レンブラント
《あんよを教えてもらう幼児》
1656年頃、93×154mm
大英博物館
子どもが、お母さんとお姉さんに支えられている。
お母さんは子どもの手をしっかりとつかんでいる。
お姉さんのほうは、ちょっとためらっている感じだね。
子どもが不安そうな表情を浮かべているのが、1つか2つの小さな「しるし」から見てとれる。
左側でしゃがむお父さんの目は、興奮に輝いているけど、それを表現しているのはたった2つのインクの「しみ」っていうんだから、すごいことだよ。
デイヴィッド・ホックニー、マーティン・ゲイフォード著『はじめての絵画の歴史』青幻社、2018年刊より。
同書は、現代美術家のホックニーが、洞窟壁画からiPadまで、「絵画の歴史」について、芸術評論家・作家のゲイフォードと語り合うイラストブック。
70点ほど取り上げられている作品のなかで、初めてその存在を知り、かつ、ものすごく気に入った作品が、小さな子どもの成長に一喜一憂する家族の姿を描いたレンブラントのスケッチ。
線もほとんど使わずに描いているが、お母さんのスカートはちょっとほつれていることも、通りかかった乳しぼりの娘が手にさげている桶がいっぱいで重たいということもわかる、このデッサンはまさに傑作だよ、とホックニーは語る。
ものすごく気に入ったので、レンブラントによる子どものスケッチに、他にどんな作品があるのか、本作品と同じ大英博物館所蔵作品を探してみた。
《子どもに立ち方を教えている女性》
1635-37年頃、78×75mm
大英博物館
《子どもにあんよを教えている2人の女性》
1635-37年頃、 103×128mm
大英博物館
レンブラントは子どもの立ち始め、歩き始めに強い関心があったようだ。
レンブラント自身は、最初の妻サスキアとの間に子どもが4人生まれるが、
1635年12月
長男ロンベルトゥス誕生、2ヶ月後に逝去
1638年7月
長女コルネリア誕生、翌月逝去
1640年7月
次女コルネリア誕生、翌月逝去
1641年9月
次男ティトゥス誕生
1642年7月
妻サスキアは結核のため逝去
無事に育って成人を迎えたのは、ティトゥスただ1人であった。
レンブラントは、ティトゥスをモデルとした油彩画を何点か制作している。
また、内縁の妻ヘンドリッキェとの間にも、子どもが1人生まれている。
1654年
コルネリア誕生。
コルネリアも無事に育つが、何故か、レンブラントは彼女をモデルとした作品を残していないようである。
冒頭のスケッチは、ティトゥス14歳頃、コルネリア2歳頃の制作となるが、コルネリアが幼児のモデルということはなさそうだ。
冒頭のスケッチが登場するホックニー著書第2章は「「しるし」をつける」。
洞窟画から始まり、中国の水墨画、レンブラントの本スケッチ、ミケランジェロのスケッチ、マネのモリゾの肖像、モネのセーヌ川の流氷、デュフィと来て、最後はホックニー自身の風景スケッチまで、「しるし」の表現を追っている。
芸術家だったらそうありたいが、「絵画の歴史」は、洞窟から始まって、ホックニーに至るのである。