小説 徐福と童男童女3000人の子孫⑤
閻魔さんは、こう付け加えました。
「あんたのおかげで、あの世に地獄がなくなったのはいいことだけど極楽はマウント取りや権力闘争があって住みにくいところだ。娑婆は運が悪ければ、すぐにでも極楽へ行きたくなるが運さえよければずーと住んでいていいところだ。あんたは運のいい人相してるから、あんたの星のめぐりあわせ票には希望によりずーと娑婆に住むことができる。と記載しておいたから。」
閻魔さんにはお礼を言ってそこで分かれて閻魔さんから貰った書斎に入りました。なるほど自分のめぐりあわせ票には、新しい墨で「生死も含めて一切本人の希望に任す。」とだけ記載されています。他の人の票にはこまごまいつ何をしてと書き込んであります。運命はこのように閻魔さんによって事前に決められていたのです。これでは閻魔さんはなんのために裁判をしていたのかわからなくなるではありませんか。ひょっとしてこの票のとおりに行動しなかった者を罪人にしていたのではないかと考えられます。
膨大な量の星のめぐりあわせ票を書くのは大変な仕事ですから、閻魔さんも自分で自分をリストラしたくなる気持ちはよくわかります。でも閻魔さんはなかなか仕事熱心で西暦700年前後くらいまではみな記載があります。
詳しく読んでいくと、終わりの方に何某、西暦七百何年アラビアの錬金術により灰吹法を完成するとあります。水銀を用いる金の精錬は徐福も細々とやっていましたが、貴重な水銀を飛ばしてしまうので今一つ儲けが十分ではありません。鉛を用いる方法なら目の玉が飛び出るほど利益が見込めるでしょう。
それからもう一つ自分の子孫に西暦七百何年何月何日讃岐いまの香川県に佐伯の真魚生まれるとあります。讃岐は金の採掘で徐福のも走り回ったところで土地勘はあります。真魚は極めて聡明、芸術文筆に優れるとあってこれは閻魔さんが書いている途中なのかその後が白紙になっています。徐福は、高鳴る鼓動を抑えきれません。この佐伯の真魚に生まれ変わって自分の始めた事業を完成したい。地上にキンを支配する王国をつくることができるのです。今紀元前百何十年ですから8百年少々待つのはかなり退屈ですが、毎日うまいものを食いながらその日を待つことにし、その間は娑婆の様子を観察することにしました。
長い長い歳月をへてやっとヤマト王朝ができ物資の流通が始まります。キンは仏像に塗るという需要もありますがこれでは儲けは小さいものです。貨幣として流通しないといけません。日本が中国と貿易する際の決済に砂金が使われましたが、貿易量は当時ごく小さいものでした。儲けは国内でキンが決済に使われるようにならないと出ません。そうなるまでひたすら待つよりほかありません。
さて徐福の天敵であった始皇帝はなかなか忙しい人でしょっちゅう生まれ変わりをしています。彼がちょうど唐の玄宗に生まれ変わって楊貴妃に入れあげていたころ、やっと讃岐の国で佐伯の真魚生まれる時期になりました。極楽を出るための手続きをする必要があります。閻魔さんの書斎のカギは懐に入れたまま、もう閻魔さんはずいぶん前に出ていったのでボス不在なのですが閻魔庁へ出かけて担当の胥吏に申し出ました。担当は自分の元ボスには賄賂を使ったのに自分には何もくれなかったので言を左右してなかなかハンコを押そうとしないのです。
徐福は最後に取っておいた砂金の袋を取り出すと、担当はとたんに姿勢を正して厳かな声で「承知した」とハンコを押してくれました。
長い物語がここから始まるのです。