東京でカラヴァッジョ 日記

美術館訪問や書籍など

デ・キリコ展(パナソニック汐留ミュージアム)

2014年11月03日 | 展覧会(西洋美術)

ジョルジョ・デ・キリコ展-変遷と回帰
2014年10月25日~12月26日
パナソニック汐留ミュージアム


 デ・キリコ(1888-1978)には、
◎1910年代の初期作品「形而上絵画」が全て。
◎1920年代以降90歳で亡くなるまでの作品は「余興」。
という先入観、固定観念を持つ私。


 日本で開催されるデ・キリコ展は、期待する1910年代の作品はほとんどなく、それ以降の、特に晩年の、1910年代作品の再制作作品やその部材を再利用した作品などが展示の中心となり、デ・キリコの真価を味わうには至らない、と思い込んでいる。


 本展は、パリ市立近代美術館に寄贈された未亡人の旧蔵品が中心、とのことだから、晩年の作品がメインという従来どおりの出品構成だろう、と期待ゼロで訪問する。


 だいたい想像どおりの出品構成で、1910年代の作品は、第1章の4点。
 ただ、1920年代以降も、個人的なお気に入り作品はないけれど、画家としてスタイルを変えながら多様な取組みをしていたことだけは認識した。


 国立新美術館で開催中のチューリヒ美術館展に、デ・キリコ作品1点出品されている。
≪塔≫1913年
 個人的には≪塔≫1点を観るほうが、汐留のデ・キリコ展よりも満足度が高い。
 ただ、本展には、「長い余興」時代の、不可思議な作品たち、決して成功しているとは思えない作品たちを見ながら、デ・キリコという画家の不思議さを思う、という楽しみ方がある。
 なお、2009年にパリで回顧展が開催され、「長い余興」時代の作品の再評価が始まっているという。


 本展の章立ては次のとおり。
 カッコ内は、出品作品の制作年を踏まえ、私が勝手に付記。

1章 序章:形而上絵画の発見
 (1910年代)
2章 古典主義への回帰
 (1920-30年代)
3章 ネオバロックの時代-「最良の画家」としてのデ・キリコ
 (1940-50年代)
4章 再生-新形而上絵画
 (1950-70年代)
5章 永劫回帰 - アポリネールとジャン・コクトーの思い出
 (1960-70年代)


 出品点数から見て手狭な展示会場。
 入場後、前室的なスペースもなく、いきなり展示が始まる。
 いきなり始まる第1展示ブロックに、私が期待する時代のデ・キリコ4点が並ぶ。


<1章>
No.1≪ポール・ギョームの肖像≫
 1915年、パリ市立近代美術館蔵
No.4≪謎めいた憂鬱≫1919年
 パリ市立近代美術館蔵
No.3≪遠い友からの挨拶≫1916年
 個人蔵(ガレリア・デッロ・スクード、ヴェローナ寄託)
No.2≪福音書的な静物≫1916年
 大阪新美術館建設準備室蔵


 1章の章名は「序章:形而上絵画の発見」。
 1910年代の「形而上絵画」が「序章」と位置付けられている。
 個人的には、1章がメインで、2章以降はエピローグと思っているのに。

 No.4≪謎めいた憂鬱≫が「デ・キリコ」に一番合致する作品かな。ただ、1919年制作だとピークは過ぎた感。
 1915-17年のフェッラーラ時代の制作と思われる作品が2点。
  No.3≪遠い友からの挨拶≫は、キュビズムのコラージュを連想する。 


<2章>
No.6≪自画像≫1922-25年頃 個人蔵
No.5≪母親のいる自画像≫1921年トレント・ロヴェレート近現代美術館 

 古典主義に回帰した時代の作品が並ぶ第2章。
 その冒頭に登場する2点の自画像は、なかなかよい。No.5のデ・キリコに並んで描かれる母親は、いかにもイタリアの女性という顔立ちで、好ましい。3章にも61歳の自画像(No.69)があるが、これもよい。
 デ・キリコの自画像は総じてよい。


 以下に挙げるのは、つっこみたくなる作品。


<3章>
No.60≪赤と黄色の布をつけた座る裸婦≫制作年不詳
 パリ市立近代美術館
No.62≪秋≫1940年代 
 ガレリア・ダルテ・マッジョーレ、ボローニャ

 No.60は、奥さんをモデルに描いた裸婦像。隣に参考として、1950年代にローマ・スペイン広場の自邸にて、居間のソファーに座るデ・キリコ夫妻の写真が掲示されているが、その背後の壁に本作品が飾られている。夫婦のお気に入りだったのだろう。
 キャプションには「ティティアーノやルーベンスの影響を受けて」とあるが、「影響を受けて」というより、「キリコ風に模写してみました」という感じの作品である。
 隣に並ぶNo.62≪秋≫も、そんな感じの作品である。


No.66≪赤いトマトのある風景≫1958年 パリ市立近代美術館蔵
No.67≪田園風景のなかの静物≫1943-48年頃パリ市立近代美術館蔵

 古典的な静物画と古典的な風景画の奇跡のコラボ。
 前景は果物や野菜を描く。後景は台所とか食堂ではなく、古典的な風景画である。
 前景がなければ普通の風景画。逆に後景がなければ普通の静物画。
 企画倒れ、と言いたい作品。


No.68≪ヴェネツィア、パラッツォ・ドゥカーレ≫1957年
 ガレリア・ダルテ・マッジョーレ、ボローニャ

 観光絵葉書写真そのもの。それ以上でも以下でもない作品。


<4章>
 1910年代の「形而上絵画」の再制作(レプリカ)作品やその部材を再利用・再構成した作品が並ぶ。
 なんでも、1910年代の「形而上絵画」作品を実質上「すべて描き直した」ということである。
 それはそれですごいな。

 面白いのは、実際の制作年と異なる年記をしている作品の存在。例えば、
 No.78≪古代的な純愛の詩≫は、1914年制作の≪春のトリノ≫のレプリカ作品であるが、1970年頃制作にもかかわらず、1942年との年記。
 No.79≪不安を与えるミューズたち≫は、1917-18年頃制作の同名作品のレプリカ作品であるが、1974年制作にもかかわらず、1924年との年記。
 年記を1910年代とはしていないので、真贋論争(?)に至るような誤解を与える意図はないらしい。

 営業的には、「形而上絵画」の再制作は、大正解であったと思う。
 この時代の作品があるから、日本で回顧展が開催できて、1点でも1910年代の作品を見ることができる。


 デ・キリコの未亡人は1990年に亡くなるが、パリ市立近代美術館への寄贈が完了するのは2011年。ずいぶん時間がかかるのですね。絵画30点、素描20点、彫刻11点という。意外に少ないなあ。相続問題とか税金対策とかで減少したのかな。

 デ・キリコの1910年代の作品、画集に掲載されているような作品の実物を見たことはほとんどない。まとめて観れる機会があるといいなあ。

(以下のポスターは、レプリカ作品≪古代的な純愛の詩≫。1970年頃制作にもかかわらず、1942年との年記)



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