2017.2.3(金)
ザ・空気
at 東京芸術劇場シアターイースト
作・演出 永井愛
出 演 田中哲司/若村麻由美/木場勝己/江口のりこ/大窪人衛
http://www.nitosha.net/kuuki/
テレビ局の報道番組のスタッフが、本番前の慌ただしい時間の中で、特集の内容をその変更をめぐって激しいやりとりを繰り広げる。
スピード感のある舞台の進行の中で、ともすれば聞き流してしまいそうな言葉の中身の重さ、怖さ、危うさに気づくと、その進行の中でもふっと体のどこかが立ち止まって動けなくなる感覚に襲われる。
報道に携わる人たちがどのような立ち位置で、どのような使命で自分たちの業務を推し進めるかによって、私たち一般人の見る風景が異なるという事実。そんな当たり前のことを改めて突きつけられる現実だ。
「ミスター・バランス」と呼ばれるアンカーのベテランジャーナリストの姿勢に対しての主人公の言葉が心に残る。
たとえば、AとBという考え方(保守と革新ととらえてもいい)に対して「メディアは常に中立であるべきだ」という意向は至極まともに聞こえるけれど、もしAが限りなくその姿勢を強めて極端に走った場合、そのときの「中立」の位置は以前の場所よりもよりA寄りになるという事実。当たり前のことだけれど、図式でわかりやすく解説してもらった感が私にはある。ああ、そういうことか。そうやって「勘違いの中立」に私も騙されてはいないか。
まさに「今のこの国」の現実を真正面から取り上げた作品。
目まぐるしく駆け引きを繰り返す5人の行動の背景に、かつてメディアの良心を貫いて不当な批判の犠牲となって自死したアンカーの亡霊が舞台上に確実に存在する。
その中で、追いつめられていく編集長・今森(田中哲司)、現政権とつながっている局の上層部に全力で抵抗しながら最後は屈服してそちら側に下ったと見えるキャスター・来宮(若村麻由美)。
2年後、すでに憲法が改正され、報道の自由が著しく失われているであろう現実の中で、以前の毅然とした姿を失ったかに見える今森は、これまでとは異なる姿勢で「自分の報道」を続けたいと宣言する。それを笑って否定して去っていく来宮。
彼女は最後にもう一度ステージに現れ、二人は爆音の空を見つめる。その背中に、こんな現実でもそれでもと立ち向かう人間のしぶとさと、いや、そんなことはできるのか?という迷いの両方が垣間見れる。そのどちらが・・・というのは、見る側に委ねられているような気がした。
私は?
私は、しぶとい人間に貴重な一票を・・・と言いたい。
役者の一人一人が本当にすばらしかった。セリフ劇でありながら、その動きにも大きな意味があり、役者たちがその緊張感を保ち続け、私たちを引っ張っていく。
コミカルな部分もあり、でもそれだからこその怖さや憤りや矛盾を、自分の中に見ざるを得ないような、息苦しい時間だった。
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