気の向くままに junne

不本意な時代の流れに迎合せず、
都合に合わせて阿らない生き方を善しとし
その様な人生を追及しています

(’77) 5月11日 (水) 長い一日 (#1)

2023年06月11日 | 日記・エッセイ・コラム
(#1)
今日もまた小雨、出発の為に用意された様な小雨の朝。全ての用意を整え時間待ちのギターを爪弾く音の中へ、高子姉さんからの電話の声が届けられた。この胸に去来してやまない、隠し切れない気持ちを上手く伝えられなかった。
「…きっとまた帰って来るから…」
と言っておいたけれど、それが一番的中した言葉だった。その電話の後に今度は美恵子姉さんから、九時三十分〜四十分の間にここへ着くと連絡があった。再び静かに弾き始めたギターの音に誘われるが如く、爽やかな朝一番の微笑みと共に、このまだ眠り足りないといった私の目に映った。
「お早う」
と一言挨拶を交わし、直ぐに車に乗り込んだ。その車、会社の人から借り受けて来たものだと言っていた。空港への道すがら、
「本当にあなたは気が多いんだから」
「いや、そんな…でも、そうだねぇ…」
「大阪にはどのくらい行ってるの?もう沖縄には戻って来ないんじゃない?」
「判らない。でも絶対に帰ってくる」
「本当に何をやっているんだか解らないわね」
午前九時四十五分、空港に着くとすぐに搭乗券を買った。全日空Flifgt-102。空港ロビー二階の店で暫くの間軽い朝食をとる事にした。ハムエッグ・トーストにオレンジ・ジュース、そしてミルクが付いてくるセット。このお姉さんの奢りに続いて、私が今迄続けてきた旅の中で初めての事である土産品なども買ってくれた。
「甘いもの、チョコレートなんか好き?」
などと尋きながらハーシーのキッスチョコレートとミニュチュア・チョコレートの袋詰めを買ってくれた。有り難いと思いながらも『不要な散財』をさせてしまった事に申し訳ないと云う気持ちで胸が一杯だった。
私の時間よりも早く姉さんの帰社時間がやって来た。二階の窓から、駐車場を走り抜けて国道に向い消えて行く車影をじっと追い掛けては、
「ありがとう」
と、何度か心の中で繰り返した。
午前十一時四十分。大阪行き102便は後ろ髪を引かれる思いを乗せて、約二時間の飛行を始めた。雲海白く、何も語らず。今にしてみれば、これから大阪に着いて、自分のしている事がどれ程愚かな事か、改めて身に染みさせられるのを既に知っていながら、まるで涼しい顔をしていたかの様に思えてくる。この愚かさの為になんの意味もなく、全ての理由などはいとも容易く掻き消されていくのではないか…と思われる不安を胸に抱えながら、午後一時三十五分、102便は五ヶ月振りの大阪に到着した。
手荷物を受け取り外に出ると梅田行きのバスが待っており、すかさず飛び乗った。発車迄少々時間が有ったが二時丁度に出発し、阪神高速道路を通り、一路梅田へと向った。

車内から外を見ていたら、ふと昔母に言われた事を思い出していた。小学校から高校の初め迄の長い間、私は全く車に弱く常に乗り物酔いをしていた。中学校に入ってからは〈もどす〉事が比較的無くなってはいたものの、やはり避けるべき乗り物である事に変りはなかった。その私が小学生の頃、遠足などの度によく母が言っていた。
「そんなに車やバスに酔ってばかりいたら、今に大人になって社会に出たら、何処へも行けないよ。これからはもっともっと乗る機会が増えてくるんだから」
そんな私が今、人が使用する乗り物ならヘルコプターを除いた全てを利用して、見知らぬ土地を流浪い歩いているなんて…。どうしてあの頃思い付いていただろうか。考え様によっては、乗り物酔いに悩んでいられたままであった方が、もしかしたら私自身の為になっていたかも知れない。何故かその様な思いを巡らせるバスからの光景だった。

(#2) へ続く

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