kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

ブルータリスト

2025年02月26日 | ★★★★☆
日時:2月24日 
映画館:イオンシネマ広島 


第二次世界大戦直後、ナチの強制収容所から辛うじて生き延びたハンガリーの建築家、ラスーロー・トートがアメリカに渡り、有名なヴァン・ビューレン・コミュニティーセンターを建てるまでの物語。 







アカデミー賞最有力の呼び声とAI技術を使った製作への賛否で話題になっているので劇場へ。 
と上映時間を見たら、なんと3時間35分!(うち15分はインターミッション) 
なのだが、上映時間を感じさせない、もしくは現代の配信ドラマ1シーズン分にも似た重厚な物語。 

トートは終戦後、欧州に妻と姪を残し、家具屋の親戚を頼ってアメリカに移民する。元々、戦前はハンガリーで名建築物を建てていた彼は家具屋でもその才能を発揮し、やがて資産家のヴァン・ビューレン家から書斎の改築を依頼され、ほぼ完成させる。 
しかし、ちょっとした行き違いから仕事は認められず、親戚とも袂を分かつ。数年間、肉体労働で日銭を稼ぐことになるが、ようやく彼の作品と才能に気付いたヴァン・ビューレンから壮大なコミュニティセンターの建設を依頼される。(彼の設計する建築様式はブルータリズムであり、タイトルの「ブルータリスト」はここからきている。) 
建設がスタートして間もなく、ようやく欧州から妻と姪がアメリカにやってくる。しかし、妻は飢餓による骨粗鬆症から下半身が不随の車いす生活となっていた。 トートは自身の壮大なプロジェクトを実現すべく邁進するが、それは建築費用の高騰による周囲との軋轢を生んでいく。
さらに妻との夫婦関係もぎくしゃくし、現場では事故が発生、工事は中断することになる・・・ 

トートを演じるのはエイドリアン・ブロディ。彼と強制収容所と言えば「戦場のピアニスト」だが、個人的には凄腕の傭兵を演じた「プレデターズ」もお気に入りだったりする。 
トートは女性にだらしなく、酒もヘロインもやるというかなり問題ありの人物。パトロンをバックにできたアーティストとして、何事にも妥協せず、かの大作に挑んでいく。 
ブロディのつかみどころのない表情が役どころにピッタリ。ドロドロした内面と数十年分の外面の変化を演じて、アカデミー賞委員会も好きそう。

資産家ヴァン・ビューレン役はガイ・ピアース。彼も壮年役が似合うようになった。偉大な芸術家を応援するのは自分たちの義務だと語る一方で、その才能には秘かに嫉妬している。こちらも複雑な人物造形で助演男優賞にノミネートされている。(ただ、個人的は「アプレンティス」のジェレミー・ストロングに軍配が上がる。) 

映画は全編通して、重々しい空気感が漂う。オープニングから印象的なダニエル・ブルームバーグの重厚な音楽、屋外シーンのほとんどは雨か曇り空で工事現場は泥だらけ。装飾を排したブルータリズムの建築がそれに輪をかける。(実在の建築物とセットの使い分けが見事。) 
移民であるトートや労働者たちと周辺の資本家連中との人間関係もずっと緊張感をはらんでいるし、全編を通して描かれるユダヤ人としてのバックボーンが時としてて重荷になる。最後はコミュニティセンターが完成すると分かっていても落ち着かず、どこにも安心感がない。それがトートの心象ともいえるのだろう。 

そして、エピソードをぶつ切りにし、先が読めないストーリー展開。まるで広島市映像文化ライブラリーで上映される芸術映画のようだ。 

トートとヴァン・ビューレンがその後、どうなったのかと映画鑑賞後、Wikipediaを調べてみたら 

【以下、ネタバレあり。】
 検索結果に何も出てこない。

 なんと、この物語、映画オリジナルのフィクションだったのだ!
すっかり実録物だと思っていたし、ヴァン・ビューレン・コミュニティセンターは実在すると思っていた!! 

それだけ映画作りが巧みだということだ。 
実録物映画は多数あるし、実在の人物を描きながら途中から突拍子もない展開になる映画「ビューティフル・マインド」「ドミノ」とかもあった。 
しかし、完全にフィクションの物語を実録風に描く映画はあまり思いつかない。それだけストーリーや描写に説得力を要求されるし、辛うじて思い出すのは「バリー・リンドン」くらいか。 

実録物を錯覚するくらいに時代背景の描き方が巧みだし、錯覚する要因の一つが登場人物の描き方で、善悪の区別がなく、トートとの関わりに決着がない。
通常は何かしら主人公との関係性にオチがつくのにそれが全く存在しない。突然、ストーリーから脱落していく。 

演出としても面白く、上演時間こそアレだが、今度はフィクションを分かった上で最初から観たくなった。 

その面白さゆえ、評価は ★★★★☆ 

ところで写真は観客を混乱させる副読リーフレット。よくできてる。「架空の内容です。」の注意書きにも気付かず、すっかり騙された(笑) 
題名:ブルータリスト 
原題:BRUTALIST 
監督:ブラッディ・コーベット
出演:エイドリアン・ブロディ、フェリシティ・ジョーンズ、ガイ・ピアース
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アプレンティス/ドナルド・トランプの創り方

2025年02月13日 | ★★★★☆
日時:2月10日
映画館:サロンシネマ

20代の若者だったドナルド・トランプが辣腕弁護士の教えを受け、不動産王に成るさまを描いた映画。
タイトルの「アプレンティス」は見習いの意で、トランプがホストをしていたリアリティショーのタイトルも「アプレンティス」だったと後で知った。
昨年の選挙期間中に公開され、トランプから公開差し止めの請求があったそうだが、まあ、この表現・描写だと言いたくもなるわ(笑)

さて、その辣腕弁護士の名前がロイ・コーン。聞き覚えがあると思ったら、なかなか尖ったドラマシリーズ「グッド・ファイト」に「ロイ・コーンの薫陶」ってエピソードがあった。「グッド・ファイト」自体、シリーズを通してトランプ批判をしていたが、まさか返り咲くことになるとは思わなかったな。

ストーリーは典型的な「魔法使いと弟子」もの。
父親の経営する不動産会社の副社長で実質下働きするトランプは、1950年に「アカでコミュニスト」のスパイだったローゼンバーグ夫妻を死刑台に送り込んだことを豪語する辣腕弁護士ロイ・コーンに見いだされる。コーンはトランプに成功する3箇条として「1 攻撃、攻撃、攻撃」「2 間違いを指摘されたら全否定せよ」「3 決して敗北を認めるな」と教え、トランプはそれを実践し不動産王への道を歩みだす。さらにコーンはトランプを成功させるために脅迫を交えた剛腕を発揮し、トランプもその手法を学んでいく・・・

70年代後半から80年代前半を舞台にしており、アーカイブ映像を交えながら当時のどん底から金ピカ時代に移っていく様子がよく伝わってくる。画面もVHSビデオによるざらつき感を再現していて、ものすごく懐かしい(笑)

80年代に入りトランプが成功をおさめていく一方で、コーンは病に侵され往年の辣腕ぶりを失っていく。トランプはそんなコーンを徐々に見捨てていく。

トランプを演じるのはセバスチャン・スタン。顔も何となく似ているが、徐々に今よく見かける不敵な笑いや唇の動きなどを出してくる。オスカーの主演男優賞ノミネートもなるほど。

そのカウンターパートであるロイ・コーンを演じるのはジェレミー・ストロング。自分が信じるアメリカを守るためには手段を問わず、嫌味な狼みたいな無表情さが印象的だが、「マネーショート」とか「モリーズ・ゲーム」、「デトロイト」「ゼロ・ダーク・サーティ」といった険しい顔のキャラだらけの映画によく出てる。
前半の狼ぶりと後半の病身で見捨てられる悲しい男の演じ分けが見事でオスカー助演男優賞もむべなるかな。スタンの主演男優賞は難しいかもしれないが、狂犬キャラがウケやすい助演男優賞は彼が取るかも知れない。

ただ、ストロングは見た目ちょっと若いのが難で、コーン自身ローゼンバーク夫妻事件に関わっていたのがいくつだったんだとずっと気になってしまった。コーンとトランプが知り合った1970年代後半は50歳前後、亡くなったのは59歳。ローゼンバーク夫妻事件の時はなんと23歳で検察官だったようだ。ちなみにストロングは映画撮影時は40代中盤。

映画はトランプの政界進出の前に終わるが、それまでの生きざまがそのまま引き継がれているということが見て取れる演出となっている。
一人の男の内面の変化として、なかなか考えさせられるし、今の一面的な報道では分からない人間像が透けて見える。

思った以上に面白かったので、評価は
★★★★☆

ところで、劇中「人間には2種類ある」とマカロニウエスタンの名ゼリフが登場。さらによく考えたら映画全体が師弟ものでその中で3箇条の教えが用いられるなんて「怒りの荒野」のまんま。ラストはトランプの目元アップ。
アリ・アバッシ監督もマカロニ・ウエスタンファン?(笑)






題名:アプレンティス/ドナルド・トランプの創り方
原題:The Apprentice
監督:アリ・アバッシ
出演:セバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング
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エイリアン:ロムルス

2024年09月23日 | ★★★★☆
日時:9月6日
映画館:イオンシネマ広島

エイリアンシリーズの中では、実はマカロニウエスタン・テイストにあふれ、悪そうな面構えが満載だった「エイリアン4」がお気に入り。もちろん「1」は古典として好きで、逆にエイリアンクィーンという邪道なコンセプトを持ち込んだ「2」などは全然評価していない。

さて、本作は「1」の正統派な続編。
「1」の事件から十数年、ウェイランド・ユタニ社はノストロモ号の残骸からゼモノーフを回収する。
さて、舞台は変わってジャクソン鉱山惑星で過酷な労働を強いられるレインは、新天地の惑星への移住を夢見ていた。そんな時、友人から惑星軌道上に漂流する宇宙ステーションの存在を知らされ、宇宙ステーションから移住に使えそうな人工冬眠ポッドのサルベージを持ちかけられる。
この宇宙ステーションこそ、先に回収されたゼモノーフを持ち込んで実験していた「ロムルス」「ロムス」だった。
当然、そんなことを知らない一行に恐怖が襲い掛かる。

本作、上手だなと思うのが脚本の組み立て方。キャラクターの設定や動機付けだけでなく、「1」や「2」のエッセンスを巧みに盛り込み、時として「ブレードランナー」との連関性も感じさせつつ、ストーリーに厚みを与えている。ウェイランド・ユタニ社の真の思惑も描かれるし、何と言っても驚くべきはあのキャラクターの再登場。
普通ならこじつけともとられかねないのだが、劇中のキャラクター設定と齟齬なく、ビジュアル的にもなじんでいるところが素晴らしいの一言。

観客としてはエイリアンの生態が既知の情報なので、そこで盛り上がらないのはちょっと残念なところで、できれば「1」のノベライゼーションで語られた生きた人間をエイリアンの卵に変質させてしまうという設定は復活させてほしかった。映画的に分かりにくいんだと思うんだけどね。
エンディングがいつもの展開になってしまっているが、そこは映画だから仕方ないところか。そろそろ公開されそうな配信動画シリーズの内容が気になるところ。

ストーリーの面白さを評価して、
★★★★☆

ところで(以下ネタばれアリ)
再登場するキャラクターはイアン・ホルムのアッシュ(型人造人間)なのだが、最初、デジタルでの再現かと思っていたら、「ロード・オブ・ザ・リング」でのダミーヘッドデータを使った、アニマトロニクスによるリアルな造形だったという。妙に生々しく、デジタル技術もここまで進化したのかと思ってたが、実演と知ってなんだか嬉しくなった。
遺族も再登場に喜んでいたというエピソードがさらに嬉しくなる。






題名:エイリアン/ロムルス
原題:Alien:Romulus
監督:フェデ・アルバレス
出演:ケイリー・スピーニー、デイビッド・ヨンソン
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フォール・ガイ

2024年08月18日 | ★★★★☆
日時:8月17日
映画館:イオンシネマ広島

バカバカしさが最高に良かった「ブレット・トレイン」のデビッド・リーチ監督の新作で、90年代のTVシリーズ「俺たち賞金稼ぎ!フォールガイ」を原作とした作品。
TVシリーズの方はリー・メジャースが主役で、スタントマンが本業の主人公たちが、副業で賞金稼ぎをしているというプロットまでは知っているのだが、実際のシリーズは見たことがない。

ワタシは映画製作の裏方で活躍するプロの話が大好きで、メイキング・ドキュメンタリとか大好きだし、USJがオープンしたころにあった映画製作の裏側みたいなアトラクションにはちょっと涙した。
なので、スタントマンが主人公の本作もちょっと期待していたのだが、まずオープニングで本物のスタントマンの活躍ぶりがショートクリップで紹介される。文字通り体を張ってアクションする映像に感動してしまう。

ジャッキー・チェンの映画はともかく、70年代のポリスアクションものの気の狂ったような(某イタリアでは違法な)カーチェイスが大好きなだけに、最近のCGに頼ったアクション映画の自殺行為とも言うべきまやかし映像には辟易してた。スクリーンでリアルスタントがたっぷり見られるだけでもうれしい。

主人公のライアン・ゴズリングはスタントマンだが、撮影中のある事故をきっかけに2年間、仕事から離れていた。そんな時、敏腕女プロデューサーから新作映画への参画を依頼され、オーストラリアに。新作映画の監督はカメラ助手時代に付き合っていたエミリー・ブラントだった。
まず、オープニングの事故が1シーン1カットで描かれる。しかもガラス窓を通り抜けて、エレベーター移動付き。1シーン1カット演出も好きなので、ここでも嬉しくなってしまう。
その後、オーストラリアの撮影現場に移るが、「地獄の黙示録」並みの大混乱で、エミリー・ブラントがコッポラに見えてくる。ここでも1シーン1カットが使われ、製作スタッフが進行確認で右往左往するさなか、後ろで爆発シーンのテストがバンバン進む混乱っぷりは「続・夕陽のガンマン」の橋誤爆事件を思わせる。

それからゴズリングとエミリー・ブラントの恋のさや当て合戦と再燃があり、その一方で行方不明となった主役俳優の捜索任務が入る。
2人の恋愛模様は少しかったるく、話のテンポを落としているきらいもあるが、厄介な男に翻弄される役が定番のエミリー・ブラントが美人なので許そう。
まあ、スタントを見せるのが映画の主旨なので、ストーリーはどうでも良い(笑)

その分、スタントアクションシーンは当然力が入っているので、見ていてワクワクしてくる。スタントを担当するのは「87 EAST プロダクション」。ジョン・ウィックシリーズを手掛けた彼らかと思っていたら、あちらのチームは「87 eleven」だった。ややこしい。

元々映画好きをターゲットにしたような映画なので、作品中にも色々な映画のタイトルやセリフが引用される。ここもお楽しみの1つ。ちなみに宇宙ラブストーリー版「真昼の決闘」と説明される劇中作のタイトルは「METAL STORM(メタルストーム)」。80年代同名のB級SF映画があり、日本でも公開されました。ワタシも観ました。どうでもいいことだけど。

スタントマンへの愛情に満ちたアクション盛りだくさんのラストを迎え、映画はハッピーエンド。たぶんエンドクレジットで、実際に撮影現場のビハインドシーンを流すんだろうなと思っていたら、やはりその通りの映像が流れてますます嬉しくなってしまう。

「ブレット・トレイン」を観た時に「年に一度はこういったバカ映画は必要」と書いたけど、まさにその名に恥じない良い映画。二日酔いの日に観てたら、たぶん感動で泣いてた。

なので、
評価は★★★★☆

ところで、【以下ネタバレあり】
エンドクレジットの途中にまだストーリーの続きがあり、なんとそこにご本家リー・メジャースが登場!
「Aチーム ザ・ムービー」の時にも同趣向があったけど、予想すらしてなかった。
さらにリー・メジャース自身、日本ではどちらかといえばマイナーな存在なので、この登場にウケていたのはたぶん劇場でワタシひとり(笑)






題名:フォールガイ
原題:Fall Guy
監督:デビッド・リーチ
出演:ライアン・ゴズリング、エイミー・ブラント
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コヴェナント/約束の脱出

2024年02月28日 | ★★★★☆
日時:2月26日

ガイ・リッチーのシリアス戦争映画。
湾岸戦争ものの「ジャーヘッド」で戦争できずに鬱憤がたまっていたジェイク・ギレンホール、そのまま軍に在籍しアフガン戦争でも従軍・・・と見えてしまうあたり、戦争映画キャリアの長さゆえだ。

2016年、アフガニスタンに派兵されたギレンホール演じるキンリー曹長率いる一隊は検問中、即席爆弾(IED)の爆発で隊員と通訳を失う。
一隊は新しく通訳として雇用されたアーメッドとともに、IED工場を探索する。アーメッドは四か国語を話せるインテリで現地の事情にも詳しいが、過去に後ろめたい仕事もしているようである。
さらに報償と渡航ビザのためとはいえ、米軍に協力している現地通訳はタリバンにも敵視され、家族を含め目をつけられている。

[以下、ネタバレあり]
映画は大きく3部で構成されている。
まずは隊とアーメッドがIED工場を捜索するくだり。本来なら通訳は言われたことを訳するのが仕事だが、彼は持っている経験・知識を活かして、現地コーディネーターの役割も果たす。

この辺、実際に通訳とも仕事し、成り立ちが異なる2つの組織の狭間に立つことも多い我が身にとってはなかなか実感があってスリリング。
お互い友好的な関係でない現地でアーメッドはうまく立ち回るが、たえず表情の厳しい彼にキンリーは信用を置けないでいる。

戦場での2人の意思疎通のドラマかと思いきや、IED工場を発見し戦闘に発展すると状況は一転。IED工場は破壊できたものの、タリバン側が増援してきたことで部隊はほぼ壊滅。かろうじて脱出した2人は米軍基地を目指して、敵地を横断することになる。

この辺から2幕目となり、ここから理解しあえない2人のサバイバル道中かと思うと、映画は思わぬ展開に。ここでの脱出劇はこの映画の見せ場で、見ている方もなかなかしんどい。

3幕目では、アーメッドは米軍協力者として賞金首になっており、彼の救出作戦が始まる。
全編シリアスタッチで実録ものを思わせるが、映画オリジナルストーリー。いささかご都合主義だが、実際現地で米軍に協力したアフガニスタン人が命を狙われるというのは非常に現実的な話だろう。(エンドクレジットでも厳しい現実が語られる。)

ストーリーの展開はガイ・リッチーらしくないが、ドローン視点のような空撮(砂漠の景色とも相まって松江泰治の作品のようだ)やしつこいくらいのフラッシュバックシーンといった映像には彼らしさが出ている。

意図してかどうかは不明だが、本作はマカロニウエスタン大好きなガイ・リッチー監督のマカロニウエスタンとも言える。ロケ地はアルメリアではないもののスペインの砂漠だし、手前に拳銃を据えたマカロニウエスタンばりのアングルもある。
「風来坊」な即席担架も登場するし、荷馬車にガンファイトってまさにマカロニウエスタン。
主人公2人は賞金首になるし、生い立ちが違う男同士の友情、そして戦う動機が復讐である以外に特に語られないあたりもマカロニ的だ。

ハードな実録ものの傑作が多い現代米軍戦争映画にあっては、ちょっとシンプルすぎる内容が気にはなるが、戦争映画マカロニウエスタンな色合いもひいき目に評価は
★★★★☆







題名:コヴェナント/約束の脱出
原題:THE COVENANT
監督:ガイ・リッチー
出演:ジェイク・ギレンホール、ダール・サリム、アントニー・スター
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ザ・キラー

2024年01月06日 | ★★★★☆
日時:2024年1月5日
映画館:八丁座

2024年最初の映画はデヴィッド・フィンチャー監督のネッフリ製フィルムノワール。

映画は主人公の殺し屋”ザ・キラー”のモノローグで始まる。彼はパリでの狙撃仕事を請け負い、街に溶けこみながらストイックにその瞬間を待つ。
そして、パリから隠れ家のあるドミニカに戻るとそこは何者かに襲撃されており、居合わせた恋人は袋叩きにされ、重傷を負っていた。
復讐に燃える彼は関係者をたどりながら、事件の真実に迫っていく。

原作はフランスのグラフィックノベルらしく、章立ての物語はパリからドミニカ、ニューオリンズ、フロリダ、ニューヨーク、シカゴと舞台を変えながら淡々と進む。主人公が裏社会の非情な人間なので先の展開が予想できないのだが、どんどん感情移入してしまう。

計画通りやれ
予測しろ、即興はやるな
やるべきことをやれ
誰も信用するな
対価に見合う戦いだけやれ
感情移入するな、感情移入は弱さだ
弱さは無防備になる

とかなんとか念じながら、証拠を残さないよう細心の注意を払い、常時指紋隠滅用のスプレー(尿素?)を持ち歩き、いくつもの偽名とパスポートを有し、全米何か所かの貸倉庫に秘密基地を持っている。

人探しにせよ侵入にせよ公的な手段は取れない身なので、なかなかアナログな手段も使いながら目的を達成していく。今の映画、やたら「椅子の男」がモニター上でなんでもやってくれて全然面白くならないのだが、前述の日常描写を含めこういう細かい描写や行動の積み重ねにはワクワクさせられてしまう。「ジャッカルの日」しかり「アウトロー」しかり「ジョン・ウィック」しかり殺し屋・一匹狼映画には大切な要素なのだ。

この主人公像にピッタリなのがミヒャエル・ファスベンダー。(今はマイケルと表記されるが、そこは昔からのミヒャエルにこだわりたい。)
元々、感情表現の薄いキャラクターが多い(なんだかんだと彼の映画は割としっかりと観ている)が、ちょっとがっちりめの体格とも相まって無口な殺し屋役に違和感がない。さらに日々目立たないよう、やたら地味なファッションというのも好感が持てる。

サスペンスものが多いフィンチャー監督の演出も手慣れたもので、いい感じに先読みできない緊張感を高めてくれるし、転々とする都市でのロケもそれぞれの街が持つ空気感を醸し出している。(半分くらいは行ったことないけど)

謎解き要素は薄いが質の高いサスペンス・スリラーとして
評価は★★★★☆。






題名:ザ・キラー
原題:The Killer
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:マイケル・ファスベンダー、ティルダ・スウィントン、チャールズ・パーネル

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2023年12月24日 | ★★★★☆
日時:12月18日
映画館:八丁座

国内外で賛否の声が聞こえるが、個人的にはいかにも北野武映画らしくって好きかも。

戦国時代や武将に全然興味がなく、主要登場人物4人くらいしか基礎知識がなかったりするのだが、それでもなかなか面白く観れたし、多いとも言われる登場人物も演じている俳優の個性が強烈であまり混乱することもない。

これまでの主要な北野映画「ソナチネ」「アウトレイジ」「座頭市」などに通じる、「らしさ」が全面に出ていて、時代劇というより北野映画として面白い。

度を超えた暴力を行使することに何の躊躇もない登場人物たち、突然の暴力に抗えずに死ぬ名もない人たち、度重なる裏切りにどんどん孤立していく展開、冗談とも本気ともつかない絶妙なセリフ、唐突に手を離したかのように切り替わる編集・・・
世に言うキタノブルーこそ出ないが、これまで何度も見てきた世界観に、ある意味、時代を越えても安心して観ていられる。

配役がまた良くて、みんな北野武映画に出たくて楽しみながら演じているように感じられる。ワタシは日頃から今の日本映画はリアリティのある不細工面の芸人をもっと起用をすべしと思っているので、そういった点でも嬉しい。

北野映画の常連の面々はともかく、大森南朋の羽柴秀長と浅野忠信の黒田官兵衛の絶妙なコンビネーションがいいし、遣手婆の柴田理恵など最高のキャスティングだと思う。
セリフ回しに違和感はあるものの木村祐一の曽呂利新左衛門も「カムイ伝」の赤目師匠を思わせて、なかなかの存在感を出している。

永遠のマンネリ感もあったりするが飽きることなく楽しめたので
評価は★★★★☆。

ところで、クレジットでオフィス北野のKのロゴが出ないのはやはり淋しいですね。







題名:首
監督:北野武
出演:北野武、加瀬亮、西島秀俊、中村獅童

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ワルシャワ蜂起

2023年12月03日 | ★★★★☆
映画館:広島市映像文化ライブラリー


1944年のワルシャワ蜂起を描いたドキュメンタリー映画。日本初上映は2015年、東京でのポーランド映画祭のようだが、当時は当然未見。
ワルシャワ蜂起のドキュメンタリーと言えば、NHKが放送した「ワルシャワ蜂起・葬られた真実~カラーでよみがえる自由への闘い~」があり、それと似たような映画かと思えば、全く違うアプローチの映画。

ワルシャワ蜂起中に撮影された映像をを時系列に再編集しているが、まず、よくこれだけの映像が残されていたなと驚嘆する。蜂起への協力を呼び掛ける自由ポーランド軍や戦時下の結婚式、燃え上がる市内、徘徊するヘッツアーなどまで記録されている。それがカラーライズされ、迫真さを増している。

さらに、この映像を撮影した国内軍映画班の兄弟がいたという架空の設定があり、物語はこの兄弟の会話で進められる。
さも現場にいたような会話で蜂起の血だらけの実態が生々しく語られるという展開なのだが、こういった演出はあまりないので、これがドキュメンタリー映画と言ってよいのかと悩ましくなる。

確かにWW1のドキュメンタリー映画「彼らは生きていた」でも後録したセリフをかぶせているが、それらはどこかに記録されたものがベースとなっているので、そういった点では完全にオリジナルで書き起こされたものではない。

だが、この監督、ヤン・コマサは「ワルシャワ44 リベリオン/ワルシャワ大攻防戦」を撮った監督と知り、さらに本作上映前のウルシュラ・スティチェック・ボイエデさん(広島大学・学術博士)のレクチャーを聴いて、この手法を取った理由も何となく分かる気がした。

ソ連による解放後、共産政権下ではワルシャワ蜂起は一部の反動勢力による攻撃と位置づけられ実質、なかったこととされていたらしい。(この辺のソ連側の心情は一大国策映画「ヨーロッパの解放」でもさらりと触れられている。)

そのため、ワルシャワ蜂起が公に話せるようになったのはソ連崩壊後で、記念博物館が完成したのも2004年と今世紀に入ってから。

「ワルシャワ44 リベリオン/ワルシャワ大攻防戦」もミュージックビデオ風の場面があり、今の観客に受け入れられるためにはこういった演出もありなのかと思ったが、本作でもこれまで「なかったこと」に封印されてきた歴史に改めて日の光を当てるためには単に映像を綴るだけでは不充分だと判断し、こういった作劇方法になったのかも知れない。

ドキュメンタリー映画としては平坦な出来だが、その背景に考えさせられるという点で
評価は★★★★☆。

残念ながらこの手の映画はなかなかソフト化や配信されないので、次回、見られるのはいつのことやら。






題名:ワルシャワ蜂起
原題:WARSAW UPRISING/POWSTANIE WARSZAWSKIE
監督:ヤン・コマサ
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ゴジラ -1.0

2023年11月22日 | ★★★★☆
日時:11月11日
映画館:バルト11

我が家での大事な年中行事といえば、結婚記念日でも誕生日でもなく、「家族揃って怪獣映画を観る日」なのだ。
毎年そんなに公開されているのかと思われがちだが、実は東映ゴジラレジェンダリーモンスターユニバースジュラシックワールドシリーズと、ここ数年ちゃんと怪獣映画はあるのだ。

ということで今年は令和ゴジラ第一弾の「G -1.0」。
戦後間もない東京にゴジラが襲来し、特攻帰りの青年ほかがゴジラの脅威に立ち向かう。

【以下ネタバレあり】
戦後まもない物資不足の中、どうやってストーリーを持っていくのかと興味津々だったが、ツッコミどころもたくさんあるとはいえ、ifものにも通じるなかなかよく出来た展開となっている。
普通、ゴジラと言えば陸上自衛隊とか戦車とか陸戦力が主力だったが、今回は海の男たちが対決する。これまでにない展開に燃えるなあ。広島にたくさんいる元海自の皆さんはぜひご覧ください。

重巡高雄との対決は見どころの一つだが、この戦闘シーンはウェルズの「宇宙戦争」を彷彿とさせるなあ。ちなみに同艦の沈没で700人くらい死んだに違いない。
そう、今回のゴジラはあっさりと人が死にまくる。無慈悲に人を殺しまくる。殺戮のオンパレードで、ゴジラは巨大な暴力、戦争のメタファーのようだ。

個人的にはゴジラが列車を咥える描写にはウルトラマンのようにミニチュアの人間をぶらさげてほしかったところだ。

銀座のど真ん中でゴジラが実力を発揮すると東京は原爆を落としたような惨状となり、リアルな原子雲が立ち上り、黒い雨も降る。
また最近の怪獣映画にありがちな「雨降る夜中に暴れているから何が起きているかわからない」ではなく、ちゃんと白昼堂々、大暴れしてくれていることも好印象。願わくばもっと破壊しろ。

戦後の焼け跡からの復興が意外と細かく描かれ、そこに好感を覚える一方、ああ、こういった話も最近は耳にしなくなったよなと再認識。自分が昭和20年にいたら、どのように生活できたのかと考えるし、自分の親世代はリアルに経験してきたのだ。まさに幼児あきこは自分の親ぐらいの年だろう。
(ちなみにあきこがあまりに上手に泣くので、どうやって演技をつけたのか気になるところ。)

民間兵団による自己犠牲も厭わないボランティア精神の発露にはちょっと違和感を覚えつつも、自分も何か技能を持っていたら対ゴジラ作戦に間違いなく参加しそうな気がする。

惜しむらくはセリフのクサさ。そこでそんな発言するか?ってセリフが散見されて、一瞬、興ざめ。
あと、ゴジラが放射熱線を出す前の演出も、個人的には不要。

震電の登場は観覧直前にプラモ関連ニュースからネタバレされてしまい、インパクトがなくなってしまったが、そうでなくても違和感があったかな。

自分が幼いころ観ていたゴジラとはすでに別次元の怪獣映画になってきていると肌で感じるが、やはり年1回は必要なのだ、怪獣映画。

ということで、評価は★★★★☆。

ところで、大海原の風景とクジラとかシャチといった海の巨大生物が苦手で、船酔いもするウチの奥さん、映画終わった時には半目開きで死んだような顔してた。


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ジョン・ウィック:コンセクエンス

2023年09月24日 | ★★★★☆
日時:9月22日
映画館:イオンシネマ広島





人間には3種類ある。殺し屋と組織の人間とクラブで踊る奴らだ。
などと揶揄される(されているのか?)ジョン・ウィックワールド。

前作で犯罪組織の上部団体、主席連合に宣戦布告した伝説の殺し屋、ジョン・ウィックだが、本作では殺し屋ご用達のホテルチェーンの1つ、大阪コンチネンタルに身を潜める。
ニューヨークから大阪へ行くのだから、空港で張り込んで仕留めりゃいいじゃんと思うのだが、なぜか主席連合にはそういった知恵の働く人間がいないらしい(笑)

その大阪コンチネンタル、「ブレット・トレイン」の京都駅の次にあるのではないかと思わせる誤った日本感満載の楽しいホテル。支配人は真田広之、やっぱり新幹線ゆかりで行くようなホテルだ。

ジョン・ウィックを追う主席連合は、彼の旧友ケインを殺しに差し向ける。盲目なのだが、座頭市ばりに杖を片手に殺しの技を披露する。
さらにジョン・ウィックに掛けられた賞金を狙う賞金稼ぎ、名無しも介入して、殺しが殺しを呼ぶ事態に発展するも、当然、警察なんかは出てこない(笑)

大阪では○○とXXの剣対決となるが、ここはチャンバラではなく、抜刀一閃で決着してくれた方が印象的だったろうな。

ちょいといろいろあって、舞台はベルリンへ。主席連合、なぜ空港を張らない?
ジョン・ウィックはここのクラブを仕切る巨漢デブ、キーラの暗殺をする羽目になるが、こいつが驚くような身のこなし。後で調べたら、これがスコット・アドキンス。特殊メイクで巨漢デブに仕立てていたのだから、なかなか手が込んでいる。
ちなみにここのクラブもなかなか豪勢で、インテリアデザインの凝り方がこのシリーズらしいところ。

なのだが、ここまでアクションが過去3作のブローアップバージョンにしか感じられず、ちょっと水増し感もあり、この後が不安になる。

ストーリーは最後の決戦の場、パリへ。主席連合、なぜ・・・(以下略)
ここに来て、ジョン・ウィックの賞金も爆上がり。パリ中の殺し屋が彼を目掛けて押しかけてきて、まさにパリ中は「増える賞金、死体の山」に。
ここからの限度を超えた殺しのオンパレードに笑うしかなくて最高なのだが、これを黙認しているパリ市民も怖い。
鳥瞰で捉えたビル内銃撃戦など「ヨーロッパの解放/ベルリンの戦い」での国会議事堂市街戦を彷彿とさせる。

そしてラストの決戦につながるのだが、本作、いたるところにマカロニウエスタンへのオマージュが。ケインはオルゴールの入った懐中時計を持ち、賞金稼ぎは「Nobody」。キアヌ・リーブス自身、監督は「続・夕陽のガンマン」を意識していたと言及しており、ジョン・ウィック、ケイン、賞金稼ぎはまさに「イイ奴、悪い奴、汚ねえ奴」の変形だし、狙撃を阻止する時には頬に刀を押し当てる。もちろん「人間には・・・」とも言うし、「He killer is mine」のセリフもある。最後のオチもある意味、オマージュだ。

3時間という長時間だが、ほぼ飽きることもなく、殺しに満ち溢れるジョン・ウィックワールドを堪能できたので大満足。
よって、星になった人の数で映画の星も決まるワタシの評価も
★★★★☆

ところで、主席連合の代理人(告知人)のひげ面の巨漢、目元に見覚えがあると思ったらクランシー・ブラウン。過去のアクション映画で鳴らした人の再登場もこのシリーズの嬉しいところ。






題名:ジョン・ウィック:コンセクエンス
原題:John Wick:Capter4
監督:チャド・スタエルスキ
出演:キアヌ・リーブス、ドニー・イェン、イアン・マクシェーン、ビル・スカルスガルド
コメント
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