kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

マッド・マックス:フュリオサ

2024年06月09日 | ★★★★★
日時:6月8日
映画館:イオンシネマ広島


前作「マッドマックス/怒りのデスロード」で主役の一人だった女闘士フュリオサの前日譚。
荒廃した土地で一大帝国を築いていたイモータン・ジョーから健康な若い女性たちを救出しようとした彼女がどのように成長したかが、160分(!)にわたって描かれる。

前作での結末が分かっているだけに話が盛り上がるのかと一抹の不安もあったが、結果的に脚本の巧みさもあって、傑作に仕上がっている。
戦争や資源危機、感染症の拡大など様々な災厄の結果、荒廃したオーストラリア(マッドマックスシリーズで舞台がオーストラリアと明言されたのは初めてかも知れない。)のど真ん中で仲間と一緒に生き延びていた幼いフュリオサは、同地でバイカー集団を率いる無法者ディメンタスに誘拐される。

クリス・ヘムズワースが演じるディメンタス、分かりやすい外見で、残虐非道なふるまいをする一方、妙にこざかしくセコいところもあったりで、過去の悪役とはキャラ造形で一線を画しているあたりがうまい。

ディメンタスはもう一つの勢力であるイモータン・ジョーの支配地を手中に収めんと目論んでいる。フュリオサはディメンタス一味に拉致されるものの、いろいろあってイモータン・ジョーの帝国に紛れ込み、汚らしいみなりでメカニックとして成長を遂げる。

と、巧みな語り口でストーリーが展開し、飽きることがない。前作でも登場した巨大タンクローリー「ウォー・マシン」が再登場し大暴れ。しかも「マッドマックス2」同様のMACK社製!このトラックに限らず、いろんな場面で過去作のオマージュ的シーンが出てくるのは嬉しい。

さらに「デスロード」に続く登場人物が出てきて様々な仕掛けがなされ、脚本がよく練られていることが見て取れる。
ギミック満載の巨大トレーラーが砂漠で爆走し、無法者どもの襲撃を受け、一大カーチェイスになるのはシリーズのお決まり。前作での巨大シーソー棒での襲撃も斬新だったが、今回もそう来るか!と嬉しくなるような襲撃方法も出てくるし、巨大重機との対決も出てくる。アクション監督は天才だな。

さらに上手なのが、【以下ネタバレあり】
シリーズものによくある「結局、同じ展開」とはしていない点。某スペースオペラとか某タイムスリップサイボーグものなど、ラストはほぼ毎回同じ展開で飽きてしまうのだが、本作は前作とはまた違ったテイストのラストを持ってくる。

クリス・ヘムズワースのキャラもいいが、アニャ・テイラー・ジョイのフュリオサも素晴らしい。ほぼ顔は汚れたままだし、坊主頭にもなれば、腕もちぎられる。それらすべてを飲み込んで威圧するかのような目ぢからが印象的だ。間違いなく彼女の代表作になるだろう。

ということで
評価は★★★★★。

ところで副題がMAD MAX SAGAとなっているが、今後もシリーズは続くんだろうか。なかなかキツいハードさだぜ。






題名:マッド・マックス:フュリオサ
原題:FURIOSA:MAD MAX SAGA
監督:ジョージ・ミラー
出演:アニャ・テイラー・ジョイ、クリス・ヘムズワース

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夕陽のガンマン

2024年04月21日 | ★★★★★
日時:4月11日
映画館:Tジョイ出雲





1965年に日本公開された「荒野の用心棒」を皮切りに一世を風靡したイタリア製西部劇「マカロニウエスタン」。

小学校の頃から戦争映画や西部劇が好きで、本格的にマカロニウエスタン好きとなったのは高校生になってから。その頃はすでに劇場でマカロニウエスタンを観ることはできず、テレビ放送(特に京都テレビと奈良テレビ)が唯一の視聴源だった。

時は流れ1990年代に入ってからマカロニウエスタンの再評価が始まり、何本かの作品が劇場でリバイバル公開されるようになった。広島に越してきていたワタシは、横川シネマの前身だった広島ステーションシネマで「ミスター・ノーボディ」「殺しが静かにやってくる」「J&Sさすらいの逃亡者」を観たのが劇場マカロニ初体験だったはずだ。

余談だが、一昨年、横川シネマで「殺しが静かにやってくる」が上映された時、当時から支配人だった溝口支配人に25年ぶりの再上映に謝意を伝えられたのはマカロニちょっといい話だ。(ちょっと違う)

1990年代後半からもマカロニのリバイバル上映は数年ごとに続き、「続・夕陽のガンマン」「怒りの荒野」「続・荒野の用心棒」「ガンマン大連合」「豹/ジャガー」と主要な作品は劇場で観ることができたし、長年の権利問題が解決して「荒野の用心棒」も朝十時の映画祭にかかり、「ウエスタン」こと「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ウエスト」もシネコンで上映される世の中となった。
劇場で未見の作品として心残りなのは、マカロニウエスタンの代表作にして大傑作、そしてマカロニウエスタン中一番好きな「夕陽のガンマン」だけとなった。

そして、遂にドル三部作として「荒野の用心棒」「続・夕陽のガンマン」とともに「夕陽のガンマン」が劇場上映されるとのニュースが入ったのが昨年。その時は劇場未定だったが、劇場公開日は早々にスケジュールしておいた。
なのだが、公開予定劇場が公表されるとその中に広島が1館も入っていない!そんなバカな話があるかー!

直近の劇場でも出雲市。ということで片道3時間かけて「夕陽のガンマン」を観に行くことになったのである。(3時間もあれば国内マカロニの聖地名古屋でさえ行けるぞ。)

ストーリーはマカロニウエスタンの王道で、クリント・イーストウッドとリー・バン・クリーフの賞金稼ぎが悪党一味を追うものだが何十回見ても面白いし、演出も画面作りも音楽も主役と悪党の顔ぶれもすべてがカッコよさと魅力にあふれている。
バリバリにカッコいいメインタイトルが大スクリーンに流れるだけで血沸き肉躍り、涙が出そうになるし、ゴミひとつない綺麗な画面に大迫力の音響で展開される緊迫感に満ちた物語と撃ち合いは言うまでもなく最高!

何十回も観てきたのに、今になってイーストウッドがいつの間に悪党どもの死体を馬車に積んでいたのか気になったりしたし、最後の決闘が終わって余韻に浸る場面で、イーストウッドの後ろに赤子を抱いた女性が写り込むという無駄な新発見もあって楽しい!
あっという間の2時間。やっぱりマカロニウエスタンはいい!!

ということで、評価はもちろん
★★★★★

「荒野の用心棒」と「続・夕陽のガンマン」の今回の上映も何とかして観たいところだ。
もはや、あと劇場で観たい作品といえば「史上最大の作戦」ぐらいなもんである。

ところで、行きも帰りも当然、車中ではずっとマカロニウエスタンを口ずさんでいたし、途中通る町も町の有力者同士が派閥争いしている物騒な町に見えてくるってもんだ。






題名:夕陽のガンマン
原題:Per Qualche Dollaro in Piu / For a few dollars more
監督:セルジオ・レオーネ
出演:クリント・イーストウッド、リー・バン・クリーフ、ジャン・マリア・ボロンテ
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オッペンハイマー

2024年04月11日 | ★★★★★
日時:4月5日
映画館:八丁座
パンフレット:A4 1,200円情報いっぱい



昨年の全米公開時からいろいろと話題になり、アカデミー賞受賞でさらに注目が高まった本作。広島では大学生向けの試写会が開催されたり、劇場公開時にはBBCが取材に来るほど。
ワタシの方は3時間の上映時間や年度末年度初めの慌ただしさもあり、1週間遅れでの鑑賞となった。

いきなり結論から言えば、見ごたえのある作品であり、クリストファー・ノーランがよく取り上げる「人間の善と悪」「贖罪」が全面に打ち出された作品だと思った。
オッペンハイマーは傑出した科学者であり、また有能なプロジェクト・マネージャーとして原爆製造の責任者を任され、ナチスを壊滅させるために原爆製造にまい進する。しかし、原爆完成前にナチスが崩壊。国家プロジェクトの行く末も見据えながら原爆を実用化させ、終戦とともに一躍時の人となるが、やがて冷戦と政治に翻弄されていく。

さて、あの論点だが、劇中、広島長崎の惨状は描かれることもなければ、記録写真・映像も画面には出てこない。被爆の実情から目をそらしているという指摘もある。
オッペンハイマーは核兵器を開発したことへの自責の念に苛まれるのだが、それは「世界を滅亡させる核の時代を開いたことに対して」として描かれている。
劇中「1度核兵器を爆発させたら、大気中の核分裂の連鎖反応が途切れなく繰り返されて地球が燃え尽きる」説が何度も言及され、その破滅が理論上の可能性であった連鎖反応ではなく、核兵器の開発と保有国による相互破壊として現実になったことに焦点が当てられ物語が進む。
なので描写への批判も当然のこととはいえ、広島長崎の惨状を真正面から取り上げていたら、映画の論点がぼやけたものになったのではないかと思う。
また、クリストファー・ノーランは映像へのこだわりが異常なので、自分が撮っていない記録写真・映像を使う気は最初からなかったのかも知れない。(←邪推)

以前、フレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー映画「ミサイル」を観た時、基地のスタッフがミサイルの発射ボタンを押すことを逡巡しないようにシステマチックに構築された理論と教育に打ち勝つのはなかなか大変だと思ったことがある。
それぞれの歴史観についても同じことが言えると感じた。
自身の日々の仕事を顧みて、やっている仕事が長期的には社会や地球の将来に悪影響を及ぼすのかも知れないと自問することがある。さすがに兵器を作っているという自覚はないが、オッペンハイマーと議論した科学者が発する「物理学300年の英知の到達点が大量破壊兵器なのか」というセリフには涙する。

映画後半ではかっての組合活動や共産主義者との付き合いなどから、赤狩り真っ只中の政府委員会で吊るし上げられ、公職から追放されていく様が描かれる。そのプロセスの恐怖は公正ではない社会になっていくことへの危機感の表れではないか。
マンハッタン計画を描いた映画は過去にもあり、オッペンハイマーをデビッド・ストラザーン、グローブス将軍をポール・ニューマンが演じた映画をうっすらと覚えている。(後で調べたら、前者は「デイワン/最終兵器の覚醒」、後者は「シャドウメーカー」という別の映画だった。)

今回、オッペンハイマーを演じたのは、悪人顔のキリアン・マーフィー。その顔立ちからエキセントリックな役どころが多いが、彼がいたから成立した映画とさえ言えるくらいのハマリ役。
妻役のエミリー・ブラントやグローブス将軍のマット・デイモンなどキャスティングもオールスター映画を思わせる顔ぶれなのだが、ほとんど見せ場がない。
むしろ魅力的に描かれるのは物語として悪人側にいる人間で、映画後半をかっさらうロバート・ダウニーJrのオスカーもさもありなん。他にもエドワード・テラーやロッブ検事、トルーマン大統領(1シーンだが演じるのはチャーチル首相も演じたゲイリー・オールドマン)も強い印象を残す。「バットマン」シリーズ同様、そういった人物描写もノーラン的だ。
時代背景を知っているとはいえ、時の流れが複雑に交錯した映画なので登場人物の心理の変化も意識してもう一度観たいし、大きな問題提起という

評価は★★★★★。

さて、期せずして米のホームコメディ「ヤング・シェルドン」を観ていたら、1984年のテキサスで天才少年が「共産主義を支持する」とインタビューに答え、街中から危険視されるというエピソードだった。笑い話にしているとは言え、アメリカの共産主義恐怖症はなかなか根深い。







題名:オッペンハイマー
原題:OPPENHEIMER
監督:クリストファー・ノーラン
出演:キリアン・マーフィー、ロバート・ダウニーJr、エミリー・ブラント、マット・デイモン
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アンブッシュ

2024年01月10日 | ★★★★★
日時:2024年1月6日
映画館:バルト11
パンフレット:A4、800円。半分は軍事評論家 大久保義信氏の解説。





イエメン内戦に介入したアラブ首長国連邦(UAE)軍の戦闘を描くミリタリー映画。戦地のど真ん中で孤立する装輪装甲車の話を聞けば、装甲車好きとしては何が何でも見なければならない。(ちなみにアラビア語で話されるUAEの映画を劇場で観たのは初めて。)

劇場は4DX対応シアターでの公開だったが、入り口には「対応していません」表示。えっ、違うんかい。

主人公たちはUAE軍の兵士で、紛争地帯への人道支援活動の一環として食糧を運ぶ任務を担っている。
出動前の駐屯地での描写を見ただけで、映像にかなり力が入っているのが分かる。というより、完全に軍がバックアップしていることが一目瞭然。置かれている備品類からして画面の厚みが違うし、主人公たちの背景でMRAP(耐地雷・伏撃防護車両)が不自然なくらいバンバン走る。

現地で
映画スタッフ「その辺にハンヴィー置いてもらえますか?」
軍広報担当「いやいや、せっかくなんでMRAP走らせましょう!」
なんて会話が交わされたのではと妄想するくらいだ。

もしかするとこのシーンも映画向けのセットではなく、実際の基地や駐屯地でロケしているのかも知れない。

2台のMRAPで出動するが、砂漠の渓谷の真ん中でイスラム教フーシ派の待ち伏せ攻撃にあう。フーシ派がRPGロケット砲や迫撃砲、狙撃手、白兵攻撃を仕掛けてくる中、1台はなんとか退却できたものの、1台は移動できず周囲を敵に囲まれる中で孤立してしまう。

登場するMRAPはオシュコシュやらカイエンやらの実車で、車内外の細かいディテールが大スクリーンで見えたりするともう画面にくぎ付けになってしまう。赤新月社マークをつけた装甲救急車なんて初めて見た。いつかプラモデルで作りたい車両だな。

フーシ派はさらに狭い渓谷の道に対車両地雷を埋設し、孤立したMRAPを救出に来た緊急救助部隊もその餌食になる。
救出部隊がさらに状況を悪化させてしまう構図はどうしても映画としての「ブラックホーク・ダウン」との類似性を感じてしまうが、現実の戦場とはこうしたものなのだろう。

ここから先はほぼ一地帯で話が展開し、さらには出てくる俳優は見たことのないヒゲ面で、おまけに汚れきっているとあって見分けがつかない。愚直なくらいストレートに戦闘シーンが続く。退屈しそうなところだが、そこはアクションシーンになれた監督なのでキチンと見せてくれる。

車載リモート機銃システムRWSやスモークディスチャジャーといった兵装類もフル活用される戦闘シーンも迫力がある。軍全面協力の映画ではよくある話なのだが、特殊効果ではなくおそらく実弾を使用しているんじゃないかと思われるシーンが散見される。

映画スタッフ「あの辺をロケット弾で爆破するシーンを撮りたいんですが・・・」
軍広報「訓練名目で実弾撃ちますよ。迫力が本物だし、何といってもその方が安上がりですよ。」
なんて会話が交わされたのではと妄想するくらいだ。

ラストシーンでは改めて舞台がイスラム教圏で登場人物もムスリムだったことを認識させられる。敵もまたイスラム教徒で、同じ宗教同士で殺し合うことに人間の業の深さを感じさせられる。
さらに普段見ている映画はキリスト教圏の人間が主人公で、ムスリムは基本敵側、良くて異質な味方というステレオタイプだということに気付かされる。
今の現実を認識するためにはこういったイスラム圏の映画もどんどん公開してほしいところだし、アマプラではトルコやイランの戦争映画が配信されているのでちょっと意識的に観てみよう。

世間的は特殊な映画と位置づけられるだろうが、
評価は★★★★★!

ところで、元々、正月一番で観に行くつもりだったが、年始の大渋滞に巻き込まれ上映時間に間に合わず、今年2番目となった。あんな渋滞で立ち往生しているところを待ち伏せ攻撃されてたらイチコロだったところだ。







題名:アンブッシュ
原題:The Ambush
監督:ピエール・モレル
出演:マルワーン・アブドゥッラ・サーリフ、ハリーファ・アル・ジャースィム、ハンマド・アフマド、アブドゥッラ・サイード・ビン・ハイダル

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エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

2023年03月08日 | ★★★★★
日時:3月3日
パンフレット:990円どうやら初版には目玉つき


どんな映画かいうと、「ラ・ラ・ランド」にモンティパイソンを足して、80年代の砂漠系近未来B級SFものと「未来惑星ザルドス」をまぶして、「マトリックス」を添え、私が日頃寝てるときに見る夢を混ぜたって感じ。

要するに何でもアリで、大混乱する映画です。
ただ、作者の思いだけぶちまけて観客置いてけぼりではなく、ちゃんと笑わせるところは笑わせて、最後にはほんわかまでさせるというウルトラCを達成してます。伏線が活きている脚本も、お下劣系から鬼畜系まで含んだ独特の笑いのセンスも好きです。
宇宙が人類発生にあまりにも都合よく出来ていて、それは今いる宇宙は無限に産み出される宇宙の1つに過ぎないからである(=マルチバースが存在する)という考え方が好きで、こういった多元宇宙とか並行宇宙が舞台の作品はだいたい気に入ってます。だって、いろいろ夢想するの楽しいもん。

そのマルチバースの調和を取り戻すため奮闘するのがミッシェル・ヨー。彼女、「スタートレック/ディカバリー」でも並行宇宙でムチャクチャな活躍してました。
マルチバースで何をしても絵になるのが彼女のいいところ。1つの映画でこれだけの顔を見せたら、そりゃ主演女優賞にもノミネートされるわな。

すっかりいいおじさんになったキー・ホイ・クアンもいいのだが、ジェイミー・リー・カーティスもいいですよ。こないだ「ハロウィン」を観ましたが、あれから40年近くずっと第一線で活躍していることも、コメディエンヌぶりもステキです。
なのだが、2人以上にジェームズ・ホンの登場がいい。「ゴーストハンターズ」から30年くらい経っているはずなのに全然変わらない(笑)

ということで評価は★★★★★。
ぜひアカデミー賞を取ってほしいです。







題名:エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
原題:EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE
監督:ダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)
出演:ミッシェル・ヨー、ステファニー・スー、キー・ホイ・クワン、ジェイミー・リー・カーティス
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ベルファスト

2022年04月03日 | ★★★★★
日時:4月2日
映画館:バルト11



アカデミー賞の複数タイトルにノミネートされたケネス・ブラナーの自伝的映画。

一言で言うと「沁みる」

1969年、カソリックとプロテスタントが対立するアイルランドのベルファストで育つ少年バディ。大好きな家族やおじいちゃん、おばあちゃんと毎日を過ごし、学校ではかわいくて頭のいい女の子が好きな普通の男の子の生活がモノクロ映像で描かれる。

だが、北アイルランド紛争はエスカレートし、バディの周辺も穏やかでなくなってくる。(エスカレートする紛争を描いた映画が「ベルファスト71」)

1969年というとワタシの生まれた年だが、世代的にはバディと近い。映像が基本、モノクロというのも見ていて気持ちがいい。普段の生活感とか劇中登場するテレビ番組、映画にも当然親しみを覚える。テレビでは「宇宙大作戦」、映画館では「恐竜100万年」「チキチキバンバン」「リバティバランスを撃った男」と王道のセレクションなのだが、モノクロの劇中、カラー映画はカラーで登場する。単に色だけじゃなく、少年時代、新しい映画を観たとき感じる輝くようなワクワク感がものすごくいい。

バディの父親は大工でロンドンに出稼ぎに行っており、収入はちょっと苦しい。母親はバディとお兄ちゃん兄弟の子育てに奮闘している。映画ではバディの目線だけでなく、両親の生活もキチンと描いており、ブラナー監督の両親に対する感謝とか愛情も表現されている。逆に親目線で見るとウチの子にもこういった時代があったことをしみじみと懐かしんだり、もっと一緒に遊べばよかったとも思ったりする。

じいちゃん、ばあちゃんを演じるのはキアラン・ハインズとジュディ・デンチ。工作員とか諜報員をコントロールしそうな重厚な顔ぶれだが、ここではバディにいろいろ教えてくれ、話し相手になってくれる。ワタシもおじいちゃん、おばあちゃんが近くに住んでいたなあ・・・。

だが、紛争の激化にともない家族の身も安全とは言えなくなり、一家は転居も考えざる得なくなる。当事者目線で描かれる紛争の様子はアルフォンソ・キュアロンの「ROMA/ローマ」にも通じるものがあり、なかなかヒリヒリとした緊張感が漂う。
そんな中、家族みんなが巻き込まれる事件が発生し、実質、その場面が映画の見せ場となるのだが、これが西部劇の古典に家族愛を重ね合わせて、自然と涙があふれてくる。

やがて、家族にも転機が訪れ、バディ少年も成長する。

背景に北アイルランド紛争があるとは言え、親子3代の1つ1つのエピソードに親近感を覚え、映画を観終わった時より映画館を出た後の方がじんわりと泣ける映画。

ところで、舞台設定的にサラディン装甲車やサラセン装甲車、ランドローバーが見えたりするのがとても気になるねえ(笑)






題名:ベルファスト
原題:BELFAST
監督:ケネス・ブラナー
出演:ジュード・ヒル、カトリーナ・バルフマー、ジェイミー・ドーマン、キアラン・ハインズ、ジュディ・デンチ
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ニューヨーク1997

2022年02月17日 | ★★★★★
日時:2月11日
映画館:サロンシネマ
パンフレット:紙製ビデオケースを模した特別仕様1,300円。どこでも同じようなこと考えるヤツおるなあ(笑)

(マイグッズ、左から今回のビデオケース型パンフレット、初公開時パンフレット、ポストカード2種、アメリカのガチャガチャで偶然手にいれたキラキラステッカー、昨年末に出た研究本)

1980年代、多くのSF映画やアクション映画に影響を与えた作品が本作「ニューヨーク1997」と「マッドマックス2」「ブレードランナー」だったと思う。いずれもダークなディストピアな世界観が背景にあり、世の中はお先真っ暗だった。
ホラー映画がブームだった同年代にあって「ハロウィン」や「ザ・フォッグ」そして「遊星からの物体X」を監督していたジョン・カーペンターは燦然と暗かった(笑)
(ちなみにその後「ランボー2」「ロボコップ」「ターミネーター」の登場により、流行もまた一気に変容する。)

ここ10年くらいで大好きな60~70年代の映画がどんどんリバイバル上映される中で、実は映画館で未見だった本作がまさかリバイバル上映されることは夢にすら思ってなかった。しかも東京での上映からわずか1か月で広島上映!ありがとう序破急!ありがとうT部長!(ちなみに続編「エスケープ・フロム・LA」をリアルタイム鑑賞したのはサロンシネマ前のテナント、広島東映だったのも感慨深い。)

1988年、全米の犯罪発生率は400%を突破し、米国政府はマンハッタン島全島を刑務所化して武装警察USPF(United State Police Force)に警備させ受刑者を収監していた。1997年、リバティアイランド刑務所にハイジャックされた大統領専用機が墜落、行方不明になった大統領救出に元特殊部隊員で一匹狼の腕利きの犯罪者SDプリスケン、通称スネークが送り込まれる。

これらの設定、何らかの事情で孤立隔絶した環境、アウトローな一匹狼、常軌を逸したミッションと映画やコミック、ゲームで使われた実例はもはや上げないが、本作が後世に与えた影響は計りしれないと思う。

改めて観ると脚本はご都合主義で分かりにくいところはある(脚本で言えば「要塞警察」の方がよく出来ていると思う)し、低予算が目につくところもある。
がそれらの欠点をまかなって余りあるのが、スネーク・プリスケンという隻眼の主人公にクセのあるキャスティング、夜間ばかりの展開、ディストピアな空気感、そしてカーペンターによる音楽!もう、広島上映の報せを聞いてからほぼ毎日、何かしらのサントラを口ずさんでいる。人生ツライことがあってもカーペンター節(とマカロニ)で乗り切れる。ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥン

今回の上映で若干残念だったのは字幕。スネーク=青野武の日本語吹き替え版がステキすぎてセリフの多くがソラで言えちゃうと、今回の字幕では文意としては正しいんだろうが、馴染めないところがあったのも事実。(「核共有」だとラストで話が通じなくなる)

評価はいろいろな思い入れもあって★★★★★。

ところで、1997年はプライベートでも重要な年で結婚した年である。ってことは今年銀婚式じゃん!!(映画で思い出す人生の節目)






題名:ニューヨーク1997
原題:Escape from New York
監督:ジョン・カーペンター
出演:カート・ラッセル、リー・バン・クリーフ、ドナルド・プレゼンス、ハリー・ディーン・スタントン、エイドリアン・バーボー、アーネスト・ボーグナイン、アイザック・ヘイズ

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1917 命をかけた伝令

2020年02月18日 | ★★★★★
日時:2月16日
映画館:サロンシネマ
パンフレット:A4変形版820円。読み応えあり。

1917年第一次世界大戦下のフランス。
ドイツ軍が後退したタイミングでイギリス軍1個連隊が追撃をかけようとする。しかし、退却はドイツ軍の策略であることが発覚、連隊が反撃で壊滅する前に攻撃を中止させなくてはならない。大至急、2名の兵士が連隊に向けて伝令として出されることになる。

とここまでおそらく10分。そこから2人が戦場の地獄を横断する様がほぼ2時間にわたり描かれる。

予告どおり、ワンカット風に見せながら映画は進んでいくのだが、この緊迫感が素晴らしい。
まず自軍の塹壕から出るまでが延々と描かれるが、ワンカット表現によって当時の塹壕の複雑さとデカさが手に取るように伝わってくる。これまでのWW1映画ではできなかったことだ。

全身泥だらけになりながら、鉄条網をかき分けていき、さらに着弾跡のクレーターを這いずり回る様など、個人的に緊張感あふれる興奮のシーンが続く。泥の匂いとか服や装備に何かと引っかかる苛立ちが感じられるくらいだ。何時間でも観ていられるぞ。

あくまでワンカット風なので、この辺でカットを切り替えたなとか何となく分かったりするのだが、演出と撮影が絶妙なので、ストーリー展開に撮影技術で1本で二度楽しめる。

また、第一次大戦を再現したロケとプロダクションデザインも見事で、そこだけでも飽きることがない。金も手間もかけた分だけ画面に映し出されている映画はやはりいい。このトーンで「続・夕陽のガンマン」とか「戦争のはらわた」を観ることができたらなあと夢想してしまうぜ。

戦争映画なので当然、死体がたくさん出るが、ほとんどがまぐれのような瑣末な死。劇中、戦場に積み重なった死屍累々も僅かな差で生死が分けられているのだろうし、実際、戦記を読んでいると人の死にドラマチックなものは何もない。そこには戦争の現実があり、その反対側にはそれぞれの人生があったのだと改めて感じさせられる。(ちなみに広島でもWW1ドキュメンタリー「彼らは生きていた」の公開が決定。)

キャスティング的に主役二人には見覚えがないが、コリン・ファース、マーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチと現代英国エスピオナージュ顔が大集合で嬉しくなってしまう。(三人とも「裏切りのサーカス」で共演しているし、二人なら「キングスマン」とか「イミテーション・ゲーム」でも共演してる。)

敵地が近づく後半になると「レヴェナント」を思わせるサバイバル映画になり、そこも嬉しいのだが、アドベンチャー風味が加味されすぎてちょっと白けてしまう。モーゼルはそんなに命中せんのかい(笑)

この映画に最大の欠点があるとしたら、予告編。すべてネタバレさせている。そのせいであるシーンの緊張感が台無しになっている。もったいない。
その点を割り引いても五つ星満点評価。

ところで、この映画、ユニバーサル配給なので、数年後USJに「1917ライド」が登場するのを少しばかり期待したりして。






題名:1917 命をかけた伝令
原題:1917
監督:サム・メンデス
出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、アンドリュー・スコット

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ホース・ソルジャー

2018年05月16日 | ★★★★★
9.11テロ直後、アメリカはアフガニスタンのアルカイダ壊滅のため、グリーンベレーの1チームを現地に派遣し、アルカイダと対立するタリバンの北部連盟と共同戦線を張ることにする。

邦題とパブだけだとアクション映画っぽく見えるが、同じブラッカイマー製作による「ブラックホーク・ダウン」にも通じる実録戦争映画。

顔なじみなのはクリス・ヘムズワースとマイケル・シャノン、マイケル・ペーニャだけで、あとはあまり馴染みのない地味な顔ぶれ。まあ、知っていたとしても「ブラックホーク・ダウン」同様、みんな顔が汚れまくって誰が誰かわからなくなるのだが。
あと、現地司令官としてウィリアム・フィクトナーが出ているが、「ブラックホーク・ダウン」の時から出世して、いまや階級は大佐(笑)

ハリウッド映画とは言え、脚本は戦史再現ドキュメンタリーのような作りで、個々の戦闘と作戦の全体像が俯瞰できる丁寧な出来。とは言え、それはミリタリー好きだからそう思うので、人間ドラマの方は印象が薄い。一応、クリス・ヘムズワースの隊長と北部連盟側の将軍との対立や交流も描かれるが、彼らの人間性より双方の政治的思惑の方が面白かったりする。

作戦描写は非常に分かりやすくて面白い。偵察をし、空爆をして、弾着観測をし、側面攻撃を仕掛け、補給路を絶ち、拠点を制圧するという軍事プロセスを余すところなく見せてくれる。
戦況を分かりやすくするために、司令部への報告や通信、テロップなどを効果的に使っているが、北部連盟が使う地図の地名表記が堂々たる英語だったのは噴飯モノ。

ディテールも細かく、何年も現地滞在しているCIAの現地工作員とか、移動手段の馬やラバとか、通信用携帯アンテナを命がけで確保するとか、グリーンベレーの一人が椎間板ヘルニアで苦しむとか、もうどうでもいいけど印象的な描写が盛りだくさん。
(移動手段の馬が邦題と原作小説のタイトルの所以となっている。)

敵もT-72戦車とかBMPとかBM−21とかがワンサカでてきて、共産主義のアカの露助の無神論者の旧ソ連兵器が大好きなワタシは大満足。

一方、対抗兵器のない敵に対して、B-52から強力な誘導爆弾を叩き込む様など、戦術として正しくても人道的には受け入れられないが。

荒野好きなワタシの感性にビンビンくる砂漠のロケ地はどこかと思ったら、これが何とニューメキシコ。エンドクレジットに出てくるヴィジュアル・エフェクト系会社の羅列を見ると、画面にはかなり手が入っているのだろう。
そう思うと、共産主義のアカの露助の無神論者の旧ソ連兵器の多くはCG描き起こしかも知れない。そうだとしたら、ちょっと残念。

この作戦は長らく機密扱いだったらしいが、確かに軍事介入して現地の内戦を煽っている訳だからオープンにできるはずもない。ベトナム戦争時代の「軍事顧問団」そのものでイメージも良くないだろうし。

ところで、アフガニスタンを舞台にした戦争映画は昔から面白いものが多い。
「王になろうとした男」しかり「レッドストーム/アフガン侵攻」しかり。劇中でも述べられるが、いかなる帝国でも支配できなかったアフガニスタンで、強国が痛い目に会う様が破滅指向のワタシにピッタリなのだろう。(笑)






題名:ホース・ソルジャー
原題:12 STRONG
監督:ニコライ・フルシ−
出演:クリス・ヘムズワース、マイケル・シャノン、マイケル・ペーニャ

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オデッセイ

2016年02月12日 | ★★★★★
日時:2月11日(火星建国記念日)
映画館:八丁座
パンフレット:A4版720円。

ワタシが死ぬまでに見たい宇宙のニュースと言えば、「ベテルギウスの超新星爆発」「地球外生命体の確認」そして「有人火星探査の実現」なのだ。(その後、行きつけのバーで「木星の大赤斑の消滅」と「太陽フレアによる大打撃」が加わった。)

火星が舞台の映画は昔から、それこそ「火星年代記」から「トータル・リコール」「ミッション・トゥ・マーズ」「ゴースト・オブ・マーズ」「ウォッチメン」まで多種多様な映画を観たし、ここ数年は科学ドキュメンタリー番組で現実味のあるストーリーとして描かれている。

今や、火星でのサバイバル・リアリティ・ショウだ。映画に期待するあまり、珍しく先行して原作小説まで読んでしまった。

【以下ネタばれあり】

映画は原作をほぼ忠実になぞっている。だから原作を読んでいない人は多少、基礎知識が無いと話が混乱するか、字幕を追いかけるので大変になるかもしれない。(化学燃料ヒドラジンから水を生成するくだりは原作ではもっとスリリング。)科学的なディテールが省略されている部分もあるし、映画的なメリハリを優先するため、後半のトラブルはほぼカット。

それで映画がつまらないかと言えば、そんなことはなく、リドリー・スコットの圧倒的な創造力とNASAの全面協力で、全編鳥肌がたつような映像が展開し、原作の雰囲気は見事に再現されている。

面白いのは、いかにもリドリー・スコット好みと思えるこの映画が彼主導の企画ではなく、彼はスケジュールが空いたことで監督する機会が巡ってきたということ。「プロメテウス」から数年で、役者の顔触れは「インターステラー」とモロかぶり。それでも演出を手掛けようという、尽きることのない映像作家としてのエネルギーが凄い。

さて、ワタシが好きな宇宙ネタの1つが「マーズ・スピリットとマーズ・オポチュニティ」なのだが、以前から有人火星探査が実現した暁には、「南極物語」のタロとジロのように人類を待ち続けた2台のローバーと出会えることを期待していた。人間誰しも同じようなことを考えるらしく、マーズ・パスファインダーを発見するくだりは原作、映画ともに涙なしには観ることができない。

こういった遭難ものでは主人公の寂しさを紛らわす相方が必要なのだが、この物語にはそんなものは登場しない。とにかく科学的に最終期限が決められているので、感傷に浸っておしゃべりする暇があるなら、どんどん次の手立てを打たなくてはならない。原作ではそのあたりが詳細に記され、科学者やエンジニアのプロジェクト・マネージャーぶりを読み取ることができる。文系の行き当たりばったりの人間にはその思考プロセスが新鮮で、何かと役に立ちそう。

火星でのサバイバルだけでなく、NASAと火星探査船「ヘルメス」の活動も同時進行で描かれるが、見せ方の手際が良く、そこはやはりリドリー・スコット。「プロメテウス」のストーリー展開の不可解さがウソのよう。また、居住スペース用回転モジュールを持ったヘルメスのデザインはなかなかカッコいい。

救出劇のクライマックスはいかにも映画的になり、原作ではあまり意識しなかったが、さすがに映像で見せられると興奮する一方でウソくささも気になってしまうのは止むえないところか。

劇場は年配客が多い一方、中高生のグループも多かった。この映画に興奮した学生が将来、NASAを目指すようになったら、まさにNASAの面目躍如だろう。

ところで、映画には原作にはない「その後」が描かれる。そのマット・デイモンのファーストショットが「プライベート・ライアン」にそっくりなのだ。「プライベート・ライアン」の映像表現に驚愕したリドリー・スコットは、後年「ブラック・ホーク・ダウン」を撮ったというが、このシーンを観ていると「君はフランスの戦場からマット・デイモンを救ったが、ワシは火星から救出したぞ。」というリドリー・スコットの心の声が聞こえるかのようであった。(妄想)







題名:オデッセイ
原題:THE MARTIAN
監督:リドリー・スコット
出演:マット・デイモン、ジェシカ・チャスティン、ジェフ・ダニエルズ、キウェテル・イジョフォー

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