絵画の修復にまつわる企画展が行われていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/65/8f/70b227579a040411452e9181548d2417.jpg)
帰省でばたばたしており、アップできなかったのですが
なかなか興味深い展示でしたので、簡単にですが覚書も兼ねてレポを……。
入ってすぐ、藤田嗣治の絵についての解説があり
目からうろこだったことが一つ。
ご存知の方も多いと思いますが、藤田の画業の終盤は
戦争画が多く、それも縦横数メートルに及ぶ大作ぞろいなのですが
解説によれば、そのように大きな絵は(当時の物資不足もあり)
複数枚のキャンバスをつなぎ合わせているそう。
そのため、修復の際にもその“継ぎ目”が見えないようにと
細心の注意が払われるとのことでした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1c/14/96743ebad5d66188c27c8287257bfa66.jpg)
こちらは、戦争画ではなく
藤田の義兄の遺贈品で、
修復の跡がまったくない、描いたままの原型をとどめている作品。
とても珍しいそうです。
藤田の代名詞ともいえる、白の独特のマット感は、
タルクを使っているというのは割と有名な話ですが、
それに加え、仕上げ用のワニス(保護材、つや出し)を使っていないことも
今回の展示で解説されていました。
修復の様子がよくわかる一枚はこちら。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/7f/2a5539f8dab96fd854d60d9b0f78c926.png)
安井曽太郎の作品ですが、ご覧のように
ひび割れたり色が落ちているところがきれいになっています。
それ以前に、保護材のワニスが長年経つと汚れてきてしまうそうで、
それをきれいに取り去るだけでもかなり、元の色が出てきてきれいに見えるそう。
修復の専門家のインタビュー動画も流れていたのですが
その話の中で印象に残ったのは、
「修復材は、“可逆性のあるもの”を使います」ということ。
将来的により優れた修復材、補修材が開発されたとき
問題なくそちらを使えるように、との配慮からだそうです。
この企画展でもっともインパクトを受け
考えさせられた作品は
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/42/f20b8108750f9c23b61c230b69b94fb1.jpg)
靉光(あいみつ)という洋画家の「自画像」。
戦争が激化した1943年、召集直前の表情。
凛としていますが、身に着けているシャツは汚れ傷んでいます。
さらに経年による画材やワニスの劣化で画面全体がくすんだ感じに
なっているのですが
修復の専門家は悩んだ末、表面のクリーニングのみにとどめたそう。
ワニスの除去もしませんでした。
困窮と苦悩の中にいながらも、誇りを持ち前を向く姿。
ワニスを除去しきれいにすると
その対比が薄まってしまう。
修復のプロであれば、修復できるものはしたい、と思うのが
普通でしょうけれど、
絵画のメッセージ性も考慮し、あえてそれをしない決断を下す
それもプロの、プロたるゆえんだなあと感心しました。
腕自慢、じゃだめなんですよね。どんな職業でも。
この広島出身の画家はこの後すぐ戦地に赴き、
日本に戻ることなく、戦後すぐの1946年、上海で亡くなり
作品の多くも、原爆投下により焼失したそうです。