東京大学経済学図書館所蔵
ウィリアム・ホガース版画(大河内コレクション)のすべて
近代ロンドンの繁栄と混沌(カオス)
2023年5月13日~6月25日
東京大学大学院総合文化研究科・教養学部
駒場博物館
東京大学経済学部で長く教鞭をとられた大河内一男・暁男の親子が二代にわたって収集し、2017年に東京大学経済学図書館が寄贈を受けた、18世紀イギリスの画家ウィリアム・ホガースの銅版画のコレクション全71点を一挙公開する本展。
会期最後の週末の午後、再々訪する。
展示風景。
ホガース《1日のうち4つの時》4枚組、1738年。
作品を囲んで壁に貼られた黄色のポスト・イットの数がさらに増えている。
先週始まった東大駒場博物館のホガース展、出足は思いのほか良いようです。手作り感満載の解説チラシの受けは分かりませんが、皆さん思い思いに付箋を貼ってくださってます。考えたこともない質問や視点があり、謎の多いホガースの難しさと深さを感じます。回答も考えなくては。こんな感じです。 pic.twitter.com/W4yGMFU1nO
— 大石和欣(Kaz Oishi) (@Kazlitt1) May 21, 2023
この黄色のポスト・イットは、鑑賞者が作品を見て感じたことや質問・疑問を記載して貼ってください、本展監修の先生から後日回答があるかも、というもの。
私は気付かなかったのだが、監修の先生が回答・コメントを記した青色のポスト・イットもあったようだ。
また、主要な連作については、前回訪問時にはなかった作品解説が登場している。
「初年次ゼミ グループワーク」とあるので、学生さんたちが分担して作成したのだろうか、お手製っぽいプリントだが、鑑賞に役立っている。
本来の解説キャプション+ポスト・イット+作品解説プリント。
これだけの量を読みながら、細密な作品を観ていると、時間がいくらあっても足りない。
ホガース
《盲信、迷信、狂信、烏合の会衆》
1762年
初期にピューリタンの諷刺で名声を高めたホガースは、晩年のこの画においてメソディストたちを痛烈に諷刺している。
説教するジョージ・ホイットフィールドの鬘が外れ、イエズス会派のトンスラ頭が顕れているのは、本質的にカトリックと同一という見解である。
彼の教義が邪悪な呪術であるかのように、魔女と悪魔の操り人形を手にしている。
霊感を受けて感極まったように見える女性は、ウサギを産んだと世間をたばかったメアリ・トフトをモデルにしている。
気になるメアリ・トフトをネットで調べる。
メアリ・トフト(1701頃-63)。
出来事は1726年のこと。
この25歳頃の農業従事の女性はウサギを産んだと主張し、その分娩に立ち会った地元の外科医、さらには調査を行った王室外科医は信じてしまい、王室外科医は小冊子まで刊行する。
ロンドンに連れていかれてさらなる調査尋問を経て、女性は狂言であることを告白し、詐欺師として収監されることとなるが、問題は、女性の狂言(のちに罪に問われることなく釈放)というよりも医者の失態。
世間の医者に対する不信・不満が爆発する。嘲笑の的となり、関係した医者のキャリアは大きく毀損する。彼らは本当に信じたのか、功を焦ったのか、それとも確信犯だったのか。
ジャーナリズムの役割を担うホガース版画。
出来事のあった1726年に、その主題の版画を刊行しているようだ(本展出品作ではない)。
ホガース
《Cunicularii or The Wise men of Godliman in Consultation》
1726年
登場人物にA〜Gのアルファベットが付されている。
F:メアリ・トフト
E:メアリの夫
G:メアリの姉妹
D:地元の外科医
A:王室外科医
B、C:医者
✳︎A〜Dの医者に限り、吹き出し(台詞が書かれたリボン)も。
出来事は1726年のこと。
それから約35年経った1762年の版画にも、ホガースはメアリ・トフトを登場させていることとなる。
メアリは、それほどの人気キャラクターだったのか。
この出来事が、医者を揶揄う定番ネタだったのか。
1762年の版画の主題は、宗教的熱狂に対する諷刺。
窓の外から、イスラム教徒のトルコ人がその熱狂を醒めた目で見ている。
18世紀ロココ期のイギリスの画家ウィリアム・ホガース(1697-1764)。
その名前は知っていたが、今まで油彩作品はおそらく見たことはなく、版画作品も数点見たことがある程度。
本展は、私的に初めてホガースの魅力に触れる絶好の機会となった。