中国の人口問題、認識以上に深刻
【北京】中国の指導層はあまりに急激な人口増加に長らく懸念を抱いていた。今では正反対の
心配をしている。同国の出生率は世界で最も低い部類に入るのだ。しかも、人口問題は考えられて
いるよりも深刻であることを、最近のデータは示唆している。
年齢の中央値が上昇するなか、退職者を支える労働者は減る一方だとの見通しが今後の中国経済に
大きな影を落としている。
1970年代には、中国の年齢中央値は米国を10歳近く下回っていた。それが上昇したため、
中国政府は「一人っ子政策」(急速すぎる人口増加への懸念から80年に正式導入されていた)を
2015年末に撤廃。だが期待された出生数の増加はほとんど実現しなかった。
流れを変えるには遅すぎると話す人口問題専門家も
今年1月、中国国家統計局は18年に人口が13億9500万人に増加したと発表した。出生数は
1523万人だった。この出生数は17年より200万人少なく、公式予想の2100万人を30%ほど下回る。
一方、国家衛生健康委員会が最近公表した年鑑によると、18年の出生数はさらに低く、1362万人に
とどまった。
両機関は出生数の数え方が違う。健康委は病院のデータを使い、統計局は各地の調査から推計して
いるのだ。16年以降、同委の出生数推計はおおむね統計局のそれをやや上回ってきた。
ところが今年、同委の数字が統計局より大幅に低かったことは注目に値する。
健康委はデータの違いについて、流入出者の数え方が違うためだと説明したが、詳細は明らかに
しなかった。統計局はファクスでの質問に回答しなかった。
中国の政策担当者は、増加する退職者が家計貯蓄を食いつぶし、成長を妨げる脅威を十分に
認識している。それでも子供の制限は残っている。夫婦は子供を2人持てるが、それが上限だ。
政府は2030年からの人口減少を予想しているにもかかわらずである。
中国政府は、技術の進歩と自動化が生産性を押し上げ、若い労働者の不足を一部補うと主張してきた。
当局者は出産を奨励する措置を講じてきたが、長年の政策をあまりに急速に変えることには気が
進まないと話している。
流れを変えるには遅すぎると話す人口問題専門家もいる。ある中国人研究者は、自身の計算が
正しければ中国の人口減少は既に始まっていると述べた。
ウィスコンシン大学マディソン校の易富賢氏は、出産可能な女性の数や学校の入学者数といった
他のデータを出生数の推計と合わせて全体像を見ている。この方法を使い、昨年の出生数はわずか
1000万人前後と推計、人口が減少しているとの考えに至った。
易氏の結論を採り入れる専門家はほとんどいないが、多くの専門家は人口のピークが政府の
予想より早く到来するとの見解で一致している。
北京のシンクタンク、全球化智庫(CCG)の客員研究者、黄文政氏は「中国は向こう20~30年は
大丈夫だろう。だが、人口問題を解決できなければ大きなトラブルに陥る」と述べた。
同氏は世界各地に投資するヘッジファンド会社のパートナーでもある。
推計そのものを控えるケースもある。中国の家族計画当局(強制中絶や避妊など、一人っ子政策の
厳格な実施で知られる)に助言した経験を持つ人口統計学者の梁中堂氏は、信頼できるデータは
政府からしか得られないと話す。政府のデータが信用できないのなら、他の推計も同様だという。
補うために調整をしていた。
ウィスコンシン大学の易氏は引き続き、全ての出産制限を撤廃するよう政府に呼び掛けている。
「人口危機を示す兆しがこれだけあるのだから、政府が出産管理を続ける理由はない」
中国が人口データを水増ししているとの主張を裏付けるため、易氏は出生と入学のデータの相違を
挙げた。例えば2000年の新生児は統計局によると1771万人だったが、14年の中学入学者(14歳)は
わずか1426万人だった。2000年の乳児死亡率3%前後を加味しても、この大きな差は説明できない。
18年の中国の乳児死亡率は0.61%だった。
一部地方のデータに見られる不規則な動きも、出生数が信頼できないとの疑惑を裏付けている。
南西部の重慶市では、地元保健当局のデータで今年1-5月の出生数が44%減少した。それが6月に
跳ね上がり、1カ月で前5カ月の合計を上回った。
同市の当局は原因を説明しておらず、コメント要請に応じなかった。
梁氏は、本当の出生数が分かるのは人口調査がさらに1、2回りした後だと見込んでいる。
中国では来年、10年に1度の人口調査が行われる。「データを偽造する必要はもうない」と梁氏は述べた。