kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

歓びの毒牙

2025年01月14日 | ★★★☆☆
日時:1月10日
映画館:サロンシネマ
パンフレット:動物三部作のスペシャルパンフレット。ジャロ(黄色)を基調にしたデザインが秀逸。





<パンフレット。アルジェント研究会矢澤代表のサイン入り。>


<上映後のトークショー。左から司会進行のサロンシネマの戸川部長、アルジェント研究会の矢澤代表、今回の仕掛人キングレコードの山内氏>

イタリアホラーの重鎮ダリオ・アルジェントの初期の3作、通称「動物三部作」。
このリバイバル上映が広島でも上映。ということでデビュー作の本作に足を運んだ。

一連の連続殺人事件が報じられるローマ。この都市に来ていたアメリカ人作家のサムは数日後の帰国を前に、あるギャラリーで女性が刺される現場に出くわす。女性は一命をとりとめたものの、連続殺人事件との関連を捜査する警察にサムは帰国を足止めされる。
やむなくサムは素人探偵として彼女と一緒に殺人事件の調査に乗り出す・・・

作品はイタリア製猟奇サスペンス映画ジャンル「ジャロ」の1本なので、主題として描かれるのは調査云々ではなく、女性を狙ったエロティックで猟奇的な殺人。警察も捜査するが、ユーロクライムものとは正反対に全く役に立たない(笑)

ワタシの世代で言えば、アルジェントといえば「決してひとりでは見ないでください」の「サスペリア」に始まり、リアルに劇場で観たのはバブル経済華やかし80年代のホラー映画ブームの「フェノミナ」「デモンズ」あたりから。
なので「サスペリアpart2」から「シャドー」辺りまでのジャロあたりは押さえているが、改めて68年の本作を観るとアルジェント要素のほぼすべてが詰まっていて、後の作品はすべてこの焼き直しではないかと思わせるほど。

異国の地で犯罪に巻き込まれる外国人の主人公、黒手袋の殺人鬼とゾッとする殺人テクニック、予想外の犯人、見えたものの裏にある真実、オシャレだが不安感をあおる建築物、流麗な映像テクニック&トリック、文字通り尖った現代アート、そして突如登場する破綻したキャラクターと、後で思い返すと謎と不合理な展開(笑)

主人公サムを演じるのはトニー・ムサンテ。我々的には「豹/ジャガー」、世代的には「スキャンダル/愛の罠」だが、撮影時にはアルジェント監督と衝突して相当使いにくかったらしい。
役に立たない警察はエンリコ・マリア・サレルノ、キーパーソンとして登場するエキセントリックな画家はマリオ・アドルフとマカロニ系役者の登場は嬉しい。

音楽はモリコーネ。こちらも素晴らしい楽曲で不安をあおってくれる。

ローマの映像が素晴らしいのだが、特筆は最初の事件の舞台となるギャラリー。実物ではなくセットというが、映画的な仕掛けと現実味の微妙なブレンド具合が絶妙。

個人的にツボだったのは「ユーロクライム」でも語られていたJ&Bウイスキーの不必要なまでの登場。当時、広告費をもらっていたらしいが、時代的は先駆け(笑)

アルジェント映画は本作の数年後、全身に鳥肌が立つようなアイディアと映像トリックを見せてくれた「サスペリアpart2」である種の頂点に到達するので、そこと比べるといささか薄味に見えてしまうのはちょっと申し訳ないところだが、それでも充分面白い。

評価は
★★★☆☆

ところで、本作、初見だと思っていたが、IMDBのマイウォッチリストにはチェック済ということは以前観ていたのだ。
「見てないと思っていたものが実は見えていた」というのはアルジェント映画の基本です。






題名:歓びの毒牙
原題:L’Uccello dalle Piume di Cristallo
監督:ダリオ・アルジェント
出演:トニー・ムサンテ、スージー・ケンドール、エンリコ・マリア・サレルノ
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ポライト・ソサイエティ

2024年08月29日 | ★★★☆☆
日時:8月26日
映画館:サロンシネマ

ロンドン在住のインド系姉妹、姉は美大に進学するも自分の才能に限界を感じて挫折、女子高に通う妹はスタントウーマンを目指して、日々、訓練と動画自撮りに余念がない。
そんな中、姉はとあるご縁からパキスタン系富豪に見初められて付き合い始め、結婚に向かってまっしぐら。夢を捨てる姉を憂う妹は彼氏の不審な行動に気付き、結婚阻止に向けてあれやこれやと画策する・・・

空手を習い、アクションとカンフー大好きガール(部屋には「アイアンフィスト」とかブルースリーの出ていた方の「グリーンホーネット」とか「グリーンディスティニー」とちょっとマイナー路線映画のポスター)の無軌道行動が、「キル・ビル」とか初期のガイ・リッチー作品みたいに賑やかな映像と音楽テンコ盛りで描かれる。

「ヴァージン連合」と揶揄される女子高仲間とギャーギャー騒ぎながら、彼氏を陥れようとする様はなかなか楽し気で、こちらもワクワクしてくる。もちろん、やっていることは完全に犯罪。

最後は予告編にもあるように姉救出のため、結婚式にカチコミをかける。サリー姿で跳んだり跳ねたりする様は見事にきれいだし、女子高の友達も巻き込んだスラップスティックな集団戦はもっと見せてほしい。最近、個々のアクションが光る集団戦ってスクリーンに登場しないからね。
なのだが、パブリシティや予告編で多くを見せすぎて、出オチになってしまっているのが残念。また、彼氏の悪人ぶりがうまく描かれておらず、中盤のドタバタ劇とのつながりがよろしくない。

また、イギリス資本の映画なので、アクションとかダンスシーンが本家のインド映画に比べるとかなり薄味。時間も半分くらい。本家でこの上映時間だったら、まだ彼氏すら登場していない。

諸々いいところもあるだけに喰い足りない部分が余計に気になってしまう。もったいない。

ということで、評価は
★★★☆☆

ところで、スタントウーマンに憧れる女の子が主人公なもんだから、帰ったら早速、コロナ禍中にやけくそ気味に上映されたドキュメンタリー映画「スタントウーマン」をアマプラ再見したよ。






題名:ポライト・ソサイエティ
原題:Polite Society
監督:ニダ・マンズール
出演:プリヤ・カンサラ、リトゥ・アリヤ
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インディ・ジョーンズと運命のダイヤル

2023年07月09日 | ★★★☆☆
日時:7月7日
映画館:109シネマ広島



第1作目「レイダース/失われた聖櫃」を観たのは中学校の時だったから、今、ワタシが普段会話する人の半分くらいはまだ生まれてなかったことになる。自分も年を取ったわけだ。(そういう自分も大好きなマカロニ・ウエスタンや007シリーズの開始時は生まれてなかったのだが)

時代の変遷はオープニングでもいきなり実感させられる。最初の出てくるのはパラマウントのロゴではなく、ディズニーのシンデレラ城のロゴなのだ。

さて、時は1945年、ナチドイツ崩壊時にインディ・ジョーンズはトビー・ジョーンズの考古学者と一緒に2000年前の精密機械、アンティティキラ争奪戦に関わる。

ここで敵役となるナチ親衛隊の大佐役は嬉しいことにトーマス・クレッチマン。ドイツ版「スターリングラード」から「ヒトラー最後の12日間」「ワルキューレ」に至るまで21世紀にドイツ軍人役ならこの人である。ここ数年はでっぷりお腹が出てしまって、かっての精悍さがなくなったのは残念なところだが、インディを縛り首にしようとする非道さを発揮する。
砲弾飛び交う戦場で縛り首ってどっかで聞いたようなシチュエーションだなあ・・・。
いつものようにお気軽なアクションを展開し、20mm対空機関砲でドイツ兵をなぎ倒したおかげでアンティキティラはアメリカの手に。

さて、時は飛んでアポロ11号の3人の凱旋パレードで賑わう1969年、インディも70歳。大学の退官パーティのさなか、アンティキティラを狙う一団に襲撃される。インディ、アンティキティラをほぼ私物化しており、相変わらず手癖が悪い。

アンティキティラ自体は現実に実在しており、正確には「アンティキティラ島で発見された機械」と言われている。用途は天体の動きと暦を連動させた天文計算機だったらしい。
ただそれでは面白くないので、劇中ではさらに不可思議な機能が備わっている。実際のアンティキティラ島の機械になかなかの謎設定を付加するあたり、面白いプロットだと思う。

途中から今回のヒロインでトビー・ジョーンズの娘、ヘレナと一緒に、謎の一団(って顔ぶれからすぐにナチの残党と分かる)が追うアンティティキラの正体を探す探検の旅に出る。
トビー・ジョーンズと言えば、「ジュラシック・ワールド/炎の王国」の金持ちとか「キャプテン・アメリカ」の科学者とかどちらかと言えば敵側の人間って感じで、その娘となると何かと胡散臭い。

「いつもと一緒でいつもと違う」という続編ものの鉄則どおり、今回も「古代の人はなぜそんな面倒くさいことまでして隠した?」という謎解きがあり、インディシリーズお約束の「生き物いっぱい」のシーンもちゃんとある。

今回の敵役はマッツ・ミケルセン扮するフォン・ブラウン博士がモデルになったような数学者。劇中言及はされないが、たぶん欧州大戦の終了後、米軍のペーパークリップ作成でアメリカに連れてこられ、宇宙開発研究に従事していたという設定なのだろう。一学者に過ぎず、背後に強力な権力の裏付けがないので、これまでの悪役に比べるとちょっとパワー不足の感は否めないが、目的のスケールのデカさではシリーズ随一。ただの骨とう品泥棒ではない。

ただパワー不足なのは70歳になったインディも同様。「レイダース」のカーチェイスみたいな派手なアクションは、さすがに無理があるのでもはや展開されないし、得意技の鞭も1回しか振るわない。それに映画途中から体を張る役回りはヘレナに移る。

実はジョン・ウィリアムの音楽も同様。もちろんテーマ曲は健在だが、重いシーンでも肩の力を抜かせる軽妙なジョン・ウィリアム節が聞こえてこない。彼の音楽を聴くと「映画館で映画観た」って実感できたのに、今回はさみしい限り。

それに今回、ワクワクするような巨大メカが出てこない!

今回のインディ、目新しいところがほとんど感じられない。いずこも見たような設定とシーンばかりだし、クライマックスのくだりはTVの「ミステリーゾーン(トワイライトゾーン)」で全く同じ話があったほどだ。
しかし、よく考えてみたら元々「レイダース」のコンセプト自体がスピルバーグとルーカスの「昔、ラジオや映画館で楽しんだクリフハンガーものを現代に甦らせよう」だったわけだから、長年映画ファンをやっていると仕方ないのかも知れない。

物足りない部分もあるが、前作「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」よりは面白かったし、クライマックスの大仕掛けと伏線は個人的には好みだ。(まあどうやって帰れたのかは目をつむろう)
なので評価は

★★★☆☆(0.5★くらいはプラスしてもいい)

ところで、本作の重要なテーマは「時間の経過」である。
そこには70歳すぎでもまだまだ頑張れるというインディの姿もあるだろうし、その一方で裏メニューは「強い意志を持てば25年でも我慢できる」なのだろう(ちょっと違う)







題名:インディ・ジョーンズと運命のダイヤル
原題:Indiana Jones and Dial of Distiny
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ハリソン・フォード、フィービー・ウォーラー=ブリッジ、マッツ・ミケルセン、アントニオ・バンデラス
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ダークグラス

2023年07月03日 | ★★★☆☆
日時:6月23日
映画館:サロンシネマ



こちらは来館者記念の80年代風ポストカード。「恐怖倍増!戦慄の〇〇サウンド!」の惹句は欲しかった(笑)

聖地に蜘蛛は巣を張る」と同じ日に観たのがダリオ・アルジェント10年ぶりの劇場用作品「ダーク・グラス」。こちらも娼婦連続殺人事件を描いており、期せずして「恐怖の娼婦連続殺人二本立て!」

現代のローマ、コールガールをターゲットにした連続殺人が発生、主人公のコールガール、ディアナも犯人に狙われる。犯人から車で逃亡する際、中国人家族が乗る車と接触する大事故を起こしてしまう。この事故のせいで彼女は失明し、中国人家族も10歳の少年だけを残して両親は死亡する。
やがて二人は出会い、故あって共同生活を始めるが、そこに犯人の魔の手が迫る。

ダリオ・アルジェントの連続殺人ものといえば「サスペリアpart2」や「シャドー」「フェノミナ」を思い出すが、随所にらしさが散りばめられている。

今回、みんな真っ先に言うであろうが、嬉しくなるのがアルノー・ルボチーニの音楽。80年代のこの手の映画を彷彿とさせるサウンドだ。その世代にはすぐにわかるあのリズムですよ。逆に今の世代の観客には新鮮に聞こえるのだろうか。
劇中、この音楽がしつこいくらい流れ、かえってメリハリがないくらい(笑)

黒手袋も登場するし、ちょっと頭を抱えたくなるようなストーリー展開も健在。そこはアルジェント研究会の矢澤会長によると「現実世界からアルジェントの夢の世界への移行」だという。なるほど。

アルジェント好きが期待するようなビックリ仰天の殺しのテクニックはほとんど披露されないし、直接的に描かれる被害者も少ない。そんな光がどこから出ているのかと思うような極彩色で彩られた世界観も登場しない。最後に家も燃えない(笑)上映時間が短いせいとか予算とかもあるのか、その辺はちょっと残念。

今回印象的だったのは、何度も登場するシンメトリー構図の画面構成。アルジェントはこの構図を多用する人だっただろうか。

そういえば、ジャロとかイタリアホラーにはなぜか盲目の人がよく登場する。イタリア映画界の何かの暗喩なのだろうか。
観終わってから思ったのだが、本作「フェノミナ」の焼き直しのようでもある。連続殺人犯に狙われる女性というのはよくあるが、社会から疎外された主人公や〇〇〇〇な警察官をはじめとするサブキャラクター設定、犯人が判明する手がかりの設定、生理的な嫌悪感を醸す水攻め、クライマックスなど「フェノミナ」にそっくりだ。となると主人公と心を通わす中国人少年は昆虫かチンパンジーの役どころなのか?(笑)

ちょっと食い足りないところもあるので、
評価は★★★☆☆

ところで、一部のアルジェントファンには、とある重要な役でワタシが出演していたと見えるらしい(笑)







題名:ダークグラス
原題:Occhiali Neri
監督:ダリオ・アルジェント
出演:イレニア・パストレッリ、アーシア・アルジェント、アンドレア・ゲルペッリ、
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ナイトメア・アリー

2022年04月19日 | ★★★☆☆
日時:4月14日
映画館:イオンシネマ広島

ギレルモ・デル・トロ監督のアカデミー賞候補作。
今年は本作に「コーダ/あいのうた」「パワー・オブ・ザ・ドッグ」「ドント・ルック・アップ」「ベルファスト」とほとんどの主要作品を観ている珍しい年。(何か抜けてないかって?知りません。)

ほとんど事前情報なしで鑑賞したのだが、ダークファンタジーっぽい雰囲気がいかにもデル・トロ。

自宅を焼き払ったらしき男、スタン(ブラッドリー・クーパー)は長距離バスの行きついた先でカーニバル一座に巡り合う。そこで日雇いの仕事を得て一座に入った彼はある出し物の技術を伝授されマスターする・・・。

とここまでしか書けないのが悩ましいところのミステリー映画。
画面の作り方がいつものデル・トロらしく観終わってからでないと気付かなかったのだが、この映画、超常現象も謎の生き物も全く出てこない純粋なノワール映画なのだ。ファンタジーではないデル・トロ映画って初めてじゃないだろうか。

原作小説は未読だが、とにかく先が読めない。影のある登場人物たちの思惑が交錯し、タイトルの「悪夢小道」どおりの展開となっていく。上映時間も2時間30分と長尺だが、時間を感じさせない緊張感と展開の切り替えが素晴らしい。たぶんテレビ画面に映っていたらついつい見続けてしまうそんな感じだ。

配役としてはちょっと異色に思えるブラッドリー・クーパーの起用だが、これがなかなか魅せてくれる。つくづく芸達者な人だと思う。
他にも常連ロン・パールマンとかデビッド・ストラザーンとかトニー・コレットとかクセのある顔ぶれが意味深で良いのだが、個人的には「時をかけるおばさん」ことメアリー・ステーンバーゲンの登場がうれしかったな。70歳近くだが、相変わらずキュートだ。

今回、原作アリのノワールものということもあってか、デル・トロの「世の中に馴染めない者への優しい視線」があまり感じられなかったのは残念。こうやって並べて見ると今年は「コーダ/あいのうた」が優しさでとび抜けていた映画だと実感しますね。







題名:ナイトメア・アリー
原題:Nightmare Alley
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、トニー・コレット、デビッド・ストラザーン


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ザ・フォッグ/ゼイリブ

2022年02月23日 | ★★★☆☆
日時:2月12日
映画館:サロンシネマ

ジョン・カーペンター・レトロペクティブ、「ニューヨーク1997」に続く残りの2作は「ザ・フォッグ」と「ゼイリブ」。



「ザ・フォッグ」
創立100周年を迎えた港町アントニオ・ベイ。しかし、同町は金銀を積んだ船を岩礁に誘導して沈没させ、引き上げた金銀で築かれた暗い過去を持っていた。100周年式典の夜、濃霧とともに沈没船の亡霊が町に襲い掛かる。

怨霊が濃霧とともにやってくるというアイディアはカーペンターらしく素晴らしいのだが、逆に脚本があまいという点もカーペンターらしい。亡霊のターゲットが町なのか沈没事件の子孫なのかイマイチはっきりしないし、ジェイミー・リー・カーティスのキャラクター造形は強引、実の母親であるジャネット・リーは何の役なのか最後まで分からない。亡霊も元々謀殺された犠牲者なので物語全体にはっきりとした悪役がいない。

が、それを補って余りあるのが、やはり夜の雰囲気と霧の演出、そしてカーペンターの音楽だ。霧の中に立ち並ぶ亡霊のビジュアルのインパクトは素晴らしい。物語の甘さを力技で押し切ってしまう。

主人公はこのころはまだヒロインだったエイドリアン・バーボー。こうやって見ると整った顔立ちだが、この後はそのキツさを活かして悪女・猛女役で大活躍。「アルゴ」でニセ映画の銀河の魔女役で登場した時は嬉しかったなあ(笑)

評価は★★★☆☆


「ゼイリブ」
今回上映された3作の中で唯一劇場で観た作品。当時、ロディ・パイパーとキース・デイビッドの延々と続くプロレスシーンに唖然としてしまい、それ以来見ていなかったので30年ぶりの再見。

流れ者のブルーカラーの主人公が偶然手に入れたサングラスを通して見た世界は、人間を装った異星人に乗っ取られ、大衆はヤツらに搾取されていた。

とまたもやワンアイディアで突っ走るカーペンター映画。全盛期にあった夜の描写も少なく、物語も一本調子。警官に化けている異星人に殺されそうになったことから街中にいるヤツら(見た目は一般人)を射殺しまくる主人公はさすがにヤバすぎるだろう。

なのだが、あれから30年、本作で描かれた世界がまさに今現実になっている。地球の富裕者層・指導者層とヤツらは手を組んで、地球の環境を改変し、大衆はメディアによって消費を喚起され、ゆりかごから墓場まで首根っこをつかまれ、貧困層は一層貧困になり、富裕者層は一層富裕になる。
もう、今の世の中を予言したかのような話でちょっと見る目も変わったな。これから革命も起きず搾取され続けるなら、いっそ南極から飛び出した「遊星からの物体X」によって27,000時間で人類が食い尽くされる方がよっぽどマシかとも思えたり・・・。

評価は★★★☆☆
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ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒

2020年11月29日 | ★★★☆☆

あえてという訳でないんだが、なぜか年1本くらいの割合でストップモーションアニメ映画を見ているような気がする。

今年は「KUBO/二本の弦の秘密」の制作会社スタジオライカの新作が登場。いつものようにクオリティの高い作品。

【以下、ネタバレあり】

時は19世紀、英国紳士のフロスト卿はロンドンの紳士クラブに入会し、高慢ちきな貴族のクラブトップを見返すため、世界中でUMAを探していた。
そんな折、アメリカからビッグフット目撃の情報が入ったことから現地に向う・・・。

ここからビッグフット探しになるかと思いきや、何とすぐにビッグフットと遭遇。しかも流暢に人間語を使う高い知能を有し、同類のイエティに会うべくヒマラヤに行きたいと言う。
ここからフロスト卿とリンクと命名されたビッグフットの珍道中が始まり、さらにそこにフロスト卿の元カノで友人の未亡人、メキシコ人のアデリーナが加わる。

今回もスタジオライカのアニメが素晴らしい。素晴らしすぎてCGアニメと見分けがつかないくらい。予告編やエンドクレジットでもタイムラスプで製作風景が紹介されるが、いつものように絵作りへのこだわりや仕掛けの大きさに感動させられる。

駅馬車の車中では室内装飾のカーテンのフリンジが馬車と同じように揺れる!し、川のせせらぎや海原の波もストップモーションアニメで再現(どうやっているんだ!)する。
大嵐に揺れる船中の大活劇はこの映画の見せ場の一つだ。大波に叩き割られそうになる客船など「女王陛下のユリシーズ号」さえ思い起こさせるくらい。

舞台となっている19世紀の世界旅行のワクワク感にもあふれている。西部開拓時代のアメリカでは列車と馬で旅をしてドンパチはお約束。敵役の殺し屋はまんまリー・バン・クリーフだし(笑)
物語の中では、なんと世界一周半くらいしてしまう。劇中時間では2年は経過しているだろう(笑)

なのだが、映画全体で気持ちが盛り上がらない。ストーリー展開が他社のアニメと同じように見えるのか、出来が良すぎてストップモーションアニメのアナログ感が感じられないからか、キャラクター設定が観客に寄せすぎなのか・・・

総評として批評家受けは良かったが、ヒットせず赤字だったというのもさもありなん。

ところで、声優陣はヒュー・ジャックマンほかなのだが、エマ・トンプスンはすぐにわかる。こういう知的な熟女系女優が好きです(笑)






題名:ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒
原題:MISSING LINK
監督:クリス・バトラー
声の出演:ヒュー・ジャックマン、ザック・ガリフィアナキス、ゾーイ・サルダナ、ティモシー・オリファント、エマ・トンプソン
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コリー二事件

2020年11月28日 | ★★★☆☆
(本ポスト、かなり支離滅裂ですのでご注意ください)

プロモーションとは裏腹に「帰って来た続・荒野の用心棒」と言いたくなるような作品。

【以下、妄想とネタバレあり】

まずこの映画、「戦後ドイツの<不都合な真実>」がコピーなのだが、それってナチと戦争犯罪以外にある?
もういきなりネタバレしているのだが、舞台は2001年ベルリン、ドイツ人実業家マイヤーが射殺される。犯人はフランコ・ネロ演じるイタリア系ドイツ人のジャンゴ・・・ではなくコリーニ。

トルコ系ドイツ人の主人公が国選弁護士として指名されるが、実は彼の後見人がマイヤーで、さらに孫娘とは恋人関係にあった。何も語らないコリーニに対峙した彼は恩人の殺人犯の弁護に苦悩しながら、真相に迫っていく。

基本、法廷ドラマなのでドイツの司法システムが垣間見えるのは面白い。
のだが、フラッシュバックを交えながらの背景説明が長い。動機が戦争犯罪絡みって明白じゃん!!(身もふたもない)

犯行に使われた銃はワルサーP-38(戦中型)で、現在、入手すら困難な銃を使用したことが真相解明のキーポイントになる。コリーニは墓場に埋めたこの銃を掘り出して使用したのだ(ウソ)

やがて1944年にイタリアのコリーニの出生地でナチによる住民虐殺事件が起きていたことが判明し、その陣頭指揮を執っていたのが武装親衛隊保安部だったマイヤーであることが発覚する。コリーニの父親もその犠牲者だったのだ。
フラッシュバックで描かれる戦時中の惨劇。
幼いコリーニの前で撃ち殺される父親、そこでコリーニに「音楽でも吹いてやれ」とハーモニカを渡す親衛隊のマイヤー。
そこから、現代に転換しマイヤーに銃を突きつけ「祈れ」とつぶやくジャンゴ・コリーニ。「お前は誰だ」とつぶやくマイヤーの口にハーモニカをくわえさせるコリーニ・・・・
あれ、そんな映画じゃなかったっけ。

実は戦時中の虐殺に絡む殺人事件だけがテーマではなく、この事件の裏にはナチ戦犯を無罪放免にする法律の存在があり、途中から話題がそこにスライドしてしまう。
この部分をはじめ、この映画、何か所か乱暴な展開がある。小説だとちゃんと説明されているのかも知れないが。

にしても、元々Django大好きなお国柄でフランコ・ネロがキーパーソン、フラッシュバックを多用したストーリー展開、ドイツでは普通に映画を作ってもマカロニウエスタンしてしまうのに違いない!
それは「戦後ドイツの<不都合な真実>」というコピーの映画がナチと戦争犯罪を描いているとの同じくらい自明のことなのだっ!!

なので、この映画、ドイツでリバイバルされる時は「Django Collini」になっていると思います。






題名:コリーニ事件
原題:Der Fall Collini
監督:マルコ・クロイツパイントナー
出演:エリアス・ムバレク、アレクサンドラ・マリア・ララ、フランコ・ネロ

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テネット

2020年11月28日 | ★★★☆☆

前評判で「難しい」と言われる本作、確かに分からないです。

さて、どこかの諜報機関に属する「主役」はアバンタイトル・ミッションで死にそうになり、救出後、謎のシステムを悪用した陰謀を阻止するよう命じられる。そのシステムが本作のキモである時間逆行システム。(タイムマシンではない)
主役は007並みに世界中を飛び回って、その陰謀を突き止めて阻止しようと奔走する。

主役の立ち振る舞いや悪役との接し方、クライマックスの戦闘まで007のフォーマットそのままでうれしくなってくる。(個人的に007のクライマックスは「サンダーボール作戦」~「女王陛下の007」「私を愛したスパイ」みたいに集団戦となるのが大好きなのだが、ここ何十年かは個人戦ばかり。5本に1回でいいから集団戦になってほしい。)

実質的に指令を下す"M"はハリー・パーマーことマイケル・ケイン。キングスマンも仕切ってたから、死ぬまでにル・カレ作品の敵役、カーラを演じてほしい。マイケル・ケインならできるでしょう。

クリストファー・ノーランの映画は重苦しくて小難しい印象があるが、思うに基本の話はヒーロー物、SF、戦争映画、スパイものとワタシたちの世代が好きそうなものばかり。
そこに監督なりの独特の見方や新解釈、表現が入って際立って見えると同時に受け入れやすくもあるんだろう。

その新解釈のキモが前述した時間逆行システム。なのだが、何が何だか分からない。「インターステラー」はまだ飲み込めたが、これはもう不明。
むしろ、科学的な裏付けがあるわけではないので理解するのではなく、映像的に「なんか面白いもの観た」と感じるのが正解。
一瞬「タイムコップ」みたいなベタな展開も期待したが、それはないなあ。

一見無関係なことが結びつく因果関係は他のノーラン映画でも取り上げられてきたし、時空を超えた再会ものって実は大好き。主役よりも相棒ニールのキャラに惹かれるなあ。

時空を超えて再会したのはエリザベス・デビッキ。190センチもの身長とその雰囲気のせいでスパイものとかSFとかしか出演できないんじゃないかと思うが、「0011アンクルの男」もさることながら、ル・カレ原作のTVシリーズ「ナイトマネージャー」では本作と全く同じ役柄(本当に全く同じ)で出演しており、もう途中からどっちの作品だったか分からなくなってしまう平行世界(笑)

アイディア重視すぎで、全体の背景説明に弱い点があるのが難かな。あと、上映時間が長い!

ところで、クライマックスではワタシの好きなロシア版ハンヴィーGAZ-2330が走り回ってくれます。エストニアロケしたそこはポイント高しです(笑)







題名:テネット
原題:TENET
監督:クリストファー・ノーラン
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ケネス・ブラナー
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ミッドウェイ

2020年11月28日 | ★★★☆☆

太平洋戦争の転機となったミッドウェイ海戦を描く戦争映画。

この監督が「インデペンデンス・デイ」「デイ・アフター・トゥモロー」「2012」のデザスター系監督のローランド・エメリッヒ。
もう不安しかないのだが、事前情報ではそこそこ良いし、コロナ禍で映画館のラインナップも全滅のような有様なので、劇場へ。

ミッドウェイ海戦がクライマックスになるが、実は真珠湾攻撃からの主要な戦闘を全て、日米双方から描く。
映画的にはほぼいきなり真珠湾攻撃が始まるが、いまひとつ緊張感がない。「トラ・トラ・トラ」なんて映画史に残る傑作があるから止む得ないんだが、戦艦アリゾナの撃沈なんてもっと描きようがあるだろう。

しかし、映画が進んでいくと、映画として表現が難しい大戦の一局面を、政治的な大局と戦う個人の目線の双方から細かいエピソードを積み上げて、立体的に構成している。
作りとして「インデペンデンス・デイ」に近いとも言えるし、何といっても戦争映画の傑作「史上最大の作戦」を思わせる。

日本側の戦略の組み立てや暗号解読のくだりはなるほどと思わせるし、実際海戦が始まり、索敵、潜水艦戦、空中戦、爆撃、雷撃、急降下爆撃、自沈と局面ごとに分かりやすく描いている。

特に空母への猛攻撃で日米双方の視点から「殺す側」と「殺される側」の恐怖感を取り上げているのは、映画としてよく出来ていると思う。
「男たちの大和」に欲しかったのは、この双方の視点なんだよ。

ただ、娯楽映画に寄りたかったのか、再現ドラマにしたかったのか、軸足がはっきりしない感が終始つきまとって、その辺が作り手の才覚なのかなあと思わせたりね。

太平洋を舞台にしたスケールのデカイ話なので、ある程度基礎知識がないとついていけないのは戦争映画として止む得ないところだが、この手の映画が好きな人はぜひ。






題名:ミッドウェイ
原題:MIDWAY
監督:ローランド・エメリッヒ
出演:エド・スクライン、パトリック・ウィルソン、ルーク・エヴァンズ、 豊川悦司、浅野忠信、國村隼
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