トルコより危険? テンセントの「異変」に注意
2018 年 8 月 16 日 01:13 JST THE WALL STREET JOURNAL
――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」 By Jacky Wong
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中国インターネットサービス大手テンセントは年初来、1700億ドル(約18兆8300億円)の時価総額をすでに
失っている。だが4-6月期(第2四半期)決算が予想外の減益となったことで、投資家はテンセントの先行きを一段と
悲観すべきなのかもしれない。テンセントに長らく立ちはだかってきた政治リスクが足元で鮮明になっていることを
踏まえると、なおさらそうだ。
テンセントの4-6月期純利益は前年同期比2%減少し、2005年以降で初めて前年実績を下回った。投資収益が
落ち込んだことも一因となった。
だが、より危惧されるのは、売上高がS&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスのまとめた市場予想を
5%も下回ったことだ。主因は、売上高全体の約4割を占めるゲーム収入の伸びが鈍化していることにある。
特にスマートフォン向けゲームの収入は前年比19%増にとどまり、1-3月期の68%増から伸びに急ブレーキがかかった。
真の懸念は、プレーヤーがゲームで利用するために購入する追加アイテムの販売という、テンセントの主力事業への
障害が増大している点にある。その典型的な例が人気スマホゲーム「プレイヤーアンノウンズ・バトルグラウンズ
(通称PUBG)」だ。テンセントはこの人気タイトルのゲーム内アイテム販売の許可を中国当局からまだ得ていない。
テンセントのヒット作「オーナー・オブ・キングス(王者栄耀)」などからPUBGに移るゲームファンが増える一方で、
テンセントはまだPUBGから利益を確保するには至っていないのだ。
楽観的な向きは、こうした問題は、3月の習政権の陣営刷新後にみられる中国の非効率な官僚主義によるもので
しかないと考えたいかもしれない。だが現実には、中国当局内でビデオゲームへの強硬姿勢が強まっていることが
原因である公算が大きい。国営メディアではこのところ、ビデオゲームが社会問題を招いているとして批判的な
論調が目立つ。テンセントが中国で独占配信権を持つデスクトップパソコン(PC)向けPUBGの承認についても、
まだ当局は判断を下していない。世界的なヒットとなったカプコンの「モンスターハンター:ワールド」も、
当局がライセンスを取り消したことで、テンセントは今週、販売停止に追い込まれた。
中国当局がビデオゲームを全面禁止とすることはないだろう。だがゲームの中毒性を制限するために対策を講じる
可能性は十分にある。そうなれば、テンセントの中核事業の売上高をさらに下押ししかねない。
こうした状況はすべて、テンセントの業績見通しに暗い影を落とす。だがそれでも、MSCI新興国指数で最も比重の
大きいテンセントの予想PER(株価収益率)は依然として32倍の水準だ。しかもテンセント株31%を保有する
南アフリカのメディア関連持ち株会社ナスパーズも、このMSCI新興国指数に組み入れられており、
投資家への影響はさらに増幅される。
新興国資産に資金を投じる投資家は今、トルコ情勢の混乱から目が離せないかもしれない。だが深まるテンセントの
苦境も、トルコを上回るとまではいかずとも、同程度の痛みをもたらす恐れがある。
テンセントに監視の目、中国政府の脅威に。 SNS「ウィーチャット」の普及で反政府活動を警戒
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テンセント株売り込まれる-フェイスブックに続き市場に衝撃
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4-6月純利益は2%減と予想外の減益、ADRが一時10%安
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中国当局のゲームライセンス承認凍結も影落とす
中国のテンセント・ホールディングス(騰訊)が15日発表した4-6月(第2四半期)決算は、市場予想に反して
減益だった。ニューヨーク市場で取引されている同社の米国預託証券(ADR)は一時、前日比10%急落した。
米フェイスブックが先月発表した決算も売上高やユーザー数がアナリスト予想に届かず、株価がその後に
歴史的な大幅安を記録。株式相場の上昇をけん引してきたテクノロジーのスーパースター企業が事業運営に
苦慮している兆しが示された。
事情に詳しい関係者によると、中国は政府機関間の権限見直しに伴い、新たなゲームの認可を凍結。こうした
動きはテンセントにとって一段の圧力となる。
同社の時価総額は1月のピーク時以降、1600億ドル(約17兆7000億円)余り減少した。
テンセントは同社のメッセージサービス「微信 (WeChatウィーチャット)」に利用者を引き寄せ、
維持するために新たなコンテンツを重視している。
同社はまだ、「フォートナイト」や「プレイヤーアンノウンズ・バトルグラウンズ(PUBG)」など世界的に
人気の高いゲームを自社の利益にしていない。
同社の劉熾平社長は電話会議で、「売り上げの伸びで見れば、ゲームは特に弱い部分だ。主力ゲームを
まだ収益化できていない」と発言。「今回のことは、われわれで手に負える範囲をやや超えているが、いずれ解決
できるだろう」と述べた。
中国当局は今週テンセントに対し、発売間もないゲーム「モンスターハンター:ワールド」を
PCダウンロードサービスから除外するよう命じた。
コンサルティング会社パシフィック・エポックのアナリスト、ベンジャミン・ウー氏(上海在勤)は
「決算内容は非常に悪かった」とし、モンスターハンターに関する当局の措置は「テンセントでさえ規制当局の
取り締まりを免れることはできないことを示している」と述べた。
原題:Tencent Stuns With First Profit Drop in at Least a Decade (1)(抜粋)