気の向くままに junne

不本意な時代の流れに迎合せず、
都合に合わせて阿らない生き方を善しとし
その様な人生を追及しています

(‘75 )9月15日 船の上から I'll Be Back

2022年09月15日 | 日記・エッセイ・コラム
宮平観光ホテルを出たのは午後1時頃で、そのままアルバトロスに行った。
いつもの海が見渡せる窓側の席に座り、冷珈琲を飲みながら海と空の色が溶け合った水平線を、そう…3時頃迄見つめていた。
『これが100日間の結果か…?ちょっと情けないな…』と思いながらも乗船券を買いに港へ出向き、そしてここ石垣島での最後の珈琲を飲みに再びアルバトロスへ戻った。
何度も何度も人を見送って、今私が出て行く番が来た。言葉にはならない不思議な気持ちで胸の中は一杯だ。
「また戻って来るよ」
私は言った。
「きっとまた、戻って来るよ」
「うん、そうしてよ。京子もじゅん(純子)もノリコも待ってるから」
貴代美は答えた。
何とも言えない気分のまま、「おとひめ丸」の待つ港へ足を向けた。

乗船した後、荷物を置いてデッキ中央へ出てみた。見送りに集まる人々を横目にしながら、アルバトロスを見つめていた。カーテンが開いて誰かが手を振ってくれないものかと思いながら…。でも、人影は米粒ぐらいにしか見えない距離なのに…。飛び交う紙テープが色鮮やかに船を飾り、別れ行く人々の心を通わしていた。
「ガンバレヨ」
「元気でね」
「また会いましょうね」
…なんて声が、乗船した人達に向かって送られる。寂しかった…というのが本音だろう。出来るものなら飛び降りたかった。何を恥じらう事も無く。
出港間際になった時だった。どこかで見た様な姿が二つ走って来た。京子とノリコだった。京子はなかなか私を見つけられずにいて、先に私を見つけたノリコか必死になって教えようとしていた様であった。その光景を見て私は思わず笑ってしまった。彼女達も気が付いた時には、やはり同じ様に笑っていた。互いに手を振り合い別れを交わす中、船は静かに、そして滑らかに滑り出す様に港を離れ始めた。船中を流れる『ほたるの光り』程別れに合った曲は、世界中を探してみてもあまり無いだろう。私自身も多分書き上げられないかも知れない。遠い北国の古い民謡が、今、南国の石垣島で私の胸を締め付ける。

デッキにいつ迄も立ち竦んでいた。やがて薄っすらと霧に包まれ辺りが暗くなってくると、徐々に島が私の視界から消え始めた。私は頭の中に地図を思い巡らせた。懐かしい日々、思い出の人達。見知らぬ者同士のお伽話し、今は走馬灯。
「また来るよ。きっと来るよ。必ず戻って来るよ…」
と、その浮かび来る顔の一人一人に囁いた。
船は静かに闇夜に向かって走っていた。夜中、2時頃迄寝付けなかった。
翌朝(16日…今朝)、朝食の為の船内放送で午前6時に目を覚ました時は、もう那覇迄あと僅かという頃だった。



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