国宝 聖林寺十一面観音
―三輪山信仰のみほとけ
2021年6月22日~9月12日
東京国立博物館本館特別5室
奈良県桜井市の聖林寺が祀る《十一面観音菩薩立像》は、1951年開始の新国宝制度において第1陣で国宝に指定された奈良時代・8世紀の名品仏である。
1887年、秘仏の禁を解いたフェロノサは「ここから一望できる盆地にどれほど素封家がいるか知らないが、とうていこの仏像一体におよぶまい」と語ったとされる。また、和辻哲郎や白洲正子、土門拳など多くの人がこの仏像の魅力を語っているようである。
聖林寺では、そのプロポーション、天衣・裳裾、右手の表情など造形の魅力を語る術として「ミロのヴィーナス」を引き合いに出している。
(2018年2月の聖林寺訪問時の写真)
本仏が収められている聖林寺の収蔵庫は、1959年に建立された日本初の鉄筋コンクリート造りの収蔵庫であるが、老朽化に加え、地震などの対策はなされておらず、自然災害への対策は不十分。
このため、免震機能付きの収蔵庫に改修することとし、資金確保の一環として、多数の外国人来日が見込める2020年に東博と奈良博での展覧会を計画する。
本仏は、奈良博では1998年に展示されたことがあるらしいが、東博では初めて、というか、奈良県の外に出ること自体が初めて、という大企画。
しかし、コロナ禍で展覧会は1年延期。これに伴い、2020年5月に着手、2021年4月に落慶予定であった収蔵庫改修計画も1年延期となる。
今般、2021年に延期後の東博の展覧会は、予定どおりに開幕。
収蔵庫の改修も、2022年4月末までの完成に向けて取り進められている模様である。
一方で、2019年には月200万人を超えていた訪日外国人数は、2020年3月以降、壊滅的に減少(最小1千人、最大58千人)。東京五輪も、海外一般客のみならず、国内一般客も受入断念し、無観客が基本となる。東博の展覧会も、時短開館+事前日時指定予約制による人数制限により、入場者数は当初期待には至らないであろう。
聖林寺は、平行して、現在2回目のクラウドファンディングにより資金支援を募集中である。
本展は、本館特別5室での開催。
事前日時指定予約制(9:30〜12:00、12:00〜14:30、14:30〜16:30の3つの入場枠)であるが、当日券も若干数用意しているとのこと。
私は、週末の3つ目の枠に予約し、15時前に入場。当枠について言えば、最初の1時間ほどは相応に人がいるが、1時間経過以降はかなり空いた状況で鑑賞できる。
部屋の中央、ガラスケースに収められた国宝《十一面観音菩薩立像》。その美しい姿を360度鑑賞。
また、付属の、動を感じる植物文で装飾された《光背残欠》や婉曲形が優雅な《台座蓮弁》も。
本仏は、三輪山を拝する桜井市の大神神社の境内にあった寺(神宮寺)である大御輪寺の本尊として祀られていたが、明治元年の神仏分離令を受け、親交の深かった聖林寺に移されたとされる。
同じく大御輪寺に祀られていたが、明治元年の神仏分離令を受け、他の寺に移された仏像3軀も本展に出品される。
国宝《地蔵菩薩立像》平安時代・9世紀。同じく聖林寺に移され、その後法隆寺に移される。
《日光菩薩立像》と《月光菩薩立像》ともに平安時代・10〜11世紀。奈良市の正暦寺に移される。
重文《不動明王坐像》は、本展には出品されず、写真パネルでの紹介。桜井市の玄賓庵に移される。
これら仏像の約150年ぶりの再会も本展のみどころである。
また、国宝《十一面観音菩薩立像》の背後に置かれた、大神神社の三ツ鳥居の再現模型もみどころ。御神体・三輪山を仰ぎ見る拝殿とその奥の禁足地の間の結界として設けられた鳥居である。国宝の背景としてあるのはいかがかとも思うが、単体で見る分には面白い。
《三輪山絵図》室町時代・16世紀により、大神神社の境内、拝殿や三ツ鳥居、大御輪寺の位置を確認しておきたい。
本展の奈良博での開催は、2022年2月5日〜3月27日の予定。その後に聖林寺の新収蔵庫が完成することとなる。新収蔵庫で公開されたら再訪したいものである。