開館10周年記念
画家が見たこども展
ゴッホ、ボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットン
2020年2月15日〜6月7日
三菱一号館美術館
「こども」に焦点をあてた西洋美術の展覧会といえば、2014年森アーツセンターギャラリー「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」があり、19-20世紀の150年ほどのフランス美術を対象としていた。
今回の「こども展」は、フランスのル・カネのボナール美術館と三菱一号館美術館との共同企画。フランス美術のなかでも19世紀末パリの「ナビ派」の画家たち、それもボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットンの4人を中心に、「こども」作品を並べる。
まずはナビ派4人の画家の家族を確認。
ドニ(1870〜1943)
1893年に結婚、7人の子どもを持つ。本展では長女ノエルをモデルにした作品が目立つ。1919年に妻に先立たれるが、1921年に再婚し、さらに2人の子どもを持つ。2度の結婚で9人の子ども。
ボナール(1867〜1947)
1893年頃にマルトと出会い、共に生活するようになる。画家は室内のマルトをモデルとした作品を多く制作する。二人が結婚するのは、出会ってから32年後の1925年のこと。そのきっかけは愛人との関係に嫉妬したマルトがボナールに結婚を迫ったためと言われる。二人の間には子どもはいないが、画家は妹夫婦の子どもたちをモデルとした作品を残す。
ヴュイヤール(1868〜1940)
生涯独身で、母親と一緒に暮らす。画家は姉夫婦の娘をモデルとした作品を残す。
ヴァロットン(1865〜1925)
1899年に2歳年上のガブリエルと結婚する。大画商の娘で若くして未亡人となったガブリエルは再婚で3人の子持ち。以前の展覧会で観た、家族の食卓光景を描いた作品は、その居心地の悪さ、無関心、不穏な空気が印象的であった。そのタイプの作品以外で、画家は妻の連れ子をモデルとした作品を描くことがあったのだろうか。
なお、本展に出品されるヴァロットン作品は、海外からは1点のみ。三菱一号館美術館が独自にヴァロットンを加えたのではないかと邪推してしまう。
四者四様。一般的に想像する、我が子をその成長とともに記録していくタイプは、ドニただ一人に限られるのが面白い。
【本展の構成】
プロローグ:「子ども」の誕生
1:路上の光景、散策する人々
2:都市の公園と家庭の庭
3:家族の情景
4:挿画と物語、写真
エピローグ:永遠の子ども時代
以下、4人の画家の印象に残る作品選。
ドニ
《赤いエプロンドレスを着た子ども》
1897年、個人蔵
こどものドレスの柄と背景の花壇の花々が一体化する。
ドニ
《ノエルと母親》
1896年頃、個人蔵
赤ん坊ノエルの無邪気な笑顔が素晴らしい。それを見つめる母親も幸せな顔。
ボナール
《ル・グラン=ランスの家族》
1899年頃、個人蔵
ボナールの別荘の庭で過ごす妹アンドレ夫婦一家。木々の空間構成。
ヴュイヤール
《赤いスカーフの子ども》
1891年頃、ワシントン・ナショナル・ギャラリー
こどもと肩から上がカットされた父親。手を繋いだ後ろ姿。こどものオレンジの上着と赤の斑点模様のスカート。本展のマイベスト。
ヴュイヤール
《乗り合い馬車》
1895年頃、ロサンゼルス、ハマー美術館
後ろ向きになって窓から外を眺めるこども2人。双子? お揃いの服。
ヴュイヤール
《公園にて、麦わら帽子》
1891年、個人蔵
公園にて。言うことを聞かない子どもに、うんざりとした表情の母親。
ヴァロットン
《エトルタの四人の海水浴客》
1899年、ギャラリー・バイイ
海水浴。子どもに泳ぎを指導する夫婦。その後方の、家族とは無関係の通りかかりの泳く人を加え、計4人の客。
上記作品の所蔵者は、個人蔵またはアメリカの美術館となったのはたまたま、本展にはオルセーのほかフランスの美術館からも多くの作品が出品されている。
なお、本展冒頭挨拶で、ボナール美術館の館長が、ヴュイヤールの連作《公園》が保存状態が万全でないとの事情で、ル・カネおよび東京の展覧会に出品されないことを残念に思う旨述べている。
連作《公園》は、9枚のうちオルセー美術館が所蔵する5枚が、2017年の三菱一号館美術館「オルセーのナビ派」展に出品され、その素晴らしさに感嘆した思い出があり、再会できていたら再び感嘆したことだろう。それは叶わないとはいえ、本展のヴュイヤール出品作も魅力的で、改めてヴュイヤールは凄い画家だと認識したところである。
このボナール作品は見ていません。