「一帯一路」が招いた中国離れ-対中債務が選挙戦の争点となる国も
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「われわれはやけどしたのだ」とモルディブ経済開発相
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ブラジル大統領戦では反中姿勢のボルソナロ氏が勝利した
インド洋に浮かぶ島国モルディブのヤミーン大統領(当時)は8月下旬、2つの島を結ぶ長さ
2.1キロメートルの海上橋「中国モルディブ友好の橋」の開通を祝った。中国勢が建設したこの橋を
「明日とその先にある好機につながるゲートウェイ」だと歓迎した。
だがその1カ月後の大統領選挙でヤミーン氏は敗北。政権交代を果たした新政権が目にしたのは
借金の山だ。大統領時代に反対派や判事を投獄していた親中派のヤミーン氏は、この海上橋に加え、
主要空港の新滑走路や住宅開発、病院の建設で中国側から巨額の借り入れを行っていた。
Belt and Road
China’s modern-day adaptation of the Silk Road aims to revive, and extend, the ancient routes
Source: Belt and Road Portal, China's National Development and Reform Commission
ニューデリーを最近訪れたモルディブ当局者が口にしたのは、国内総生産(GDP)の20%近くに
相当するあまりにも大きな対中債務と説明不可能な前政権の「一帯一路」偏重に対する不満だ。
中国の習近平国家主席が肝いりで進める広域経済圏構想を重視するあまり、前政権は5400万ドル
(約61億円)での病院建設応札を拒否し、1億4000万ドルという「水増し」された中国案を選好していた。
「われわれはやけどしたのだ」とモルディブのイスマイル経済開発相は嘆く。
北京城建集団が造った国際空港の滑走路(モルディブのフルレ島)
一帯一路を巡りトラブルに陥ったのはツーリストのパラダイス、モルディブだけではない。
あまりに気前のよい融資にアジアの貧しい国は飛び付いたが、汚職疑惑や不平等感の高まりが有権者の
怒りを招き、当局による調査やプロジェクト中止に至った国も多い。
ジャーマン・マーシャル財団アジアプログラムのアンドルー・スモール上級研究員は
「一帯一路の第一段階は事実上終わった」と指摘。「新たなモデルはまだ見えないが、スピードと規模に
ほぼ全面的に焦点を絞った古いモデルはもはや持続可能ではない」と言う。
中国当局は不正の例を認識しており、世界で展開するインフラ整備計画を微調整していると、
匿名を条件に取材に応じた中国政府高官は説明する。不適切なプロジェクト執行は中国の評判を傷つける
恐れがあり、反中感情の広がりを招きかねないと認めている。
アジア各国での対中感情の変化はすでに明白になりつつある。何十年にもわたり常に中国と強い
同盟関係にあったパキスタンでは、中国の投資に怒った過激派が11月、カラチにある中国総領事館を
襲撃し7人が死亡した。
スリランカでは主権を脅かすまでになった中国の経済的影響力への反発が拡大しつつある。
ミャンマー政府の顧問は中国が支援する港湾開発で中国側がはじき出した75億ドルという全体費用を
「ばかげている」と批判。この契約は前の軍事政権時代に結ばれていた。
5月のマレーシア総選挙を経て首相に返り咲いたマハティール氏は選挙戦を通じ中国からの投資に
疑問を呈していた。首相就任後、北京を訪れた同氏は新たな形の「植民地主義」は望まないと明言。
マハティール政権は200億ドル規模の中国による鉄道プロジェクトを中止し、その後も総額30億ドル相当の
中国が支援する3つのパイプライン計画を取り消した。
一帯一路に早くから反対していたのはインド政府だ。領有権が争われているカシミールの一部地域を含め、中国はパキスタンで600億ドル相当のインフラ整備に資金を提供している。
ワシントンの世界開発センター(CGD)は今年公表したリポートで、中国のファイナンスで
重債務に苦しむリスクに直面している8カ国を特定。
パキスタンやモルディブ、ラオス、モンゴルなどに加え、中国人民解放軍が唯一の海外基地を置く
アフリカのジブチも挙げられた。南シナ海の一角を巡り領有権で中国と対立するベトナムでは、
安全保障絡みのリスクが投資プロジェクトに影を落としている。
「チャイナバッシング」が国政選挙の焦点になろうとしている国もある。ユーラシア・グループで
アジアを担当しているケルシー・ブロデリック氏は、来年4月のインドネシア大統領選に向けた
選挙戦では中国の投資プロジェクトに対する厳しい検証が争点に浮上する可能性があるとみている。
「一帯一路にもろ手を挙げて賛同してきた現職候補に勝つため、世界中の候補者が中国への借金に対する
国民の懸念を利用している」との分析だ。
反中国を掲げ今年10月のブラジル大統領選で勝利したジャイル・ボルソナロ氏を例に挙げた
ブロデリック氏によれば、ケニアやザンビア、タイでも同じような論戦が展開される公算が大きい。
原題:How Asia Fell Out of Love With China’s Belt and Road Initiative(抜粋)