kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング part one

2023年08月27日 | ★★★★☆
日時:8月25日
映画館:サロンシネマ
パンフレット:880円







毎度毎度、トムくんの派手なアクションばかりが話題になって、敵をだまして事件を解決する「スパイ大作戦」の肝心の面白みが薄味な本M:Iシリーズ。007シリーズほど思い入れはないが、義務的に劇場に足を運んできた。そして、遂に前後編で登場。(パート2はまだ撮影していないらしいので、もしかしたらパート10くらいまであるのかも知れない。)

さて、今回の事件はベーリング海航行中のアカそうな某国の原潜が魚雷の誤発射で自沈。艦内には試験中の最新AIが搭載されていたのだが、海底に沈んだAIが自己を持って暴走し、世界中の情報機関のシステムに侵入して、全世界の情報をコントロールしようとする。このことに気付いた世界中の情報機関はAIをコントロールできる2本の鍵を探して、世界中で暗躍しだし、アメリカ政府もIMFのイーサン・ハントに鍵の入手を命じるのだが・・・

スパイ映画には毎度おなじみのアイテム争奪戦がテーマなのだが、今回、面白いのは敵がAIそのものだという点。ロボットや無人ドローンが登場するわけではなく、AIに見初められた世界破滅型のテロリストがその手足となって立ちふさがる。

長らくスパイ映画の敵役だったソ連と東側諸国がなくなってから・・・なんて思っていたが、映画史的にはすでにスパイ映画に東側が登場した年数より崩壊してからの年数の方が長くなっている。犯罪組織やテロ組織がいくら頑張ってもアメリカの国力に並ぶわけがなく、M:IシリーズもなんとかしてIMF側をピンチにさせようと苦労してきたことが感じられたが、今回の敵AIはアメリカ側を上回る力を持っているのでその辺は説得力がある。

今回は過去シリーズに出てきた女性も多数登場し、ハント君と絡めていくが、M:Iシリーズに出てくる女性はいつも似たような雰囲気なので正直、どの映画で何をしてた役だったか分からない。さらに最近の007同様、「過去に出会った女性とどーしたこーした」と話を別の方向で膨らませるのはやめてほしい。そんな面倒くさいヤツを現場に使うな(笑)

力まかせのアイテム争奪戦が2時間40分続くが、意外と飽きない。ここはやっぱり敵AIの強さがストーリーに上手く活かされて、IMF側が守勢に回っているせいだと思う。

肝心の鍵がどうやって争奪戦の俎上に出てきたのが最大の謎なのだが、その辺はパート2で語られるかも知れないし、そのままスルーさせるかも知れない。それよりこのアイテム争奪戦の構図が「続・夕陽のガンマン」そのままなのは興味深い。パート2のクライマックスはきっと原潜内での三角決闘に違いない。

次のパート2で敵AIに近づくには宇宙から降りるしかないのではないかと思うと、そういえばトムが先日宇宙でロケしたって話がニュースに出ていたような覚えがある。あれはパート2の撮影ではなかったのだろうかと邪推したり。何年先か知らないが、パート2まで今回の映画の内容を覚えておくのが最大の不可能任務だな(笑)

ところで、ローマで女テロリストが激走させる4WD。予告編ではロシアのティーグル装甲車に見えたけど、ちょっと違う。劇中ではイベコ社のリンチェ装甲車っぽくもあったが、後で調べてみたらハマーH2の映画用改造車だったらしい。なかなかそれらしくカッコ良くできており「ダイハード/ラストデイ」の装甲車しかり、派手なカーチェイスを演出するには使い慣れている民生車の改造車の方がいいのかも知れないというのが今回最大の収穫。

最近のM:Iシリーズの中では面白かったので、評価は
★★★★☆







題名:ミッション:インポッシブル/デッドレコニング part one
原題:Mission: Impossible - Dead Reckoning Part One
監督:クリストファー・マッカリー
出演:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、レベッカ・ファーガスン、イーサイ・モラレス、サイモン・ペグ、ヴィング・レイムス
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

聖地には蜘蛛が巣を張る

2023年07月03日 | ★★★★☆
日時:6月23日
映画館:サロンシネマ



イランで起きた娼婦連続殺人事件を取り上げた映画。
よくこんな政治的に際どい映画を作れたなと思ったら、制作はデンマークやフランス、ドイツ、スウェーデンの合作で、ロケ地はヨルダン。監督のアリ・アバッシはテヘラン生まれ。

2000年代、イランの聖地マシュハドで娼婦の連続殺人事件が発生、女性ジャーナリストがその事件を追う。
保守的な土地柄で女性でジャーナリストというだけでハードルが立ちはだかり、まず一人で宿泊することさえ拒否される。
犯人からの犯行電話を受ける同僚ジャーナリストとともに事件を追うが、被害者が娼婦で、さらには犯人が「街の浄化」を声明していることから警察の腰も重い。絶大な権力を持つ聖職者も彼女の訴えには耳を貸さない。

同時進行で犯人の犯行も描写される。犯人は妻子のある退役軍人だが、娼婦を悪とみなして殺意が抑えられず凶行を繰り返す。犯行のシーンがハリウッドとは違って、日本映画のそれっぽくってなかなか痛々しい。

主人公はいくつかの手がかりから犯人像を絞り込み、一か八かの囮調査に乗り出す・・・

この映画の見どころの1つは試練に立ち向かう女性像で、我々の感覚ではなかなかわからない女性差別に立ち向かう。追うべきは犯人だが、周辺環境全てが不利益に働く。

主演ザーラ・アミール・エブラヒミのキリッとした顔立ちが印象的で、特に口回りとアゴのラインはワタシ好み。
犯人も犯罪と自覚しながらも、信念がゆえ凶行が止まらない。時として只ならぬ狂気がにじみ出る。

実際の事件が元になっているので、一応、事件は解決するが、重々しいしこりが残る。それももちろん一方の側からの視点なので、もう一方の側から見れば正義の行いとされるのかも知れない。

宗教が犯罪を起こすわけではないけど、時として社会は犯罪を正当化してしまいかねないという描き方で、多文化についていろいろと思いを巡らせ、ちょっとアラビア語の読み方も学びたくなったので、
評価は★★★★☆。

ところで、原題は本事件の犯人スパイダーキラーから「Holy Spider」。タイトルバックでは街中の街路の明かりを蜘蛛の巣に見立てており、これに「聖地には蜘蛛が巣を張る」とした邦題は見事だと思う。







題名:聖地には蜘蛛が巣を張る
原題:Holy Spider
監督:アリ・アバッシ
出演:ザーラ・アミール・エブラヒミ、メディ・バジェスタミ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モリコーネ 映画が恋した音楽家

2023年03月18日 | ★★★★☆

日時:3月1日
映画館:サロンシネマ

広島では上映期間2週間で終了ギリギリに平日休みを取って観にいったのに、2週間後に再上映。オイオイ。
何でも満席が出るくらい入りが良かったらしい。確かにワタシの時も平日午前中にも関わらず、まずまずの入り。

「ドキュメンタリーで2時間半もあるのに何でですかねー」とは劇場関係者の弁。

確かに映画音楽ドキュメンタリーでこの上映時間は長い(1時間半くらいだと思っていた)し、全編を通して音楽の基礎知識とか素養がないと置いてけぼりをくらうところが多々ある。

にも関わらずロングランしているのは、それだけ世の中にマカロニ・ウエスタンファンが多いから!・・・な訳がなく、やはりそのキャリアゆえなんだろうな。
映画人生が長ければ長いほど、どこを切り取っても聴いたフレーズ、見覚えのある場面に出会うことができる。

モリコーネ本人へのインタビューは深く、矜持と自虐が入り混じった職人としての生き様や、生涯学究の徒のような人生への向き合い方など感嘆しかない。
他の音楽家も同じような思いで仕事しているんだろうけど、モリコーネでしか語れない独特の風格がある。

他のインタビュイーの多彩さも魅力で、半分くらいは誰か分からなかったりするが、そんな中でいきなりエンツォ・G・カステラッリ親方が出てきたのはビックリ。カステラッリ作品ではモリコーネは少ないし、この文脈でカステラッリ親方に声がかかるとは思わなかった。
しぶとく元気で当時の空気感を語れる点では数少ない生き残りなのかも知れない(誉め言葉)

タランティーノなんか「いつも既存の音楽をつぎはぎしているんだから、新曲なんかいらんだろ」って言われながら、最終的にはオスカーをもたらしたわけだから、マカロニ的には感動譚であるわな。

マカロニ野郎としては一部とは言えスクリーンでマカロニが観れるだけで感激で、実質的に映画は中盤で終わったようなものなのだが。

監督が「ニューシネマパラダイス」「海の上のピアニスト」のトルナトーレということで自作の話題が多いかと思いきや、その辺の控えめな配分も好感が持てます(笑)

ということで評価は★★★★☆

にしても、「ガンマン大連合」の指揮シーンは観たかったぞ(笑)







題名:モリコーネ 映画が恋した音楽家
原題:ENNIO
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:エンニオ・モリコーネ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブレット・トレイン

2022年09月22日 | ★★★★☆


謎のアタッシェケース強奪を依頼され、新幹線(なのか?)に乗り込んだブラピがいろいろ仕組まれたトラブルに巻き込まれるインバウンド・アクション映画。

スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい」とか「コンティニュー」とか個性豊かな(というか行き当たりばったりな)殺し屋がバトルロワイヤルする映画って好きなんですよ。

なのでいいですね。誤った方向で誇張されまくった日本(らしき国)で殺し屋大乱闘(笑)
東京発京都着の新幹線「ゆかり」は夜行特急だし、富士山は岐阜か滋賀あたりにあるし、新幹線の中には着ぐるみキャラクターが常駐しておもてなししてくれるし、今はなき食堂車にはバーカウンターがあって大吟醸が置いてあるし、ヤクザの本拠地には鳥居があるし、ツッコミどころというよりもうこういった世界観だと楽しむのが一番。

最初、ちょっとストーリーが分かりにくいきらいもありますが、殺し合いを繰り返すうちに徐々に全体像が見えてくる。なんだかんだと引き込まれます。(伏線が見事という評価もありましたが、これは伏線とは言わん。)

配役的には暴力系アメコミ映画の常連の顔ぶれが良くて、こういった肩の力の抜けた映画にはハマリ役のチャニング・テイタムとライアン・レイノルズのカメオ出演がいい。そしてサンドラ・ブロックがいつもながら素敵。
あとで分かったけど、「スーサイド・スクワッド」「ザ・ボーイズ」のカレン・フクハラも可愛い!

もう「デッドプール2」「キックアス」「フリーガイ」「ザ・ロストシティ」がごっちゃになってどれがどれだがわからない!!(笑)

ワタシの映画評価の星は星になった人の数という説もありますが、
そういった面でも★★★★☆。







題名:ブレット・トレイン
原題:BULLET TRAIN
監督:デビッド・リーチ
出演:ブラッド・ピット、アーロン・テイラー・ジョンソン、ジョーイ・キング、真田広之、マイケル・シャノン、サンドラ・ブロック

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライダーズ・オブ・ジャスティス

2022年05月23日 | ★★★★☆
日時:5月9日
映画館:八丁座

マッツ・ミケルセンのデンマーク軍兵士は海外に派兵中、妻が電車事故で亡くなった知らせを受ける。帰国した彼の元に現れたのはオタクなITエンジニア。事故に遭った電車に乗り合わせており、さらにその列車に裁判で証言することになっていた過激派組織の元メンバーもいて、同様に亡くなったことに疑問をいだいていたのだ。さらにハッカーや画像処理の専門家といった仲間の協力を得て、過激派組織の一員が列車事故直前に下車していたことまで突き止めていた。
事故の背景を知ったマッツの復讐心に火が付き、過激派組織を追い詰めていく・・・という「狼よさらば」「狼の死刑宣告」「デス・ウィッシュ」などに通じる自警団(ヴィジランテ)映画。

マッツはいつもは物静かな男なのだが、暴力衝動を抑えられない一面があり、これが原因で一人娘ともぎくしゃくしている。過激派組織をぶっ殺すとなると市街地で銃撃戦はもちろんのこと、組織のメンバーを無警告で後ろから撃つことも厭わない。議論がかみ合わないと味方でも平気でぶん殴る。

一方、彼をサポートするITエンジニアメンバーも何かしら心に傷を負っており、マッツの復讐戦に関与したものの、当然、あたふたと振り回されて死にそうな思いをすることになる。さらにそこにウクライナから来た男娼も絡んでくる。

面白いのは、このように復讐を仕掛ける側がみんなどこかにコンプレックスがあり、お互いが補完しあっていく点。自警団映画ではあまりなかった視点だ。

しかし、物語が進むうち、事態は全く思いもよらない方向に転んでいく。マッツの復讐はどうなる?

登場人物の描き方もさることながら、ストーリー組み立ても面白く、不幸な事件の発端は人を思う行為だったり、その逆だったりする点。世の中は思いがけないところでリンクしており、それがどのような影響を及ぼすかは誰にもわからない。劇中でも遡って考えても何も生み出さないことが言及される。今、目の前にあることがすべてという視点は禅に通じるなあ。

大量に人が死んだ後のエンディングなのだが、なぜかハッピーエンディングにほのぼのさせられる。

たぶん映画館で見る初めてのデンマーク映画でもあり、自警団映画としても面白かったので★★★★☆

ところで、タイトルの「ライダーズ・オブ・ジャスティス」(正義の騎士団)はデンマーク原題でも同じ意なのだが、実は過激派組織の名前。しかし、マッツ一味もコインの裏表だという意味も込められているあたりに製作陣の意図が見える。






題名:ライダーズ・オブ・ジャスティス
原題:Retfaerdighedens ryttere/Riders of Justice
監督:アナス・トーマス・イェンセン
出演:マッツ・ミケルセン、ニコライ・リー・カース、アンドレア・ハイク・ガデベルグ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オペレーション ミンスミート

2022年05月05日 | ★★★★☆
日時:5月1日
映画館:八丁座



第二次世界大戦中、イギリス軍が実施した「英国軍将校に見せかけた死体にニセ機密書類を持たせ、わざとドイツ軍の手に入れさせることでかく乱する」ミンスミート作戦の映画化。

第二次大戦中のイギリスの諜報戦と言えば、本作の原作となっている「ナチを欺いた死体: 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実」とか劇中にも登場するジョン・マスターソンの著作「二重スパイ化作戦」やマジックギャングによる偽装作戦「スエズ運河を消せ」などなかかな面白い本が多い。総じてイギリス人の謀略って・・・です。とは言えまさか本作が映画化されるとは思わなかった。

この手法そのものはかなり以前から公になっていてワタシが小学生の頃に読んだスパイ本にも書かれていたと思うし、「砂漠の戦場エルアラメイン」のパンフレットにも記載されていた覚えがある。

映画前半は偽装した死体をいかに本物に仕立て上げるかの作戦編、後半はその死体をいかにナチに信じ込ませるかの実施編。まさに「スパイ大作戦」そのまんまの展開だが、「アルゴ」のように第一線の現場に出向くわけではなく、生真面目に作戦を追ってもドキュメンタリー番組にしかならないので、盛り上げるために男女のロマンスなど交えている。面倒くさい話ではあるが、映画なので目をつむろう。

割と細部にも凝っており、007の原作者イアン・フレミングの登場はもとより、二十委員会とかダブルクロスといった専門用語が頻発されて嬉しくなってしまう。アナログな作戦展開も現代の目で見ると新鮮。ちなみに原作本で一番良く覚えているのが「死体にブーツを履かせることがどうやっても出来なかった」くだりなのだが、残念ながら映画では採用されず。

キャスティング的にはこの手の映画に王道のコリン・ファースが主役だが、もはや貫禄がありすぎて作戦に不安感を覚えないのが難。むしろ現代のオタク像を投影したかのような空軍将校、マシュー・マクファデンに好感。こういったオタオタした登場人物は昔の戦争映画にはいなかったので、すごく現代的だと思う。
ジェイソン・アイザックスは作戦の最高司令官にあたるゴドフリー提督を演じているが、「他人の提案はとにかく反対」型の官僚役はこの人の伝統芸の域に達しつつあるな(笑)
タバコをプカプカふかす当時の働く女性たちも素敵です。

この映画、演出は平坦で映画としては退屈な部類に入ると思うが、素材への真面目な取り組み方は印象が良い。この手の映画の常としてエンドクレジットで作戦の評価が出るが「イギリスが行った欺瞞作戦の中では壮大なものの1つ」と過大評価していない。よくある「この作戦が何十万人の兵士の命を救った」とか「大戦の趨勢を決した」と誇大広告な言い回し、好きじゃないんですよ。そうそう、戦争の流れはそんなことでは変わらない。
あと、最後に作戦で使用された路上生活者の死体のその後についてもちゃんと言及されたあたりはちょっと涙。

地味な映画ではあるが、個人的な趣味と思い入れもあって★★★★☆。

ところで007の原作本を読んでいると当事者しか知らないようなリアルな描写が散見されて「フレミングはやはり現場の人だな」と思わせる。「死ぬのは奴らだ」のクライマックス、ボンドは海中から敵の船に磁力爆雷を貼り付けるのだが、磁力が強くて引っ張られるのを引きもどすという描写などは現場を知る人しか書けないな。






題名:オペレーション ミンスミート
原題:Operation Mincemeat
監督:ジョン・マッデン
出演:コリン・ファース、マシュー・マクファデン、ジェイソン・アイザックス

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コーダ あいのうた

2022年02月02日 | ★★★★☆
日時:1月29日
映画館:八丁座


主人公の女の子ルビーはろうあ者の家族で唯一の健常者として家業の漁業を手伝いながら、高校に通っていた。合唱クラブに入った彼女は、個性的で厳しい音楽教師からその歌声と才能を見出され、音楽大学への進学を後押しされる。一方、家業の漁業は一大転機を迎え、そのためにはルビーが不可欠な存在だった。家族と家業か、自分の才能かの選択を迫られることになる・・・

家族や親のために子供がどこまで尽力しなくてはならないかという点はヤングケアラー問題や8050問題に通じるところがあり、今のところ幸いにも我が家には起きていないが、自分のこれからを考えるとなかなか答えは出ない。

ストーリーとしては安定の展開なので、安心して見ていられる反面、響いてくるところは少ない。何と言っても、音楽はワタシの守備範囲外なので選曲センスが分からないのが問題点なのだが。(分かったのは「I fought the law」くらい。)
とは言え、一番の理解者であるはずの家族に才能を分かってもらえない悲劇性は見ていて辛い。

気になったのは主人公が手伝うまで家族はどうやって漁業をやっていたかって点。何かしら説明があっても良かったのではないかと思う。

全編を通して「赤」がキーワードになっており、主人公の名前は赤をイメージさせるルビーとイタリア語の赤「Rosso」に通じるロッシでルビー・ロッシ。彼女の人生の転機になるシーンでは「赤シャツ」とか「赤いドレス」を着用している。彼女の情熱以外にもそれまで生活していた海(青)と対比させているのかな。なにもアカいものに過剰反応しているワケではない(笑)

ミスコンにも出た美人の母親役はマリー・マトリン。「愛は静けさのなかに」「ウォーカー」以来で久しぶりすぎて、こんな顔だった?と思わせるが、フィルモグラフィを見る限りではずっと活躍されていたみたい。

ストレートに家族愛を描いた映画なので、評価は★★★★☆

ところで、主人公たちが結構、間近で会話するシーンなんかにはものすごく違和感を覚えてしまう。コロナ禍のせいだな。






題名:コーダ あいのうた
原題:CODA
監督:シアン・ヘダー
出演:エミリア・ジョーンズ、マリー・マトリン、エウニジオ・ダーベス
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ハウス・オブ・グッチ

2022年01月23日 | ★★★★☆
日時:1月21日
映画館:サロンシネマ


リドリー・スコットが描く1996年に起きたマウリッツィオ・グッチCEO暗殺と主犯である妻パトリッィアとの愛憎の物語。

物語は1978年にイタリアで二人が知り合うところからスタートするが、同時代のイタリアでマウリィツィオと言えば、グッチではなく、マカロニ犯罪映画、ポリツィオッテスキで活躍したメルリの方だ。同時代の雰囲気がよく出ていて、パトリッィアが勤めていたトラック運送会社なぞ、いつ犯罪の舞台になるのかとそちらの方に関心が行ってしまう。(もちろんそうはならない。)

ふたりは愛し合い、一族の経済格差も乗り越えて結婚。元々、弁護士志望だったマウリィツィオもグッチブランドの会社経営に関わっていく。

狂乱の80年代に入り、グッチブランドの方針をめぐり顔もファッションも喋りもくどい面々の思惑の相違が徐々に表面化してくる。ちなみにこういった場面でカッコいいのは、何をするでもないのに黒いスーツに細身のブラックタイでブランド王侯たちの後ろでかしずいている面々。

その内紛にパトリッィアは積極的に関与していき、マウリィツィオも徐々に感化されていく。マウリィツィオを操ろうとするパトリッィアはマクベス夫人のようでもあるのだが、事態はさらに悪い方向に進んでいく。
ポスターに名前の出ている登場人物は暑苦しい圧を持つ人ばかりなのだが、パトリッィアを演じるレディ・ガガの圧力(いろんな意味で)がなかなか迫力で、ひんむいた目元ばかり思い出してしまう(笑)
だから逆に図体のデカイ男にしか見えないアダム・ドライバーが映えるし、その行動も際立つのだが。

宮廷ドラマかソープオペラのようなゴテゴテした展開なのだが、これが実話なのだからイタリア人はこわい。
面白いのは各人とも私利私欲ではなく、真面目にグッチブランド維持のために動こうとするのだが、それが全て裏目に出ていくところ。金持ちは大変だ。
そう思うとリドリー・スコット映画の登場人物って、良くも悪くも真面目なのだが持てるエネルギーの使い方を誤るキャラクターが多いような気がする。

あと、やはり素晴らしいのはそのプロダクションデザイン。ロケを含めて画面の背景への手間のかけ方、金の掛かり具合が半端でなく、ドラマへの効果絶大な吸引力を持っている。

逆に惜しむらくは顔ぶれがオールスター過ぎて、どうしても先入観や余分な情報が入ることと、セリフが英語って点。これが地味な俳優で、イタリア語と英語で会話したら、しびれるほど面白い傑作だったと思う。

そんな中、ブラックスーツのジャック・ヒューストンがマカロニな悪役感を出していていい感じです。

ところで、見終わったらいつものマカロニ病が再発して、ポリツィオッテスキドキュメンタリー「ユーロクライム! 70年代イタリア犯罪アクション映画の世界」を再見しているワタシは病根が根深い。






題名:ハウス・オブ・グッチ
原題:House of Gucci
監督:リドリー・スコット
出演:レディ・ガガ、アダム・ドライバー、ジェレミー・アイアンズ、アルパチーノ、ジャレッド・レト、サルマ・ハエック


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クライ・マッチョ

2022年01月22日 | ★★★★☆
日時:1月19日
映画館:バルト11


まず、ストレートな感想から言うと「泣いた、最後に泣いた」。

じゃあ、「泣ける映画」なのかというと、改めて考えるとそうではない。
その理由は追々。

さて、物語から。
1980年、若いころロデオで鳴らした主人公マイク・マイロだったが、事故を契機に引退し、齢を重ねていた。そんな折、昔から世話になっているテキサスの牧場主から「離婚して本国に帰ったメキシコ人嫁が連れて帰った一人息子ラフェを自分のところに連れて帰ってこい」と依頼される。
メキシコに入国したマイロはラフェをすんなり発見し、誘拐まがいにテキサスに連れて帰る旅を始める・・・

イーストウッドでよく見るロードムービーものだ。砂漠の荒れた道を砂埃上げながら走るさまも美しい。
もちろん、連れて帰るのを阻止すべくギャングやマフィア、警官が襲い掛かってきて、いたるところで銃撃戦・・・にはならなんだ。
それにここにはジェオフリー・ルイスもベン・ジョンソンもハリー・ディーン・スタントンもいない。この景色に彼らがいないなんて悲しい。

途中、車を盗まれ、さらに官憲から身をひそめるため、片田舎の町で過ごすふたり。そこで野生馬の調教を手伝いながら、小食堂の家族と絆を深めていくが、やがて、テキサスに向け出発する時がやって来る・・・。

正直なところ、脚本はご都合主義的で各人のキャラクターも掘り下げが甘い。
imdbの評価では5.7とえらく低い(ワタシは7.0代を予想したが)のだが、単体の映画として観たらそうかもしれない。

【以下、ネタばれあり】
先に「泣いた」と書いたのは、やはり「イーストウッドの映画」として観ているからなんだな。
これまでイーストウッドの演じる主人公はカッコよくて、バカな男どもには年代に関わらず憧れだったが、実際には早撃ちのガンマンや暴力的な刑事になれるわけもなく、ずっと遠い存在だった。
ところが、しょぼくれて使いっぱしりでもかくしゃくとしたジジイなら、ようやく何とか真似できそうかと身近に思えてくる。
それでも91歳になってもあんなカッコいい色気を漂わせるなんてさすがだ。

イーストウッド作品は大概、死の匂いがプンプンしてて、最後は誰がツライ思いをするか死なないと終わらない。本作も最後にイーストウッドが撃ち殺されるか、国境を越えられないか、逮捕でもされるかと内心ひやひやして観ていたのだが、これがなんと誰も死なない。しかもミッションクリア。
さらに途中で知り合った小食堂の女主人とも仲良くなって、そこを終の棲家にする。たぶん年齢差30歳!
イーストウッド映画にしたら、信じられないようなハッピーエンド。

イーストウッド映画はたいがい辛くて2回観たいとは思わないのだが、この映画は何度でも観れる!(もちろんマカロニのドル3部作は全く別の話。)
血と暴力の歴史をたどってきた男が静かな晩節を迎えたかと思うと、もう胸が熱くて熱くて泣かずにはいられなかった。
しみじみ…

ところで、この映画製作の話は元々、40年くらい前からあったらしい。そう思うと主人公は70歳くらいのイメージではないかと思う。
90歳のイーストウッドが演じるなんてまさに「イーストウッドのイーストウッドによるイーストウッドのための映画」でしかないのだが、これを普通に映画化されていたら、見過ごしていただろうな。






題名:クライ・マッチョ
原題:Cry Macho
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ドワイト・ヨーカム、エデュアルド・ミネット、ナタリア・トラヴェン
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カラミティ

2021年10月19日 | ★★★★☆



タイトルどおり、西部の女ガンマン、カラミティ・ジェーンの少女時代を描いたフランスアニメ。
こういう一味変わった作品はちゃんと見ておかないと、劇場公開も短い上、なかなか配信他にかからなかったりする。
案の定、日曜日の鑑賞を予定していたら、他の映画の舞台挨拶中継とかぶってしまい、時間変更に気づいたのはほんの1時間前というあわただしい事態。あやうく見逃すところ。

さて、主人公は後にカラミティ(疫病神)と呼ばれることになるマーサ・ジェーンが西部開拓団のひとりとして幌馬車隊で旅しているところから始まる。
NHK Eテレの番組を思わせるような原色で彩られたアニメは、いかにもフランス的で新鮮。最初は違和感も覚えたりするが、すぐに慣れる。

マーサは父と幼い妹弟で旅しているが、父がケガをしたことや元々男勝りの性格だったこともあり、当時としてはご法度だった「女だてらに男の仕事」に挑むようになる。已む得ないとは言え、その行動はやがて開拓団の中で目を付けられるようになる。

ここで西部での生活やサバイバルについて、一から学ぶマーサが描写されているのは、なかなか興味深い。
これまでの西部劇だと「当たり前」のこととして描写されなかった日常生活や必要なギアがちゃんと描かれているのは感心するし、逆に「この世界の片隅に」でも分かるようにアニメの強みなのだと思う。実写だと背景の中に隠れてしまう日常生活の光景が上手く強調されている。
マーサと同じ素人の立場として観客も西部の生活を追体験しているわけだ。

開拓団に騎兵隊の斥候が来たことでマーサの人生は一変し、その後、開拓団を離れて旅をする中、小悪党、ハンター、保安官、騎兵隊、女鉱山主などが登場し、西部劇を盛り上げる。
やがて悪党とマーサの銃撃戦に発展し、最後は一対一の決闘・・・とはならず、劇中銃声は3回くらいしか聞こえない。
のだが、現代風にアレンジしたストーリー展開はなかなかいい。根底に流れる「人間には見た目と違う本当の素晴らしさがある」というアプローチは完全に21世紀の映画。

あと、日本語吹き替え版なのだが、これもなかなか良くて違和感が全然ない上、エンディングソング(日本語版)が実に素敵で、ちょっと感動してしまう。ぜひ普通に手に入るようにしてほしい。

ところで、弟の名前がエーリジャ。Elithaなのだが、イライジャとかエリジャって言わないと違和感あるなあ。






題名:カラミティ
原題:Calamity, une enfance de Martha Jane Cannary
監督:レミ・シャイエ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする