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国際空港大混乱で香港に迫る軍隊出動のXデー。  福島 香織

2019-08-16 07:30:26 | 中国・中国共産党・経済・民度・香港

国際空港大混乱で香港に迫る軍隊出動のXデー

デモを“テロ”認定し「手加減や情けは無用」と警告
 
2019.8.15(木)     JBpress  福島 香織(ジャーナリスト
 

香港国際空港に集まったデモ隊と警官(2019年8月13日、写真:The New York Times/Redux/アフロ)

 

 アジアのハブ空港である香港国際空港がえらいことになっている。8月5日に行われたゼネストで

200便が運休になったのに続き、8月12日、13日と空港内で行われた数千人規模のデモを理由に

空港側は断続的に全便欠航に踏み切った。2日合わせて600便前後が欠航となった。13日深夜には

数十人の警官隊が空港構内に突入。空港構内でペッパースプレーや警棒を使い、デモ隊と激しく衝突した。


 デモ側も香港政府側も、香港のハブ空港機能をマヒさせ、国際社会を巻き込むことで、双方の

暴力性と不条理を訴えようと目論んでいる。だが、ここにきて中国がこれまでの姿勢から一転、

香港デモを「テロ」扱いし、武力鎮圧をちらつかせながら干渉の意志を見せ始めてきた。


 6月9日に100万人デモを成功させ、米国民主党議員のナンシー・ペロシに「美しいデモ」と

言わしめた香港の整然とした「反送中デモ」は、2カ月の間、警察の暴力に対抗する形で、

ゼネラルストライキや交通機関の妨害、警察施設の襲撃といった“暴力性”を増し続けている。

そのことが、中国に人民解放軍・武装警察出動という大暴力行使の口実を与えることになるかもしれない

と、国際社会も固唾を飲んで見守っている。


女性「失明」で殺気立つデモ参加者

 当初、香港国際空港内のデモは、各国言語でデモ隊の主張を掲げて座り込む比較的穏当なものだった。

空港では8月9日から「万人接機(みんなで飛行機を迎えよう)」集会が呼びかけられ、デモ集会の

許可を得ないまま数千人が空港構内で座り込みを行っていた。


「万人接機」集会は3日間のはずだったが、11日に尖沙咀で行われたデモで、女性が至近距離で

ビーンバック弾を顔に撃たれ右目が失明する重傷を負ったことから市民の怒りが拡大。

12日以降も空港内デモが継続された。12日のデモは、右目に包帯を当て、失明した女性を象徴する

姿のデモ参加者もあり、殺気だってきた。


 空港側は、搭乗手続きに支障が起きていると判断し、午後から離発着便の取り消しを行い、およそ

150便が離発着を取りやめた。香港警察の特殊装甲車両が空港に向かったという情報もあり、

一時緊張が走った。


 8月13日も空港デモは継続され、一時、運行再開するも、結局、空港側は結局全便運行取り消しと

なった。8月12~13日の2日間、合わせて600便前後の運行がキャンセルとなった。

航空機の離発着が取り消され、再開のめどが立たないことで、搭乗できず疲弊した旅客が空港構内に

あふれた。香港政府および空港側は、こうした混乱はデモ隊のせいと非難しているが、出入境の

旅客に対してメッセージを掲げるだけのデモを理由に、全便欠航措置をとる必要はなかったと空港の

対応を非難する声も聞かれた。

13日には空港で待機している旅客に対し、デモ参加者が飲料を配りながら、理解を求める姿も見られた。


デモ隊の中に混じる私服警官

 だが13日深夜、武装した香港警察数十人が「負傷した旅客」救出目的に空港内に突入し、

ペッパースプレーや警棒を振るう警察と、荷物用カートで対抗するデモ隊が激しく衝突した。

この混乱はボイスオブアメリカ(VOA)などがライブで中継していたが、14日未明まで続いていた。


 このデモ隊と警察の衝突を引き起こした「負傷した旅客」とは、立場新聞などの報道によれば、

中国から来た私服公安警察の可能性がある。13日夜7時ごろ、深センから香港空港に到着した男性客が

座り込むデモ隊と言い争い、躓いた拍子に、バックパックから棍棒が出てきたことから、デモ隊が

男性客を拘束。財布を調べたところ、深セン公安の身分証明書が発見された。デモ隊は男性客を

取り囲み、カートに縛り付けるなどの暴行を働いた。この男性は数時間後、警官隊とともやってきた

救急隊員によって救出され救急車で搬送された。


3日、香港国際空港で行われた大規模な抗議デモで、参加者らは中国当局の公安警察とみられる男性1人を取り囲んだ


 ままた、人民日報傘下の環球時報ウェブサイト版記者、付国豪がデモ隊に紛れて取材中、香港警察

支持のTシャツを持っていたことがみつかり、デモ隊に囲まれ、暴行され拘束された。

付国豪が「私は香港を愛している。香港警察を支持している。殴ればいい」と挑発し、カートに

くくりつけられる様子の映像がネット上で流れた。付国豪はその後、警察と救急隊員に救出された。

ひどいけがはなく、その後も取材を続行している模様。環球時報の主筆の胡錫進はツイッターで、

あらゆる記者への暴力を非難した。暴行を働いたデモ隊は、当初、付国豪をニセの記者だと思って

いたようだ。


デモ隊の中に私服警官が混じり、デモ隊の暴力を誘発したり、いきなり逮捕をしていた

ことは8月11日の銅鑼湾でのデモで発覚しており、デモ内に紛れ込んでいる扇動者や“スパイ”に対して

過敏になっていたことが行き過ぎた暴力を招いたようだ。


デモ鎮圧の方法が過激で暴力的に

 ちなみに8月に入って、香港警察は、デモ隊内への「潜入捜査」による陽動作戦や、暴力的鎮圧を

エスカレートさせている。背景には、昨年(2018年)11月に早期退職制度で引退していたタカ派

警察幹部、アラン・ラウ(劉業成)元警察副総監が8月9日付けで臨時警務処副処長として現場に

復帰したからだとも言われている。


 ラウは雨傘運動、旺角騒乱(魚丸革命)などの鎮圧を含め、これまでも強硬な対応で成果を上げて

きたほか、2017年7月の香港返還20周年記念で習近平の香港訪問中の警備責任を任されるほど、

習近平政権からの信任も厚い。今回、臨時に現場復帰したのは、香港デモ対応に、中国当局の信任の

厚いラウを責任者として強硬路線を復活させるためと言われている。


 このラウ路線によって、8月11日には、地下鉄太古駅の狭いエスカレーター通路で催涙弾を

使用したり、深水埗のデモに対しては一般車を装って近づき、いきなり鎮圧をしかけたり、

尖沙咀のデモ隊では、至近距離からのビーンバック弾をデモ隊の顔面目掛けて打ちこみ女性を

失明させたり、銅鑼湾のデモに私服で紛れ込み、デモ隊を背後から襲って逮捕するなど、今までなかった

過激で暴力的な方法でデモ鎮圧が行われた。


 暴力をエスカレートさせる警察側にも言い分はある。香港の警察官は現状3万人程度で、2カ月以上

続くデモに疲弊しきっており、ケガ人も続出。7月14日の沙田で発生したデモとの衝突では、警官が

指を抵抗するデモ参加者にかみちぎられて負傷し、8月11日のデモで火炎瓶を投げつけられた警官が

ひどいやけどを負った。そのほか、デモ隊のレーザーポインターが目に当たり網膜剥離などの負傷をした

警官が9人いるという。


 トイレに行く時間も食事をとる時間もなく、炎天下で25キロ前後のフル装備のまま30時間以上

デモ隊と対峙し、もみ合った末、疲労困憊で屋外でそのまま倒れ込んで寝込む警官の姿も見かけられた。

警官たちにしてみれば任務を全うしているだけだが、市民からは暴力の権化のように罵倒を浴びせ

かけられ、ストレスも限界に達していたと見られる。こうした警官自身の不満やうっぷんが、ラウの

現場復帰にともなって、デモ隊への暴力鎮圧路線を後押しすることになったと言えそうだ。


「手加減や情けは無用」と警告

 一方、こうしたデモ隊と警官の衝突状況を見て、これまで抑制的な態度を維持していた中国側は

干渉の意志を見せ始めた。広東省あたりから私服公安警官を送り込んでいる状況は6月から指摘されて

いたが、7月末ごろから解放軍出動の可能性をちらつかせ始めている。


 解放軍香港駐留部隊のSNS微博・オフィシャルアカウントは7月31日、暴徒を鎮圧する演習の様子を

「香江(香港の旧名)を守る」とのタイトルをつけてアップ。装甲車や高圧放水、催涙弾で逃げ惑う

デモ隊役の兵士を鎮圧する訓練の様子を見せつけた。


 国防部は7月24日の記者会見ですでに駐軍法に基づいて解放軍が香港の治安回復のために出動する

可能性に触れている。また国務院香港マカオ事務弁公室の楊光報道官が8月12日、「香港の過激化する

デモが様々な危険な道具を使って警官を攻撃しており、“テロリズム”の萌芽が表れ始めている」と、

初めて「テロ」という言葉を使用。デモ隊について「心神喪失の狂気」と表現し、この種の暴力を

鎮圧するためには「手加減や情けは無用だ」と激しい警告を発した。


 8月7日には国務院香港マカオ事務弁公室が香港の政財界関係者500人を集めた会議を開催し、

香港への対応についての方針を説明した。このときの冒頭で、弁公室主任の張暁明が香港のデモを

「カラー革命」(旧共産圏諸国で起きたアメリカ主導の政権交代)に例え、「中央は十分な方法と

十分強大なパワーをもって出現し得る各種動乱を平定するだろう」と恫喝。

また会議で張暁明が「鄧小平が今の香港で起きている動乱をみたら、きっと北京が干渉する判断を

下すだろう」と語っていたと会議参加者が伝えている。これは天安門事件における戒厳令発令と

武力鎮圧を成功体験としている習近平政権が、香港で同様の動乱が出現すれば、再び同じ判断を取り

うるということを香港関係者に説明したということではないか。


 また、解放軍指揮下にある武装警察の部隊が深センで集結しているという情報が米国情報当局に

寄せられていると、トランプ自身がメディアに語っている。実際に、8月9日あたりから深センに

武装警察の装甲車や高圧放水車が続々と集結している様子が目撃されており、映像もネットで

アップされている。


国際社会が注目する中国の出方

 こういった状況を整理すると、中国共産党内部では、香港のデモを相応の武力を使って一気に

鎮圧するという選択肢も視野に入れていれてきているようである。実際、疲労困憊の香港警察だけでは、

長引く香港デモに対応する体力がもたないとなると、中国の警察かあるいは軍や武装警察の応援部隊を

送り込む可能性は今の段階ではゼロと言い難い。


 だが、そうなると、香港の一国二制度は完全に崩壊する。それどころか、米国はじめ国際社会が

対中経済制裁に踏み切る可能性もあり、我々の想像を超える事態に発展しかねない。


 張業明が「カラー革命」に例えていることからもわかるように、党内ではこの一連の香港の問題の

背後に米国が糸を引いているとの疑いを持っており、香港問題を米中対立の延長として考えるならば、

中国としても簡単には譲歩や妥協ができない。


 中国で現在開催中の北戴河会議(党中央の長老・現役指導部による秘密会議)でも、おそらく

香港問題への対応方針は話し合われていよう。会議が終わる今週末、中国の出方が決まるかもしれない、

と国際社会は神経をとがらせている。


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