大江戸曲者列伝(野口武彦著 新潮新書 2006年)
主に江戸城内のお武家のゴシップを調べて書いた本である。面白さを狙った軽い本だと思っていたが、なかなか考えさせられる人物事件が登場して現代を考えるヒントが一杯であった。出版された2006年の日本はまだバブルに浮かれたころの記憶が残っている。役所の中は遊泳術巧みな人が出世する(実際はどうであったかは知らないが)との定説が流布していたころに書かれた本である。主に江戸城のお武家の城内遊泳術を描こうとしている。
おおこんな人今もいるなーと思いながら読んでいくと、仲間同僚のいじめに腹を立てて城内でその仲間同僚に切りつけたお武家の話があった。(浅野内匠頭とはまた別件)私はお武家のようにプライドの高い人はいじめをしないものと思い込んでいた。どうもそうでもないようで江戸城内のこれから出世する誇り高い人々の間にもごく普通にあったようである。なぜ忠臣蔵のようにこれを戯曲にして庶民が見て楽しむようにしなかったのか。(たぶん幕府が止めたのであろうが。)
このくだりを読むうちに、なぜ日本でいじめが多いのかがやっとわかった。日本ではいじめられてもそれを辛抱するように教育するからである。アメリカの軍隊の中でもいじめはあるようである(映画フルメタルジャケットでこれが描かれてやっと我々も現実を知った。)しかしあまり辛抱しないからたちどころに返り討ちに合う。(この映画でもそこを描いている。)いじめを辛抱しないように教育するといじめは減ると思われる。ただし社会は大混乱するだろうが。
そのほか、陽明学者の松崎こう道(こうはリッシン偏に兼、大塩平八郎の時代の人)が登場している。記憶違いでなければ、この人は永井荷風の母方のおじいさんにあたる人で、荷風と三島由紀夫は親戚というから、三島にとっても血のつながりのある人かもしれない。陽明学は行動を重視するらしい。荷風を見て陽明学を想起するのは些か無理があるが、三島を見て陽明学とはどんなものかよくわかる。三島さんはこの松崎さんの血縁に違いない。
そんな連想もこの本を読みながら楽しめた。
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