東京でカラヴァッジョ 日記

美術館訪問や書籍など

国宝《源氏物語絵巻》(五島美術館蔵)を観る。

2020年11月24日 | 展覧会(日本美術)
開館60周年記念名品展5
平安の書画-古筆・絵巻・歌仙絵-
2020年11月3日〜11月29日
五島美術館
 
 
   平安時代・12世紀に制作された国宝《源氏物語絵巻》は、19図が残る。
   うち15図を徳川美術館が、4図を五島美術館が所蔵する。
   五島美術館では、10年に一度、これら19図を一挙に公開する「国宝  源氏物語絵巻」展を開催する。
 
   2010年、私もその展覧会に行って、はまってしまって、会期4週間足らずのうちに4回通ってしまった。
 
   そして、2020年、10年ぶりの「国宝  源氏物語絵巻」展を楽しみにし、11月になってから美術館HPを確認すると、「新型コロナウイルス感染症の状況に鑑み、本展は開催中止とさせていただきます」。
 
   国内所蔵作品の展覧会だから、その開催を疑っていなかった。7月頃までには発表していたようなので、今更ながらなのだが、非常にがっかり。しかし前回の状況、あの小ぶりの展示室にあの大観客、を思えば、中止はやむを得ない判断。
 
   その代わりに開催される「平安の書画」展では、自館所蔵の国宝《源氏物語絵巻》4図が通期展示されるという。
 
   4図は少し寂しい(正直、前回は徳川美術館所蔵のほうに強い印象を受けている)と思いつつ、行ってみる。
   すると、寂しいどころか、大いに楽しむこととなる。
 
 
 
   国宝《源氏物語絵巻》4図は、2つある展示室のうち、小さいほうの展示室2に展示されている。
   国宝4図の隣には、それぞれ、2005年に制作された加藤純子氏による復元模写が展示されている。
  この復元模写と実物を比べ合わせて鑑賞するのが、非常に楽しい。
 
 
「鈴虫1」
   現存19図のうち、最も剥落の激しい図であるらしい。
   特に庭にあたる部分は、何も残っておらず、黒い汚れ・シミがあるだけ。
   と思ったら、その黒い汚れ・シミは、復元模写では「川」。確かに川の描線だ。完全に消えてしまったらしい庭の植物も、復元模写では美しく咲き誇る。
   また、剥落によって、下書きである文字(名称を示したひらがなの文字)も姿を現している。「すゞむし」の文字があるとのことだが、どれなのかよく分からず。
  
 
「鈴虫2」
   登場人物である男性たちの衣装、色彩は剥落したが、模様はかすかに残る。復元模写での衣装の鮮やかさに感心する。
   高欄にかけられた衣装(下襲)の裾、実物も復元模写もほぼ変わらない描写。「黒」の描線は残りやすいのだなあ。
   右上隅の部分は、ほぼ残っていないが、復元模写では群青の空に、銀の満月。
   右下隅の庭にあたると思われる部分、実物には何もなく、復元模写でも何もない。ここには本当に何も描かれていなかったのだろうか。
 
 
「夕霧」
   手紙を読む男性の背後に立つ女性の不機嫌な表情。
   その女性の衣装から透けて見える白い腕。
   本図は、劣化状況ではなく、描かれているものそのものが、印象に残る。
 
 
「御法」
   庭にあたる部分、かすかに植物の描線の跡が残る。復元模写ではその植物が再現される。こんなに美しい植物が描かれていたのか。
 
 
 
   他の展示品も見る。
   以下、3選。
 
   奈良時代・8世紀の《麻布山水図》は何らかの布製品の文様であったようだが、馬、水鳥、樹木、草木、波の描写が面白い。
 
   平安時代・12世紀末の重文《沙門地獄草紙断簡(益田家本甲巻)火象地獄図》は、淫欲にふけった僧侶が堕ちる、炎を吐く象に身を焼かれる地獄が描かれる。
 
   鎌倉時代・13世紀の重文《駿牛図断簡》は、当時流行した似絵(理想化を加えず似せることを目的に描く人物肖像画技法)の画法による「牛」の絵。
 
 
  
  さて、次の五島美術館における「国宝  源氏物語絵巻」展は、やはり10年後になるのだろうか?  


2 コメント

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国宝の展示期間 (てんちゃん)
2020-11-24 23:13:24
平成30年に国宝の展示期間を緩和しましたが、その緩和枠に入っているかで展示のチャンスが増えるかと思います(でも一番厳しい枠だろうからだめでしょうね)。

それよりも、これだけデジタル複製技術が進んだのだから、国宝は本物を見ることができなくても、国民がいつでも美しい複製を見ることができるようにすべきと思います。
立体のものは、それこそ3Dプリンティングすべきです。
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Unknown ()
2020-11-25 02:10:56
てんちゃん様

コメントありがとうございます。
国宝《源氏物語絵巻》の全点一挙公開は、徳川美術館においても10年に1回実施していますね。前回が2015年だから、次回は2025年。愛知・東京交互に5年毎の実施です。
五島美術館は、所蔵の国宝《源氏物語絵巻》と国宝《紫式部日記絵巻》を年に1回、自館で公開しているようです。
平成30年の改定取扱要項では、自館公開は制限対象から外したようですが、上記絵巻については、改定前の年間公開日数基準(延べ60日以内、または延べ30日以内)を目安に運用しているのでしょうね。
国宝のデジタル公開推進は是非お願いしたいところです。ただ、高精細なデジタル画像を見ると、より一層実物を拝みたくなります。
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