百十六節
齊の大夫の公行子のところで、子供の葬儀があったとき、右師の王驩が弔問に行った。門を入ると、さっそく進み出てきて挨拶する者も有り、席に就くや、その席まで出かけて行って挨拶する者もいた。ところが孟子だけが王驩と言葉を交わさなかったので、王驩は不快に思い、
「皆さんが私に挨拶してくれたのに、孟先生だけが言葉をかけてくださらないのは、私をないがしろにしているのだ。」
と言った。孟子はそれを聞いて言った。
「礼では、朝廷に於いては席を隔てて言葉を交わさない、堂の階段を隔てておじぎなどの挨拶はしない、というのが定めである。私は礼の定め通りに行動しようとしたに過ぎない。子敖がないがしろにされたと怒るのは、どうもおかしな話ではないか。」
公行子有子之喪。右師往弔。入門、有進而與右師言者。有就右師之位而與右師言者。孟子不與右師言。右師不悅曰、諸君子皆與驩言。孟子獨不與驩言。是簡驩也。孟子聞之、曰、禮、朝廷不歷位而相與言、不踰階而相揖也。我欲行禮、子敖以我為簡。不亦異乎。
公行子、子の喪有り。右師往きて弔す。門に入るや、進みて右師と言う者有り。右師の位に就きて右師と言う者有り。孟子、右師と言わず。右師悅ばずして曰く、「諸君子皆、驩と言う、孟子獨り驩と言わず。是れ驩を簡にするなり。」孟子、之を聞きて曰く、「禮に、『朝廷には位を歷て相與に言わず、階を踰えて相揖ぜず。』と。我、禮を行わんと欲するに、子敖は我を以て簡なりと為す。亦た異ならずや。」
<語釈>
○「公行子、右師」、趙注:公行子は齊の大夫なり、右師は齊の貴臣、王驩、字は子敖。○「簡」、朱注:「簡」は「略」なり。おろそかにする、ないがしろにする意。
<解説>
王驩と孟子の関係は、この節と、三十八節、八十五節に見える。王驩は齊王の寵臣で、それを笠に着ている態度が気に入らず、孟子は王驩を嫌っていた。故に礼にかこつけて言葉を交わさなかったのだろう。趙注に云う、「禮を以てするは、心は子敖を惡みて、外は其の辭を順にするなり。」まさにその通りだろう。
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