東京でカラヴァッジョ 日記

美術館訪問や書籍など

【再々訪】ウサギを産んだ女性メアリ・トフト -「ウィリアム・ホガース版画(大河内コレクション)のすべて - 近代ロンドンの繁栄と混沌(カオス) 」(東京大学駒場博物館)

2023年06月25日 | 展覧会(西洋美術)
東京大学経済学図書館所蔵
ウィリアム・ホガース版画(大河内コレクション)のすべて
近代ロンドンの繁栄と混沌(カオス) 
2023年5月13日~6月25日
東京大学大学院総合文化研究科・教養学部
駒場博物館
 
 東京大学経済学部で長く教鞭をとられた大河内一男・暁男の親子が二代にわたって収集し、2017年に東京大学経済学図書館が寄贈を受けた、18世紀イギリスの画家ウィリアム・ホガースの銅版画のコレクション全71点を一挙公開する本展。
 
 会期最後の週末の午後、再々訪する。
 
 
 展示風景。
 
 ホガース《1日のうち4つの時》4枚組、1738年。
 
 
 作品を囲んで壁に貼られた黄色のポスト・イットの数がさらに増えている。
 
 
 この黄色のポスト・イットは、鑑賞者が作品を見て感じたことや質問・疑問を記載して貼ってください、本展監修の先生から後日回答があるかも、というもの。
 
 私は気付かなかったのだが、監修の先生が回答・コメントを記した青色のポスト・イットもあったようだ。
 
 
 また、主要な連作については、前回訪問時にはなかった作品解説が登場している。
 「初年次ゼミ グループワーク」とあるので、学生さんたちが分担して作成したのだろうか、お手製っぽいプリントだが、鑑賞に役立っている。
 
 
 本来の解説キャプション+ポスト・イット+作品解説プリント。
 これだけの量を読みながら、細密な作品を観ていると、時間がいくらあっても足りない。
 
 
 
ホガース
《盲信、迷信、狂信、烏合の会衆》 
1762年
 
 初期にピューリタンの諷刺で名声を高めたホガースは、晩年のこの画においてメソディストたちを痛烈に諷刺している。
 説教するジョージ・ホイットフィールドの鬘が外れ、イエズス会派のトンスラ頭が顕れているのは、本質的にカトリックと同一という見解である。
 彼の教義が邪悪な呪術であるかのように、魔女と悪魔の操り人形を手にしている。
 霊感を受けて感極まったように見える女性は、ウサギを産んだと世間をたばかったメアリ・トフトをモデルにしている。
 
 
 気になるメアリ・トフトをネットで調べる。
 
 
 メアリ・トフト(1701頃-63)。
 出来事は1726年のこと。
 この25歳頃の農業従事の女性はウサギを産んだと主張し、その分娩に立ち会った地元の外科医、さらには調査を行った王室外科医は信じてしまい、王室外科医は小冊子まで刊行する。
 ロンドンに連れていかれてさらなる調査尋問を経て、女性は狂言であることを告白し、詐欺師として収監されることとなるが、問題は、女性の狂言(のちに罪に問われることなく釈放)というよりも医者の失態。
 世間の医者に対する不信・不満が爆発する。嘲笑の的となり、関係した医者のキャリアは大きく毀損する。彼らは本当に信じたのか、功を焦ったのか、それとも確信犯だったのか。
 
 
 ジャーナリズムの役割を担うホガース版画。
 
 出来事のあった1726年に、その主題の版画を刊行しているようだ(本展出品作ではない)。
 
ホガース
《Cunicularii or The Wise men of Godliman in Consultation》
1726年
 
登場人物にA〜Gのアルファベットが付されている。
F:メアリ・トフト
E:メアリの夫
G:メアリの姉妹
D:地元の外科医
A:王室外科医
B、C:医者
✳︎A〜Dの医者に限り、吹き出し(台詞が書かれたリボン)も。
 
 出来事は1726年のこと。
 それから約35年経った1762年の版画にも、ホガースはメアリ・トフトを登場させていることとなる。
 
 メアリは、それほどの人気キャラクターだったのか。
 この出来事が、医者を揶揄う定番ネタだったのか。
 
 1762年の版画の主題は、宗教的熱狂に対する諷刺。
 窓の外から、イスラム教徒のトルコ人がその熱狂を醒めた目で見ている。
 
 
 
 
 18世紀ロココ期のイギリスの画家ウィリアム・ホガース(1697-1764)。
 その名前は知っていたが、今まで油彩作品はおそらく見たことはなく、版画作品も数点見たことがある程度。
 本展は、私的に初めてホガースの魅力に触れる絶好の機会となった。
 


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。