小説 徐福と童男童女3000人の子孫③
和歌山に上陸した一団は分裂することなく仕事にいそしんだ。しかし水銀をたくさん作っても、それはすぐには売れない。しかも仕事は厳しく危険も伴う。そんなことでは仲間内でそれに疑いを抱き始めるものが出ないとも限らない。どうしてもここは、団結を高めるなにものかが必要であった。ちょっと前の日本の会社で社歌を合唱するとか忘年会や社員旅行 運動会をするようなもので、和歌山上陸の徐福代理人はこれを儀式の挙行に求めた。火と煙を用い皆が合唱する厳かなものを準備した。火と煙は丹を精錬するときに用いるもので得意分野である。
さて年月過ぎ、四国上陸の本物の徐福も最後の時が来た。さすがの方士もこれは逃れられない。77ヵ所に分かれて仕事をしている主だったものを集めこう告げた。「自分はこの砂金が売れるようになるころに自分の子孫のなかの一人として復活するつもりである。それまでしっかり集めておくように。また故郷の言葉を忘れてはいけない。最新の知識を求め日々研鑽を怠るな。ふるさとでは、いずれ金の製造法に革命が起きるはずである。集めた砂金の内いくらかは閻魔さんへのわいろに使うからわが棺にいれよ。」
お釈迦さんが極楽をお始めになったのは徐福の頃からほんの200年300年前のことです。はじめは、お釈迦さんの弟子や信者ばかりが集まって心安らぐ場(いわば退職社員の同窓会です)として創設されたんですが、関係ないのにガメツクそれに割り込もうというのが増えて、やむをえず地獄というのも創設したのです。ガメツイのは地獄に落とそうというのです。ですから地獄は創設数十年の新設の組織です。
閻魔さんの前に引きずり出された徐福にこういいます。「あんたがあの始皇帝をだまくらかしたお人か。始皇帝はもうだいぶん前に来ておるから引き合わせてやろう。地獄の責め苦より苦しいぞ。」徐福少しも慌てず、懐から砂金の袋を一つ取り出すと閻魔さんに渡して「まず地獄極楽を一通り見せてください。」と申し出ます。本来三途の川の渡し守や奪衣婆にみな取り上げられるところなのですがそこは、若いころ手品使いで糊口をしのいできた苦労人です、砂金は全部懐にいれたまま閻魔さんの前に出てきていたのです。閻魔さんはたちまち相好を崩して、部下にまず地獄から案内するように命じます。
出てきた部下は、赤鬼青鬼労働組合委員長の名刺持っていました。自分たちもこんなあほらしい仕事はしたくないと思っている。そのうえ閻魔さん以上はうまいものを食っているが自分たちは食えない、という愚痴を言いながら地獄の案内をしてくれます。そこでは火であぶったり大きなハンマーでたたいたりの阿鼻叫喚の地獄の行為がなされているのです。徐福は若いころ製鉄の勉強をしたことを思い出しました。鉄鉱石が出てこなかったので結局役立たなかったのですがここで役立ちました。若いころの勉強は無駄になりません。
「皆さん娑婆に居たころは製鉄の仕事ではありませんでしたか。」
「おおよくお分かりで、私たちはその仕事をしておりました。」
ここで砂金の袋を2個取り出し、一つを渡しながら
「これでみんな開放して娑婆に戻してやってください。今娑婆では新産業が興り人口はいくら増えてもいい状態です。それに製鉄業は今が勃興期ですから、こんなことしてないで娑婆で働いた方がおいしいものを食べることができますよ。」
さらにもう一つを渡しながらこれは、
「これは皆さんの退職金です。」
ということで、地獄というのは確かにあったんですけど創業20年くらいで倒産したのです。書類上は資金繰りが立ち行かなくなったのではなく労務倒産したとされています。
三途の川の渡し守も奪衣婆もみんな失業して娑婆へ帰っていきました。始皇帝も娑婆へ戻ったんですが、この人皇帝の仕事しかできない性格の人で漢の武帝に生まれ変わったり隋の煬帝になったりと幸せなのか不幸せなのかわからない変転を重ねていくことになるんです。