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中国人の行動原理はこうなっている(その1)巨大市場を失ったドルガバが中国で踏んだ2つの地雷

2018-12-07 19:44:01 | 中国・中国共産党・経済・民度・香港

中国人の行動原理はこうなっている(その1)

巨大市場を失ったドルガバが中国で踏んだ2つの地雷

2018.11.24(土)   近藤 大介

伊ミラノで行われたファッションショーで拍手を受けるステファノ・ガッバーナ氏(奥、2018年9月23日撮影、)

 

 中国人民というのは、恐ろしいのである。ドルチェ&ガッバーナ(以下、D&G)の炎上事件を見ていて、

そのことを再認識した。


 話はいきなり大きくなるが、悠久の中国史において、王朝が滅亡するパターンは、概ね3通りしかない。

後継者争いを巡る宮中のお家騒動、強力な異民族の侵入、そして人民の蜂起である。


 いまの共産党政権は、「中南海」(最高幹部の職住地)でお家騒動が起こらないよう、10年に一度、

慎重にトップを変えている。例外は習近平主席で、今年(2018年)3月に憲法を改正し、国家主席の任期を

取っ払ってしまった。それに先立って、昨年7月には、有力後継者だった孫政才・前重慶市党委書記を

ひっ捕らえ、後顧の憂いを消している。


 また、異民族の侵入に関しては、21世紀の初めに当時の江沢民主席が、「わが国は歴史上初めて、

平穏な世を迎えた」と宣言した。どういうことかと言えば、中国は14カ国と陸の国境を接しているが、

その14カ国中、ただ1カ国たりとも、中国を侵略する意図を持っていないと確信したということだ。

中国人はそんな「幸福感」を、4000年の歴史上、ほとんど味わったことがなかったため、江主席が胸を

張ったのだ。その後、胡錦濤時代の2004年には、約4300㎞に及ぶロシアとの国境を完全に確定させ、

安心感はますます増した。


中国人民の怒りを噴出させないための4つの掟

 そんな中で、習近平政権が相変わらず恐れているのが、人民の蜂起なのである。

「水は舟を進ませもし、転覆させもする」(水能戴舟、亦能覆舟)という故事がある。

戦国時代の『荀子・王制篇』が出典で、君子を舟に見立て、人民を水に見立てているのだ。中国においては

古代から現在に至るまで、人民は常に執政者を恐れているが、執政者もまた人民を恐れているのである。

換言すれば、中国という国は、執政者と人民との不断の緊張関係の上に成り立っている。

 

それでも普段、人民の怒りが噴出しないのは、以下の4つの執政者側の自助努力による。


 第一に人民を強く抑え込み、第二に人民に適度のガス抜きを与え、第三に人民の「地雷」を踏まぬよう

気をつけ、そして第四に怒れる人民が一致団結しないようにしているからだ

。執政者側がこの4つの「掟」を1つでも破ったら、たちまち人民が暴発するリスクが高まることになる。


 ここから話を本題に戻すが、今回のD&Gは、あろうことか第三と第四の掟を破ってしまったのだ。

これは、中国の俗語で言うところの「完了!」(ワンラ)、すなわち「もうおしまい」というものだ。


 今回のD&G事件は、そもそもイタリアの高級ブランドメーカーのD&Gが、最大の顧客となりつつある

中国人富裕層に向けて、さらに販路を拡張しようとして、11月21日の晩に、上海で大々的なファッション

ショーを計画したことから始まる。


 折りしも同月5日から10日まで、上海では第1回中国国際輸入博覧会が開催され、初日には習近平主席が

演説して、「今後15年で40兆ドル(約4500兆円)分の製品、商品を輸入する」とブチ上げた。

加えて、これからやって来る「3つの商戦」(クリスマス、新年、春節)を控え、ファッションショーで

景気づけを行うには、まさに絶好のタイミングだった。


 D&Gは、ファッションショーの予告のため、4日前の17日から、自社のSNSで、プロモーション動画

『箸で食べよう』を、3つのバージョンでアップした。D&Gとしては、話題を呼ぶよう奇抜な内容に

仕上げたのだろうが、私は3本とも、見て唖然としてしまった。箸を持った中国人の女の子が、四苦八苦

しながらイタリアのピザとパスタとデザートを食べようとしている滑稽な映像なのだ。


世界最大の市場を一瞬にして失ったD&G

 同じイタリアの文化人で、作曲家プッチーニのオペラ『トゥーランドット』や、ベルトリッチ監督の

映画『ラスト・エンペラー』などでも、中国人蔑視を、端々に感じることはあったが、これほどひどくは

なかった。何も知らずにこの3つの映像を見たら、これらは反中に凝り固まったイタリアのネトウヨが

作ったものと思うに違いない。


 さらに、19日から21日にかけては、ガッバーナ氏が中国に対する差別的発言をSNSで行っていたことが、

次々に暴露された。「中国は無知で汚くて臭いマフィアだ」といった類いの発言だ。


 それらによって、中国2大ECサイトの天猫(アリババ)と京東が、D&Gのコーナーを削除した。

また、ファッションショーに参加予定だった女優の李冰冰(リー・ビンビン)や歌手の王俊凱

(ワン・ジュンカイ)などが、次々に不参加を表明。女優の章子怡(チャン・ツィイー)に至っては、

「今後二度とD&Gの商品を使わない」と、訣別宣言した。


 D&Gは、当初は「サイトがハッキングされた」などと言い訳をしていたが、23日になって謝罪文を

アップした。だが、すべては後の祭りで、D&Gは一瞬にして、世界最大の市場を失ってしまった。

 

こうした中国人の激しい反発の背景には、多くの人が指摘している「蔑視への怒り」の他にも、2つの要素が

あると、私は見ている。


 1つ目は、昨今の米中貿易戦争から来る人民のストレスである。3月22日にトランプ大統領が

「宣戦布告」し、7月6日に「開戦」した対中貿易戦争は、明らかにボディブローが効き、中国は

ノックアウトはされていないが、かなり足元がふらついてきている。特にダメージを受けているのは、

富裕層ではなくて庶民である。そうした貿易戦争による鬱々とした「人民のストレス」が、富裕層しか

手が出せないD&Gに対して炸裂したのである。つまり、D&Gは「人民のサンドバッグ」というわけだ。

D&Gの商品は中国人にとっての必需品ではないため、いまのところ習近平政権も沈黙を保っている。


「D&G批判」で政権への忠誠を示す芸能人たち

 2つ目は、范冰冰(ファン・ビンビン)事件の影響である。中国ナンバー1女優の巨額脱税事件の影響で、

中国の著名芸能人たちは現在、「2つの誓い」を迫られている。

1つは、習近平政権に対する誓いである。范冰冰は10月3日に発表した短い謝罪文で、「国家」という

単語を5回も挙げている。社会主義の中国においては、自由奔放に見える芸能人といえども、習近平政権の

有形無形の「庇護」のもとに生きている。だから芸能人たちにとって、D&Gを非難することは、

中国(習近平政権)に対する「忠誠」を意味するのである。


 もう1つの誓いは、中国人民に対するものだ。「芸能人たちは高額所得を脱税しているのではないか」と

白い目を向けられている中、「私は皆さんと同じ愛国者です」ということを示す絶好の機会が到来したので

ある。


 思い起こせば、イタリアと中国が交易を開始したのは、シルクロードが整備されたローマ帝国と漢帝国の

時代で、当時の両国は東西の両雄だった。


 だが、現在の中国はイタリアの約6.2倍のGDPを誇り、イタリアが唯一誇ってきた外国人観光客数でも、

ついに中国が抜いてしまった。その意味では、D&G炎上事件は、イタリア人の嫉妬心が招いた災いとも

言えるのではないだろうか。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54764