英「ロシアに核の先制使用も辞さず」--欧州にもくすぶる核攻撃の火種
Russian Senator: U.K. Will Be 'Wiped Off the Face of the Earth' If It Uses Nuclear Weapons
<イギリスのファロン国防相が「核兵器の先制使用も選択肢」とロシアを威嚇。ロシア側はイギリスを「地上から抹殺する」と応酬するなど、
ヨーロッパでも緊張が高まっている>
ロシアの政府高官がイギリスに噛みついた。イギリスの防衛相がロシアに対する核兵器の先制使用も選択肢になると
示唆したのに対し、ロシアは直ちに反撃し、イギリスを壊滅させると応酬した。
ロシア上院国防安全保障委員会のフランツ・クリンセビッチ委員長は月曜、「ロシアの反撃を受けてイギリスは文字通り
地上から抹殺されるだろう」と言った。ロシアのモスクワ・タイムズ紙によると、マイケル・ファロン英国防相はそれより前
に英BBCのラジオ番組に出演し、イギリスは核による先制攻撃も辞さないと発言した。
「極限まで差し迫った状況になれば、先制攻撃の手段として核兵器を使用する選択肢を排除できないという立場を、
我々は非常にはっきりと示してきた」とファロンが同番組で語ったと、英インディペンデント紙が報じた。
核兵器の使用が正当化されるのは具体的にどんな状況かと司会者が尋ねると、ファロンはこう切り返した。「抑止力で
最も重要なのは、我が国を標的にして核兵器を使用する意図がありそうな敵に対し、(もしかすると相手も撃ってくるかも
しれない、と)躊躇する余地を残すことだ」
イギリスは核兵器保有国9カ国に含まれ、保有する核弾頭数は推定215発。一方、世界最大の核兵器保有国とみられ
るロシアは、推定7300発の核弾頭を保有、核戦力の増強も計画中だ。クリンセビッチはファロンの脅しは口だけだと一
蹴した。
対立が深まるロシアと西側諸国
クリンセビッチは第二次大戦末期の1945年に、アメリカが日本の広島と長崎に原子爆弾を投下したことにも言及。偉大
な大英帝国の時代が終焉したように、核攻撃で一方的に勝てる時代は永遠に過ぎ去ったと言った。米カリフォルニア大
学ロサンゼルス校のアジア・アメリカ研究センターによると、日本での原爆投下により少なくとも22万5000人以上が犠
牲になった。
イギリスは、アメリカやフランス、ドイツなど多数の西側諸国と足並みをそろえ、クリミア併合以来のロシアの著しい拡張
主義に批判を強めてきた。NATO(北大西洋条約機構)とロシアはヨーロッパの国境付近で軍備増強を進め、挑発的だ
と互いを非難している。
アメリカは昨年、ロシアの軍事的圧力の高まりに対抗してNATOの防衛力を強化するため、バルト3国(リトアニア、ラト
ビア、エストニア)とポーランドに4つの多国籍軍部隊を展開した。ロシアはリトアニアとポーランドの間の飛び地カリーニ
ングラードに核搭載が可能なミサイルを搬入し、バルト海周辺で軍事演習や訓練を繰り返している。
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ロシアが東欧の飛び地カリーニングラードに核ミサイル配備?
Are the New Russian Missiles in Kaliningrad Armed With Nukes?
核搭載が可能な弾道ミサイル「イスカンダル」 -REUTERS
NATOにとって極めて憂慮すべき事態だ。ロシアは10月初め、リトアニアとポーランドの間のロシアの飛び地カリーニン
グラードに、核弾頭搭載可能な弾道ミサイル「イスカンダル」を配備した。
バルト3国とポーランドにはさまれたカリニングラード。東はロシアだ Google Map
カリーニングラードはバルチック艦隊の母港で、大規模な軍事施設が集中している。
NATOはロシアへの抑止力強化を念頭に、17年以降にポーランドとバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)で多
国籍軍部隊を展開し、東欧でのミサイル防衛(MD)を強化することを表明していた。ロシアはNATOの決定を安全保障
上の脅威とみなし、対抗してイスカンデルを持ち出してきた、というのが大方の見方だ。
ワルシャワも射程内
射程距離が500キロのイスカンデルは、ポーランドの首都ワルシャワ、リトアニアの首都ビリニュス、ラトビアの首都リ
ガまで届く。改良で最大射程が700キロに延びた新型になると、ドイツの首都ベルリンも射程に収める。
NATOがさらに懸念するのは、イスカンデルは通常弾頭の他に、射程が500キロ以下の核ミサイルや核弾頭などの
「戦術核」を搭載できる点だ。イスカンデルの配備は1987年に米ソが署名した「中距離核戦力全廃条約」違反の恐れが
あるが、ロシアは気に留める素振りもない。
実際に核弾頭が搭載されているかどうかは明らかになっていないが、ロシアは過去にもMD防衛システムを配備する
周辺国に対して核攻撃の可能性をちらつかせて脅した経緯があり、今回もまた脅しである可能性は払拭できない。
ロシア政府は、イスカンデル配備は一時的なもので軍事演習の一環と説明した。確かに似たようなことは以前もあった
が、今回は配備の規模が大きい。NATO加盟国は、ロシアがいよいよカリーニングラードに核兵器を実戦配備するので
はないかと警戒を強めている。
エストニアのリホ・テラス国防軍司令官は、ロシアの動きについて「(ロシアが)バルト海沿岸での支配力を強化し、軍備
を増強する」計画の一環だとみる。
これは根拠のない空論ではない。カリーニングラードは長年バルト海の東岸でロシアが進めるA2/AD(接近阻止・領
域拒否)戦略の要衝として機能しており、イスカンデルには大規模な軍事部隊や軍事基地、都市などに命中する精度が
ある。
NATO加盟国はイスカンデル配備を激しく批判した。だがNATOがミサイル発射の脅威にどう対抗するのかは不明だ。
仮に新たな抑止策が可能になっても、NATOとロシアの対立が一層高まることは避けられそうにない。