東京でカラヴァッジョ 日記

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【後期】「甲斐荘楠音の全貌」展(東京ステーションギャラリー)

2023年08月12日 | 展覧会(日本美術)
甲斐荘楠音の全貌
絵画、演劇、映画を越境する個性
2023年7月1日〜8月27日
東京ステーションギャラリー
 
 
 後期入りした甲斐荘楠音展を金曜日の夜間開館時に訪問する。
 
 
 7/30のNHK日曜美術館は、「妖しく、斬新に、そして自由に 大正画壇の異才・甲斐荘楠音」。
 美術家・森村泰昌氏が出演し、《島原の女(京の女)》に扮する映像が流れた。
 
 単眼鏡を利用して、《島原の女(京の女)》大正9年を観る。
 この女性の微笑みは、レオナルド・ダ・ヴィンチだ、と思う。初期のレオナルドか。
 
 大正7年の第1回国画創作協会展(国展)に出品し、岡本神草《口紅》と樗牛賞を競い合ったという《横櫛》第2作は、昭和38年頃に甲斐荘自身の手により改変され、「モナリザの微笑みの片鱗が永い年月を経てこの絵に出たのだろうか」と述べた女性の大正当時の微笑みは、現況では伺うことはできないとされている。島原の女(京の女)》のような感じなのかもしれない。
 
 そう言えば、甲斐荘が大正15年の国展に《女と風船》(現存せず)を出品したところ、「穢い絵は会場を穢くしますから」と陳列を拒絶した土田麦僊は、レオナルディスキの代表画家であるベルナルディーノ・ルイーニが大のお気に入り。
 レオナルディスキ同士だからこそ、いっそう相反するところがあるのだろうか。
 
 
 本展での私のお気に入りは、次の3作品が並ぶ一画。
 
・「受胎告知」を参照し、白長襦袢姿の妊婦らしい女性を描く《白百合と女》大正9年、個人蔵。
・岸田劉生を想起させる、手に花を持つ女性をデロリと描く《女人像》大正9年頃、個人蔵。
・《島原の女(京の女)》大正9年、個人蔵。
 
 加えて、1点はさんで隣の、後期展示の屏風画も気になる。
 
《青衣の女》
大正8年頃、京都市美術館
 
 モデルは、甲斐荘の友人の妹で、甲斐荘の婚約者であった丸岡トク。トクはしばしば甲斐荘宅を訪れモデルを務めていたらしい。本作のもととなったらしい写真の図版も紹介されている。
 しかし、本作制作の翌年、トクは20歳年上の素封家の新実八部兵衛と結婚する。無理強いされたのか、逃げたかったのか、いずれにせよ甲斐荘は捨てられる。
 この事件は、甲斐荘の人生あるいは画風にどう影響を与えたのだろうか。
 
 
 そのほか、《秋心》、《毛抜》、《横櫛》第1作(第2作は前期限り)、《舞ふ》、《春宵(花びら)》、《幻覚(踊る女)》など、通期展示の京都国立近代美術館所蔵の妖しい系代表作を楽しむ。
 
 
【本展の構成】
序章  描く人
第1章 こだわる人
第2章 演じる人
第3章 越境する人
終章  数奇な人
 
 
 本展の終章は、甲斐荘21歳頃に着手しながら未完として残された大作2点にあてられる。
 
《畜生塚》
 大正4年頃、京都国立近代美術館
 ミケランジェロを想起させる体躯の裸体の女性群像の迫力。
 中央の群像は、ミケランジェロの4つのピエタ像のうちの1つ、未完の《バンディーニのピエタ》フィレンツェ・ドゥオーモ美術館所蔵に着想を得たとされている。他にも楽園追放を参照したのだろうところも見られる。
 
 また、畜生塚に関連するスケッチ数点も、小さいながら、それぞれ見応えがある。
 特に、後期展示の《畜生塚由来(草稿)》昭和52年頃、名古屋市美術館  は、着手から60年後の制作であること(制作目的は知らない)、群像の一部の体勢を少し変えて、流れるような感じになっているのが印象的。
 
《虹のかけ橋(七妍)》
 大正4〜昭和51年、京都国立近代美術館
 昭和51年の個展に向けて、太夫の顔をすべて洗い落として描き直し、結果、晩年の好みの瓜実顔となった。21歳頃の甲斐荘と80歳頃の甲斐荘の合作は、妖しい感は消滅し、怪しくなった印象。
 
 
 
 結局、前期の記事、後期の本記事とも、序章、1章の一部、終章の展示作品の記載となり、2章の演劇への愛着、3章の時代・衣装考証家としての時代劇映画での活動については、取り上げなかった。
 
 
 ミュージアムショップでは、甲斐荘の画集2種類が置かれている。
 一冊が、2009年に刊行され、14年ぶりに重版された求龍堂刊の画集『甲斐庄楠音画集 ロマンチック・エロチスト』。ちらっと中身を見せてもらったが、大正時代の作品は、本展出品作以外にも、相応数あるらしいことを知る。
 もう一冊が、本年(2023年)求龍堂刊行の『甲斐荘楠音 知られざる名作ー官能と素描』。京都の星野画廊が秘蔵する男性裸体を中心とする素描作品80余点掲載とのこと。そのためか、中身を見れないようにして置いている(ショップの人にお願いすれば見本を出す旨の案内あり)。「エゴンシーレを思い起こす卓越したデッサン力」と宣伝されている。
 この2冊と本展図録を保有すれば、かなりの期間、甲斐荘作品には困らないだろう。


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