国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展
2012年8月4日~10月8日
Bunkamuraザ・ミュージアム
近代ロシア絵画については、古くは1993年東京都美術館の「ロシア近代絵画の至宝-トレチャコフ美術館展」、最近だと、2007年東京都美術館の「国立ロシア美術館展-ロシア絵画の神髄」や2009年Bunkamuraの「国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア」にて、その魅力を味わう機会がありました。
その際、近代ロシア絵画の巨匠として、レーピンの名前がインプットされました。
とはいっても、具体的な作品とは結びつくことはなく、確か歴史画および社会派的な作品の画家だよね、といった漠然としたイメージにとどまっていました。
本展は、イメージどおりの、歴史画、社会派的な作品が多数展示されていました。
一方で、印象派の影響を受けた明るい色彩の作品も意外と多い。
また、肖像画も多く、肖像画の名手であることを認識しました。
展示作品は、制作年が1870年から80年代の作品がやたら目についたので、レーピンの没年は1900年くらいかと確認したら、1930年とある。
改めて作品の制作年を確認すると、確かに中心は1870年から1892年までの作品ですが、最後の章に、それ以降の年代、例えば1900年、1909年、1913年(これが一番最後)と、ぽつぽつあります。
晩年は体調の都合で作品数が減り、最後の10年くらいは描けなかったのかなあ、と勝手に想像。
一方で、
トレチャコフ美術館はトレチャコフという個人コレクターの寄贈作品をもとに設立された美術館ですが、そのトレチャコフの没年が1898年であること。
1918年のソヴィエトとフィンランドの国境確定により、レーピンの住居兼アトリエがフィンランド領になったこと。
も関係しているのでしょうか(想像)。
いずれにせよ、本展は、レーピンの最盛期の作品群が展示の中心となっている、といえるのかもしれません。
印象に残った作品は多数。
1 老女の肖像
国立新美の大エルミタージュ展で見た、レンブラント「老女の肖像」の模写。
エルミタージュの作品は、当時公開されていて画学生が模写できたのですね。
2 浅瀬を渡る船曳き
初期の代表作「ヴォルガの船曳き」の制作過程で制作された習作とのこと。
黒い固まりとして描かれている船曳きたち。この職業の必要性。それに従事する人たちの生活。
3 皇女ソフィア
中野京子氏「怖い絵」で知った作品。実物を見れました。
ソフィアの貫録。窓の外に吊り下げられた銃殺された兵士。修道院の室内。
4 修道女
モデルは弟の妻(=妻の姉)。
キャプションによると、この絵の下には、舞踏会の衣装を着た同じモデルの絵があるのだそうです。
5 懺悔の前
死刑の宣告を受けた革命家が、暗い独房の中で最後の告解を勧める教誨師と向き合っている。
この革命家の姿に見入りました。
6 思いがけなく
登場人物の表情が秀逸。
この男性の帰還は、よっぽど「想定外」の「あっては欲しくない」出来事だったのだろうか。
驚愕の4人の子供たちは、1男3女なのでレーピン家と同じ構成。
7 休息-妻ヴェーラ・レピーナの肖像
温かい絵。
8 女性ピアニストの肖像画2点
1887年「ゾフィー・メンターの肖像」と1890年「ルイーザ・メルシー・ダルジャントー伯爵夫人の肖像」。
前者が40歳の最盛期の姿、後者は病床の姿(その11日後に亡くなる)。それが隣り合わせで展示。
お気に入りの展覧会となりました。
本展は、Bunkamuraの後、浜松、姫路と巡回し、最後が来年4~5月の神奈川県立近代美術館葉山館。
余裕があれば、その季節にあの環境で再観賞するのもよいかも。