kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

ひろしま美術家特別展「平木コレクション 生誕220年 歌川広重の世界展―保永堂版東海道五十三次と江戸の四季」

2018年01月18日 | 展覧会
「平木コレクション 生誕220年 歌川広重の世界展―保永堂版東海道五十三次と江戸の四季」
会場:ひろしま美術館
会期:2018年1月3日(水)~2月12日(月・振休)

先週の広島県立美術館に引き続いて、こちらも浮世絵展。こちらは完全に作家中心の展覧会で「東海道五十三次」「名所江戸百景」+根付展の三部構成。

まず、「東海道五十三次」については過去にも同展を鑑賞した際に感じたが、ワタシの仕事である観光パンフレット制作のまさにご開祖様。現代にも充分通用する表現技術を見いだすことができる。いずれの作品にも老若男女の躍動的な人物が盛り込まれていることもそうだが、その人物描写に無駄がない。また、「東海道五十三次」全体を通して、ストーリー展開がなされている点も素晴らしい。誰か観光パンフレットとしての「東海道五十三次」を研究していないのだろうか。

続いて、「江戸名所百景」。こちらはご当地写真集といったところなのだろうが、全体を通してみるとむしろ表現方法の見本集といった感じを受ける。判型もまちまちだし、遠近法が用いられている作品があれば、二点透視図法で描かれた作品もある。モチーフが画面から大胆にはみ出した作品などかなり実験的な雰囲気が感じられる。
後世の絵師に向けたお手本集といった趣だ。

根付展は1室のみの展示だが、元々なにかを作るのが好きなワタシは細工の精細さに「ほお〜」「う〜ん」「ふぅわー」など嘆息が尽きることがない。テーマも遊び心にあふれていて、時に大胆すぎて吹き出してしまう。着物の時にぜひ凝った根付を身に着けたいところだが、高確率で壊してしまいそうで怖い。

本展、いずれも作品が小さく展示総数もそれなりに多いので、見終わったらどっと疲れます。時間に余裕を持った観覧をおすすめします。

ところで、次回特別展はミュシャ展。楽しみ。
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広島県立美術館特別展「遊べる浮世絵展」

2018年01月09日 | 展覧会
「くもんの子ども浮世絵コレクション 遊べる浮世絵展」
会場:広島県立美術館
会期:2018年1月5日(金)~2月12日(月)

数年前から浮世絵が面白いと思えるようになり、ここ数年、毎年のように浮世絵展が開催されるのは嬉しいことです。

今回はくもんの子ども浮世絵コレクションから子どもとか遊びにまつわる作品が集められているが、こういうテーマは珍しく、展示作品も普段見慣れないものがあって面白い。双六とか判じ絵とか切り絵とかモチーフが分かりやすく、謎解きや言葉遊びは時代を越えて愛されるんだな。「異国双六」に「くろんぼ国」があったり、「勝手道具はんじもの」には「稚児がすきな坊主とかけて"かま”」とあったりもする。その一方、子ども向けの商品でもあるので、仕上がりが少々雑なところが興味深い。

また、作家中心の展覧会と異なり、作品年代が幅広いのも特徴で、江戸時代初期から明治までの作品を一覧できるのは、非常に勉強になる。時代の変遷とともに浮世絵の技術が進歩し、色彩もどんどん鮮やかになっていくのがよく分かる。見ているうちに作品の年代も5割くらいの確率で徐々に目星がつくようになるし、明治時代の作品ともなるとそれまでにない色使いでひと目で分かる。
でも、子どもテーマとはいえ江戸時代初期の紙本着色の巻物や屏風なども展示されているのは展覧会タイトルからすれば反則技。また、製作年が200年以上離れている作品を並べて展示するのも違和感があったな。

時代風俗の表現も多岐に渡っているので、江戸史など好きな人には面白いだろうな。(ワタシは関心がないけど)そういえば、時代小説や和文化の好きな人って浮世絵展に来るんだろうか?

今回、一番気に入った作品は月岡芳年の「勝軍高名出世寿語禄」。慶応2年(1866年)の戦双六なのだが、「繰出し」からスタートし、「鉄砲」だの「分捕」「討死」「野陣」「落城」「一騎打」「實検(首実検)」となかなか物騒な単語と絵が並び、古今和洋折衷な表現で見応えたっぷり。やっぱり「戦争ごっこ」好きは死ぬまで治らんでしょう。



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広島市現代美術館「第10回ヒロシマ賞受賞記念 モナ・ハトゥム展」

2017年08月28日 | 展覧会
「第10回ヒロシマ賞受賞記念 モナ・ハトゥム展」
会場:広島市現代美術館
会期:2017年7月29日(土)~10月15日(日)

毎回、受賞者の作品が説明しづらいヒロシマ賞。
今回も作品について、素人が語るにはハードルが高い彫刻とインスタレーションが多く展示されている。

ただ、今回は会場で配付される作品リストに作品の解説も付されていて、なるほどひとつの参考になる。(現代美術館の展覧会は存命の作家の意向もあるため、解説なしのことも多い。)
解説どおりに感じるかどうかはひとそれぞれで良いと思うが。

本展覧会については、知り合いさん(女性)から「男性陣には人気がなかった。」と事前情報を入れてもらっていたが・・・

結果、ワタシは混沌としたものが好きなんだと再認識した。

作品の多くが暴力的で、触れると血だらけになりそうなものも多い。想像力がたくましいと、尖った金属がむき出しになったベッドや持ち手ハンドルが刃物状の車椅子、ゆで卵スライサーのようなベビーベッドなどで痛々しいケガをする様が目に浮かぶようだ。
さらに、ちょうど、今、19世紀の帆船ものにハマっていることもあり、当時の砲弾を思わせる展示作品など「砲弾の直撃を受けた甲板上の水兵が真っ二つ」という描写を思い起こさずにはいられない。

これらの作品が作家自身の生い立ちを反映していることがよく分かる。

確かに、得体の知れない恐怖を感じたり、「生理的にダメ」という人もいそうな気がするが、自然や人間を描いた美しい作品の一方で、こういった作品もワタシは好きだ。
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ひろしま美術館特別展 絵本のひきだし林明子原画展

2017年07月30日 | 展覧会
ひろしま美術館特別展 絵本のひきだし林明子原画展
会期:2017年7月15日(土)~ 2017年8月27日(日)

林明子の絵本は見た覚えがなかったので、あまり興味はなかったのだが、実に良かった。

ベイビーや子どもが好きなので、原画の優しい線や表情が心なごませてくれ、ついつい笑みが出てしまう。

また、1977年の「はじめてのおつかい」は、主人公の少女の実年齢とちょうど近いこともあって、描かれている街並みやディテールがとても懐かしい。

本作に限らず、本展では原画とあわせて下絵やレイアウト検討案も展示され、レイアウトの変遷からプロダクトの過程が見ることができて楽しい。

描かれるモチーフも子どもの日常生活が多く、そこに親しみがわく一方で、描かれたリアルな背景に時代の変化を見ることができて興味ぶかい。

今回のもう一つの代表作「こんとあき」はぬいぐるみのこんが愛くるしい。(散々に痛い目に会うのだが。)最後の最後まで絵本を買うかどうか悩んだくらい。(結局、絵はがきで手打ち)

他にも「ひよこさん」など心あたたまる作品が数多くあって、いい時間を過ごすことができました。
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広島県立美術館特別展「ひつじのショーン展」

2017年07月21日 | 展覧会
広島県立美術館特別展「ひつじのショーン展」
会期:7月15日(土)~8月27日(日)

夏休みは絵本、サブカル、子供受け。
今年の県立美術館の夏は「ひつじのショーン」展。
ひっそりと「ウォレスとグルミット チーズ・ホリデー」を観ていた頃とは隔世の感があるなあ。

美術館には朝一で行ったが、会場は早くも幼稚園児や小学生で賑わっている。そんな中、ウォレスとグルミットのテーマ曲を口ずさみ、しきりにウォレスの「チーズ」の振り付けをしてしまうヤバいオッサン。

展示の方は基本、デザイン画や絵コンテ類と実物の撮影セットとの組み合わせ。
撮影セットは畳半畳から一畳程度もあり、予想より大きい。逆にキャラクターの撮影用モデルは予想より小ぶり。
撮影用モデルの常として、見えるところは凝っていて、見えないところは継ぎ接ぎでもOK。映画セットを見ているようで楽しい。

絵コンテ類やスケッチはすでに完成されきっていて、創作のプロセスの醍醐味はあまり感じられない。あと図版類は展示場所が少々高いのが難。おこちゃまたちが見にくそう。

各キャラクターの撮影用モデルも多数展示されているが、当然のことながら、作り込みは細かくない。撮影用モデルの製作風景も上映されており、簡単に粘土をこねてあっという間に作っていく。いとも簡単げに作っているが、シンプルなデザインだけに、わずかなフォルムの違いで全然別のラインに見えてしまうから、そこに熟練の技が感じられる。

撮影過程も上映され、今も非常に手間暇がかかることが見て取れるが、とはいえデジタル時代。撮影した画面をすぐに確認し、取り直しもできる点は、アナログな確認と記憶に頼っていたレイ・ハリーハウゼン時代とは、やはり違う。

1日6秒間しか撮影できないこともあり、撮影は20のスタジオで同時進行。こうなるとプロダクション・マネージャーが相当、経験豊富で、しっかりしていないと、進行管理に大変なことは想像に難くない。
こうなると美術というより、商業製品。

後半にはウォレスとグルミットも登場。大好きな「ペンギンに気をつけろ」の列車チェイスが上映されているが、何度見ても笑えるし、驚嘆するなあ。(「ミッション・インポッシブル」の第1作は「ペンギンに気をつけろ」にインスパイアされたというのが、自説。)

おこちゃまだちで賑やかな美術館も別の趣があって楽しいし、この子たちが美術館や博物館になじんでくれたらと思う。

さて、本展覧会で残念だったこと2つ。
まず、併催イベントとして子供向けのワークショップがないこと。クレイアニメーションなのだから、ぜひともストップモーションアニメを実践できるワークショップをやってほしかった。

その2だが、アードマンのアニメを最初に広島に紹介したのは「広島アニメーションフェスティバル」だったと思う。さらに初期の「ウォレスとグルミット」シリーズは当時の広島ステーションシネマが上映し、人口に膾炙する一役を担ってきた。こういった活動があって今のショーン人気があると思うのだが、そういったことは一切触れられていない。パッケージ化された展覧会とは言え、その辺は広島として少しこだわって欲しかったな。
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広島県立美術館特別展 英国ウェールズ国立美術館所蔵 ターナーからモネへ

2017年04月13日 | 展覧会
広島県立美術館特別展 英国ウェールズ国立美術館所蔵 ターナーからモネへ

英国ウェールズ国立美術館所蔵の作品をロマン主義からポスト印象派とその後までの5期に分けて展示。作家数が多く、作品的にも小品が多いので、展覧会としては幕の内弁当感覚。説明も細かくカタログ的な展覧会だ。

タイトルにもあるようターナーの作品がメインのひとつで、今、帆船がマイブームのワタシはターナーの描く帆船に期待したのだが、桟橋などの景色が多く、肝心の帆船にはあまりお目にかかれなかった。

基本、風景画が多く、眺めていると穏やかな気分になることができる。同じ欧州にあっても英仏の景色の微妙な差異が見て取れる。その一方で肖像画など広島ではあまりお目にかかれない作品があるのも楽しい。

展示作品中、「ノルマンデイーの農場」は作家名が「イギリス派」とされているのだが、額縁には作家名らしき「Bonnington」のプレートが。なぜだろうか?

本展で一番気になったのは「別離」。

【ジェームズ・ティソ 「別離」】
今回のキービジュアル作品の1つで、ポストカードやクリアフォルダーまで作られている。(使い道が思いつかない・・・)
男性の制服や背景にボートが描かれていることから、男性がロイヤル・マリーン(イギリス海兵隊)だと分かる。おそらく、フリゲート艦あたりに乗って、数年間の航海に出るのだろう。
だが、栄光あるマリーンズなら、「もっとシャキっとせえ!」と言いたい。(笑)
ネガティブな雰囲気を漂わせるこの作品が描かれた意図や経緯などぜひ知りたいものだ。

大作や印象的な作品は少なく、残念ながら観客も少なかったが、のんびりと楽しめる。時期的に縮景園の桜も見頃で、春らしい気分になれました。


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名古屋ボストン美術館「吉田博 木版画展」

2017年02月24日 | 展覧会
「名古屋ボストン美術館 吉田博 木版画展」



マカロニ大会が開催される名古屋市金山にある「名古屋市ボストン美術館」。大会時にはいつも近くを通りながら、なかなか立寄れない。
というのもマカロニ大会当日は自発的積極的に「酔いつぶれているガンマン」を演じているため、帰るので精一杯・・・。

という過去の反省を踏まえ、今年はマカロニ大会前に美術館に乗り込むことにした。

吉田博については、勉強不足で全然知らなかったのだが、版画は好きなのでそれだけで見る価値があるし、風景画という点も嬉しい。

いずれの作品も美しい色彩と構図で、とても戦前に製作された作品とは思えない。繊細なグラデーションなど版画と言われなければ、水彩画と思ってしまうかも知れない。本物が素晴らしすぎるだけに、あえて図録を買うかどうか悩むところ。



グランドキャニオンや山あいを描いた作品も良いのだが、そんな中でも一番感動したのは、瀬戸内海集。
見慣れた光景なのに、版画で表現されるとまたこれまでにない風景に見える。丸刀の彫りで海面のきらめきを表現しているところなどは素晴らしいの一言。同じ版木でも摺り色を変えることで、瀬戸内海の一日の変化を表現した連作も見ていて楽しい。

心に触れるもう一つの要因が、描かれているのが帆掛け舟であること。「この世界の片隅に」そのままの時代、世界で、あの人たちが見ていた世界なんだなぁとも感動した。

再入館して瀬戸内海集だけ見なおした時に気付いたのだが、「光る海」など見事な構図だが、非常に視点が高い。マストの上か、海岸沿いの崖の上から描かないとこの構図にはならない。また、瀬戸内海なのに遠景には全然島影が見えない。描かれたのはいずこなのだろうかと、非常に興味を惹かれた。



国内の名所を描いた作品では、ほとんどの作品で人物も一緒に描かれている。「東海道五十三次」を見た時、必ず人物が描かれていることに「日本で最初の観光パンフレット」を意識したが、その精神が引き継がれているかののようで嬉しくなってしまった。

結局、図録はマカロニ大会の荷物の多さに負けてしまい、後日ネットで買うことにしたのだが・・・ううう、予想以上に高いぞお。

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展覧会 呉市立美術館特別展「くらしを彩るアール・ヌーヴォーの画家 アルフォンス・ミュシャ」

2016年12月20日 | 展覧会
呉市立美術館特別展「くらしを彩るアール・ヌーヴォーの画家 アルフォンス・ミュシャ」
会期:2016年12月11日〜2017年2月12日

アルフォンス・ミュシャ、ワタシも好きだが、人気があるので日本中で定期的に展覧会が開催されるのはありがたい。

今回は呉市立美術館での開催。

まずは定番のパリ時代の劇場ポスターや室内用絵画なのだが、正直、今回出展されている作品はあまり保存状態が良くない。
ミュシャの作品はリソグラフが多いので、世界各国にコレクションがあるのだが、もう少し発色が良い物を見てきたと思う。
それでも数々の代表作の現物を鑑賞できるのは喜びであり、ふくよかな女性のラインは時代を超えて、エロい。

次は珍しく装飾図案集を1コーナーかけて展示している。
繰り返しの図案など今ならコピペの連続で出来ちゃうから感動が薄れるのだが、当然、当時は全て手書き。繰り返された図案が全て微妙に違う。

今回、多く出展されているのが、書籍の挿絵や表紙といった印刷物関係。
時系列に整理されていないのが難だが、作風の変化が手に取るようにわかって面白い。
こういった作品はなかなかまとまった数で見ることができないが、中でもアメリカの雑誌の表紙の星条旗をまとう女性という珍しい図柄にもお目にかかれる。

同様に多くの作品が展示されているのが、ミュシャが手掛けたパッケージデザインなど。
見ているうちに微妙だったのが、どこまでがミュシャの作品かという定義付け。
例えば、現代においてミュシャの絵をあしらったトートバックなどは当然、ミュシャの作品とは言えないのだが、ミュシャが存命だった頃、パッケージデザインほかにどこまでミュシャが関わっていたのか不明な点も多いのではなかろうか。本人の承諾なく、デザインとして使われたものがあったとしても不思議ではないと思う。陶器のプレートやブロンズのレリーフなど、ミュシャの手による作品にしてはいささか粗いような気がしないでもない。
(どうでもいいことだけど、ミュシャの絵を看板に使っていた広島市内のラブホテル、オリエンタルもなくなってしまった。)

その一環として、ミュシャがデザインした切手や紙幣も展示されており、コレクターズアイテムとしての面白さも垣間見えたりするのだが、ミュシャがデザインした切手に紛れて1988年のミュシャがデザインされた切手を展示しているのは、やはり美術館として違うと思う。

後期の大作、スラブ叙事詩は写真での展示となっている。今度、国立新美術館で展示されるが、行けるかどうかは微妙。

それにしても、プラハに行きたいなあ・・・。
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広島県立美術館特別展「だまし絵の巨匠 エッシャー ー 不思議な版画の世界」

2016年11月21日 | 展覧会
「だまし絵の巨匠 エッシャー」
会場:広島県立美術館
会期:2016年11月11日(金)~12月25日(日)

小中学生のころ、必ず教科書にあったエッシャーの作品。

とにかく作品数が多いと聞いていた本展、入館した時間が遅めだったこともあって、前半は駆け足で見ないと間に合わない。

面白いのはやはり後半「独自の世界」と「無限への挑戦」のコーナー。単純に見ていて面白いというものあるのだが、数学や鉱物結晶に基づいた作風に理系的な興味もかき立てられる。「3つの球体」など天文系のドキュメンタリーでよく見る重力波のイメージ図そのもの。

一通り見ていると、「上昇と下降」や「ベルベデーレ」といった有名なリトグラフ作品より、板目木版や木口木版による平面充填の作品の方がしっくり来る。木版画が描く不均等な直線にあたたかみを感じるからかも知れない。

木彫の工芸作品は好きだし、ちょうど今、ウォールナット相手に彫刻刀で格闘していることもあって、作品の版木などは非常に興味を惹かれる。細かい作業にいくら見ていても飽きない。

細かい作業といえば、細部の表現に適した木口木版画の作品などは老眼殺し。
エッシャー70歳頃の作品である「《蛇》の部分の習作」には「50年間、細かい作業ができたこと」への感謝が記されていたが、確かに熟練の職人技であり、強い意思を感じる。

一方であのような作風をペン画ではなく、手間と労力のかかる木版画(プラス 作画用の緻密な計算)として表現するあたりに、作家としての狂気を感じずにはいられない。

今回一番気になった作品は「臨時アカデミーの卒業証書」。
1945年の作品で背景に黒煙が立ち上る戦時色の強い作品。ここに記されているアイントホーフェンは「マーケットガーデン」作戦の戦場でもあったところ。
同作戦が一大空挺作戦でもあったことを考えると、ふくろうの腹模様は飛来する飛行機の大群、足元の瓦礫は鉤十字を思わせた。

全体に「だまし絵」ではなく、「版画作家」エッシャーを認識した展覧会だった。

ところで、広島県立美術館の階段はちょっとベルデベールっぽい。いつまでも会場からでることができないミステリー・ゾーン。
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広島県立美術館特別展「東山魁夷展 ー自然と人、そして町」

2016年09月25日 | 展覧会
「東山魁夷展 ー自然と人、そして町」
会場:広島県立美術館
会期:2016年9月17日(土)~10月30日(日)



元々日本画の表現方法が得意でない上、「京都」とか「奉納」といった単語が苦手で食わず嫌いな私。東山魁夷展などに来て大丈夫なのだろうか。

結論から言えば、私のような初心者に東山魁夷の作品の良さがよく伝わる展覧会。
作品が時系列に展示され、構図、モチーフや技法の変遷がひと目でわかるようになっている。

山歩きをして田舎の風景を楽しむ身としては、「月宵」「木霊」「秋翳」「雪の後」などの作品は、原風景として心に沁み入るかのようだ。
いずれの作品も色使いが素晴らしいが、こういった作品の実物を絶えず目にしていると、審美眼も養われるのだろうな。(呉服屋の小僧が一流の反物しか扱わせてもらえなかった話を思い出した。)

いつも思うのだが、芸術作品において驚くような色使いを出す作家というのは、被写体が実際にその色に見えるのだろうか、それとも頭の中で構成して手で再現しているのだろうか、色彩のセンスが乏しい私には非常に興味深いところ。

風景画が多く、あまり深く考えることなく、作品がすんなりと頭に入ってくる。北欧を描いた「白夜」など静謐さや肌寒さまで伝わってきて、息を飲むかのようだが、切り取られたその一瞬を共有しているかのようで、満ち足りた贅沢さを感じた。

今回の展示会の目玉は「唐招提寺御影堂障壁画」だが、唐招提寺内部を模した展示方法を含め、圧巻の一言。青色の深さと色の幅広さがまぶたに焼き付けられる。おそらくここで見なかったら、一生目にできる機会は訪れないだろう。

唐招提寺は実家からほど近いところにあるのだが、ほとんど行っていなかったし(場所が近いというのはそうしたものです。)こういった作品があること自体知らなかった。それが平成の大修繕があって、広島の地で目にすることができたのは何か縁を感じる。

ただ会場の関係で、時系列で起承転結となっている展示構成が、広島県立美術館では起承結転になっており、後半の展示はかなり面積的に厳しく、美術館の苦労がしのばれる。もっと大きな展示スペースがあればとないものねだり。球場跡地に市内三美術館と映像文化ライブラリーが1つになった総合文化施設ができれば大歓迎なのだが。

今回一番気に入った作品は先の「白夜」と「窓」。
今回の展示作品の中で「窓」だけ保護ガラスやアクリルなど作品を遮るものがなく、作品の筆使いやタッチがリアルに見て取れる。
ヨーロッパの街角を切り取って持ってきたかのような立体感でありながら、一方で絵画の表現もなされている。ちょうど2次元の絵画と3次元の立体の中間のような感じ。表現方法のカタログのようで見ていて全く飽きない。

本展覧会を観覧したのは金曜日の18時30分から。人も少なく、ゆったりと観ることができたが、大作が多い本展覧会、人が少ない時間帯を狙った方が一層楽しめるだろうな。
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