国民の怒り沸騰、大統領退陣要求デモに沈黙の文在寅
10月3日、ソウルの光化門広場には文在寅大統領の退陣を求める人々が集まった(写真:YONHAP NEWS/アフロ)
韓国の建国記念日で祝日だった10月3日。大統領府の鼻の先にある光化門(クァンファムン)で、
曺国(チョ・グク)法相と文在寅(ムン・ジェイン)大統領を激しく糾弾する大規模な集会が行われた。
光化門からソウル駅までの道路を埋め尽くした今回の人出は、朴槿恵(パク・クネ)前大統領を弾劾に
追いやったろうそく集会に匹敵する規模となった。
大統領府に押し寄せる退陣要求デモ
10月3日、野党の自由韓国党とウリ共和党、そして「文在寅下野のための汎国民闘争本部」の
保守3団体は、それぞれ光化門とソウル駅、市庁前で大規模な集会を企画した。集会開始は午後1時の
予定だが、その数時間前から光化門一帯は人、人、人で溢れていた。あまりの大群衆に、駅ホームでの
事故を懸念したソウル地下鉄公社は、集会地域を通過する5号線の光化門駅に列車を停車させずに
通過させるという非常運行を余儀なくされた。ちょうど昼食時間を迎え、光化門一帯の食堂やコンビニの
前には集会参加者が長蛇の列をなして、携帯電話とデータ通信が利用者の急増で一時不通になるほど
だった。
そしていよいよ午後1時、自由韓国党が主催する集会で壇上に立った黄教安(ファン・ギョアン)
党代表との羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)院内代表は、予想をはるかに超える人波に鼓舞されたかの
ように、声を高めて演説を始めた。
「(曺氏は)聴聞会の時からむいてもむいても(疑惑が)出てくるタマネギだと思いましたが、
その後も毎日10~15件ずつ新しい(疑惑の)証拠が出ています。そんな人を法相に任命するなんて、
(文大統領が)正気だと思いますか?」(黄教案)
「先週、瑞草洞の最高検察庁の前に集まった(曺氏の)支持者は200万だと彼らが言いました。
なら、今日、(集まった)私たちは2000万にはなるんでしょうね、皆さん!」(羅卿瑗)
同じ時刻、自由韓国党集会の裏の教保(キョボ)文庫前に設けられた「文在寅下野のための汎国民
闘争本部」の集会現場では、洪準杓(ホン・ジュンピョ)元自由韓国党代表が「文在寅弾劾決定文」を
朗読していた。
「<主文>国民の名で文在寅を弾劾する。
文大統領は、憲法3条の内乱罪(刑法87条)、外患誘致罪(刑法92条)、與敵罪(刑法93条)を
それぞれ犯した。国憲を乱し、ベネズエラ左派独裁を追従した半自由市場政策で民生を破綻させ、
陣営中心の左派優先と分割統治で国民分列を犯した・・・」
ソウル駅で行われたウリ共和党の集会では文在寅大統領の逮捕と朴槿恵前大統領の釈放を要求する
スローガンが叫ばれた。
三者三様の集会だったが、これらの集会に通底するのは、曺国法相と文在寅政権に対する参加者たちの
怒りだ。
「やろうと思えば曺国が子にしたのと同じことができるのに・・・」
自由韓国党の集会に参加するために江南からやって来たという6人の若い保護者らに話を聞いてみた。
それぞれの子どもがみんな同じ学校に在学中だというこの父兄たちは、「曺国に対する憤りを堪えられず、
参加した」と心情を述べた。
「私たちもやろうと思えば、曺国が自分の娘にやったようなことを我が子にしてやることができる地位に
ある。しかし、それは子どものためにならないと思って、我が子には自らの努力で大学に行くことを
勧めてきた。しかし、曺国を見て、私たちがただ子どもを苦しめているのではないかと後悔している」
彼らは、いわゆる韓国の上流10%の層が住むといわれる江南地域の住民たちで、彼らの子どもらは
同じインターナショナルスクールに通っているという。米国の市民権者で、夫が国際弁護士だと明かした
女性は、「曺国ほどのスペック(地位や富)は、我が父兄の間ではありふれている」とし、「我々は
(曺氏のような真似が)できないのではなく、正しくないことだからあえてやらないのだ」と強調した。
午後4時過ぎ、各団体が主導した公式集会が終わると、参加者たちは一斉に大統領府に向かって行軍を
始めた。行軍に乗り出した市民らの手には「曺国辞任、文在寅退陣」「曺国拘束、文在寅拘束」などの
スローガンが書かれたカードと太極旗が握られている。
行軍中に出会った50代の主婦は、息子が医大に通っていると明かした。
「今、医者たちも大騒ぎになったそうです。あんなにダメな子が医大へ入学できたら、私たちは医者を
どうやって信じることができますか。医師の信用を地に落とした曺国の娘の医学専門大学院入学を直ちに
取り消さなければなりません」
大統領府に向かって行進していたデモ隊は、大統領府手前の路地で警察のスクラムに塞がれ、
足を止めなければならなかった。この日、動員された警察は90個中隊の6300人にも上った。透明の
盾でスクラムを組んだ警官隊の中には、デモ隊を塞ぎながら、カメラを高く掲げる者もいる。
スクラムを突破しようとする市民に法的な責任を問うための証拠収集なのだ。この過程で、デモ隊と
警察の間でのもみ合いが起き、46人のデモ参加者が警察に連行された。
大統領府近くの路上で警察隊と対峙するデモ隊。デモ隊は深夜まで路上を占拠し、道端で仮眠をとる人もいた(筆者撮影)
警察に行進を阻まれたデモ参加者らは、その場に座り込んで「文在寅退陣、文在寅弾劾」を声高に
叫んだ。韓国メディアによると、警察が作った盾のスクラムは、彼らの声をさらに大きく鳴り響かせる
効果があるらしい。デモ隊の叫びは轟音となって辺りに鳴り響いた。2008年、狂牛病への懸念から
米国産牛肉の輸入再開に反対する大規模なろうそく集会が発生した際、大統領府の前まで押し寄せた
デモ隊の怒りの声は大統領府の中にまで聞こえたという。当時、李明博(イ・ミョンバク)大統領は
一晩中鳴り響く民衆の怒りの声を聞きながら裏山に登って「朝露(韓国の有名なデモ曲)」を歌ったと
涙ながら振り返ったことがあった。
退陣要求デモ参加者は300万人とも
ところで、この日、集会に参加した人数はどれほどになったのだろうか。自由韓国党は300万人だと
発表したが、警察は公式推定をしなかった。
一方、TV朝鮮は、警察が使用する「フェルミ技法」(3.3m2の空間に人が座ると6人、立っていると
9人で計算する方式)を使い、10~12車線の道路が長さ2.1キロメートルに渡って人々で埋め尽くされた
との観測から、約32万人と推計して見せた。これは2016年12月に当時の朴槿恵大統領の退陣を求めて
光化門を埋め尽くしたろうそく集会時に警察が推算した数字と同じだ。ちなみに、当時のろうそく集会の
主催側は、参加者を「170万人」と発表しており、警察がわざと人数を少なめに発表していると強く
反発した。それから、警察は集会人員の推定値を一切公開しなくなった。
筆者はこの日の集会に参加してみて、2016年のろうそく集会の熱気がもう一度再現されていると
実感した。というのも、保守団体の集会ではめったに見られなかった若者層や子連れの家族単位の
参加者があちこちで目立っていたからだ。さらにこの日、大学生らは、大学路(テハンノ)で大学連合で
独自のろうそく集会を開き、これまた5000人(主催側推算)の学生が参加する盛り上がりを見せた。
「光化門広場で徹底討論する」との発言は
2017年5月10日、光化門で開かれた大統領就任式で、文在寅大統領は次のように宣言した。
「この日は真の国民統合が始まる日として歴史に記録されるでしょう」
また、2017年2月に放送局がセットした大統領候補討論会では次のような話もした。
「そのようなことはないだろうが、(デモ隊が)退けと言うなら、私は光化門広場に出て市民たちの
前に立ち、徹底討論でもして説得するように努力を傾ける」
「デモの代表団を大統領府に招待し、十分に対話したい」
しかし、文在寅大統領府は、光化門集会について「特に言うことはない」と、一切沈黙を保っている。
9月29日に瑞草洞で開かれた「検察改革」の訴える支持者たちの集会について、「予想しなかった
多くの人たちが集まった」、「数多くの人たちが声をそろえたことを重く受け止めるべきだ」と言及した
時の態度とは明らかに違う。
文在寅氏の支持基盤とされる全羅北道から上京したデモ参加者ら。「従北剔抉」「文在寅退陣」「曺国拘束」などのカードを手にしている(筆者撮影)
一方、文大統領の支持者たちは戸惑いを隠せないようで、インターネット上では10月5日に開催
される「瑞草洞集会」に総動員令が急速に広がっている。そして、祝日の10月9日にはもう一度
光化門広場で曺国と文大統領を糾弾する集会が開かれる予定だ。
毎週のように、政権支持と政権糾弾のデモが代わり番こで繰り返される状況はいつまで続くのだろうか。
大統領就任から876日、韓国が真っ二つに分断された現状を、文在寅氏はどう受けとめているのだろう。
「保守団体角が生えた」3日、光化門広場で「ムン大統領下野、祖国司法長官を罷免」の大規模な集会...