神奈川絵美の「えみごのみ」

もてなしか、たくらみか

今週の初め、プレス発表会のため六本木へ向かった。

この日はまだ立春前。
草木染めの真綿紬に、同じく草木染めの博多八寸を合わせて。
帯締めも、この帯を買ったところ(小森工房)でいただいた
草木染めのもの。


私は、色が気に入れば自然のものでも化学のものでも構わない方だが、
草木染めで揃えれば一段と、まとまりが良くなるものだなあ、と実感。



先にサントリー美術館へ。
「宴のしつらい」というコンセプトで選ばれた所蔵品が展示されている
(3/14まで)。
皿や杯、香炉、茶碗など「おもてなし」に使われた器や調度品を眺めながら
(どんな人が、どんな場面で使っていたのかな)わくわくと
想像力をふくらませる。
江戸時代のものが多かったが、さらに遡って桃山時代の美濃焼などもあり、
古臭さを感じさせない深みのある色や斬新なデザインに
「やっぱり和の文化ってモダンなんだ」という思いを募らせる。


さて、展示品の中には、おもてなしにまつわる絵巻や屏風などもあり、
その中のいくつかが私の心をとらえた。
例えば、「人間の姫をさらった猿たちが、その姫をなぐさめようと宴を開く」
というテーマの絵巻がある。
物悲しげに顔を伏せる姫と、その近くに王様?らしき猿。
手前には何匹もの猿が、煮炊きをしたり、包丁を使ったり。
「木の実の皮をむくのは慣れているが、魚を扱うのは初めてだ」とか
「鍋のそばにいたら熱くて、顔が赤くなってしまった」というような文言が
書きこまれている。
何とかして姫のご機嫌をとり、丸くおさめようとする猿たちのたくらみが
滑稽に描かれているのだ。

もう一つ、「鬼退治のため、鬼の国に行った勇者が、接待を受ける」
というテーマの絵巻も印象に残った。
そこでは、鬼と人間とが一見和やかに杯を酌み交わしながら、
鬼は隙あらば人間を喰ってしまおうと様子を伺い、
人間は鬼をやっつけるタイミングを見計らっている、という
たくらみが渦巻いている。


「おもてなし」という非常に雅な行為の裏にある
実に泥くさい心模様。
たくらみか、もくろみか。
そんな視点で観てみるのも、また面白い。



観賞の後は、平田牧場直営のレストランでロースカツのランチ。



東京ミッドタウンを出て、徒歩で六本木ヒルズへ向かった。
ゴディバの大きな広告が目を引く。
そういえば、もうすぐバレンタインデー。

日本中を、数えきれないほどのたくらみが駆け巡る日だ。

コメント一覧

神奈川絵美
最愛チャンミンさんへ★
こんにちは 

>お茶が(茶道が確立される前)
おお、まさにその当時の絵巻もありましたよ。茶道が確立される前の、茶の湯の様子がわかる貴重な資料との解説付きで・・・。
その絵巻に描かれていたのは、武士ではなく僧侶だったようでしたが(記憶が曖昧です。スミマセン)。

この着物は、実は産地のはっきりしない紬なんです。信州であることは確かのようですので、郡上にも雰囲気が似ていますよね。

最愛チャンミン
こんばんは。
ほっこりとした郡上紬、とてもお似合いですね私もいつか郡上紬を、と思うのですが、似合うものに出会えなくて・・・。

熊本ではなかなか数を当たれません。東京に行きたいなぁと思うときもあります。

絵美様の視点、いつも面白いです。お茶が(茶道が確立される前)もともとは武家の、それも戦国大名の間で非常に流行り、合戦をする相手同士が戦の前にともに茶を愉しんだ、という話を思い出しました。古今東西、それが日本らしい知恵なのかも知れませんね。
神奈川絵美
コメントありがとうございます
こんにちは! 鳥獣戯画、お好きなんですね~。何だか人間だと生々しすぎるような場面でも、動物たちだと洒落て見える、というのもあるかも知れませんね。

>おもてなし展とバレンタインの「たくらみ」
たまたま、撮った写真を眺めていたら思いついた、という感じで・・・。
結構、ダブルミーニングや(過去の記事でも、「プレイ」に「Play」と「Pray」両方の意味を持たせるとか、「死角」と「刺客」をかけるとか)、一つの主題でまとめるのは好きなんです。あくまで遊びの範囲ですが・・・。
神奈川絵美
はつきさんへ♪
こんにちは 純粋に、美しさを堪能してもよし、歴史的背景に思いを馳せてもよし、と、なかなか見応えのある展示だと思います
確か2月中旬に入れ替えがあって、それ以降は雛祭り関係の展示品も観られると思います。

美術館・・・そうですね、確かに東京は多いかも知れませんね。近年は、超高齢化を背景に、平日でも来館者が多くなってきたような気がします。
神奈川絵美
むだかびさんへ☆
こんにちは 何だか最近は、女性同士で贈り合う「友チョコ」も流行っているそうですね。こんな記事書いておいてなんですが、まあ、あまり下心なく、ピュアな気持ちで過ごしてもらいたいものです

着物デート、いいですよねー。夏の花火大会だけではなく、通年トレンドになるといいですよね
おはようございます
絵巻物の面白さは格別ですね。
私の鳥獣戯画好きも、洒脱なストーリー性のある世界に、ワクワクしてしまうからなのでしょう。

それにしても絵美さんの文章は、30代~40代向けの女性雑誌の記事を読んでいるようです。

おもてなし展とバレンタインの「たくらみ」を結び付けるあたり、感心して唸っちゃいました
はつき(ようこ改め)
ちょうど見たかった展示会でした
http://blog.goo.ne.jp/asochan0930
いつも楽しみに拝見しています。
「見たいなー」と思っていた展示のレポートをしていただけて、ありがとうございます!最近、お茶を始め、「おもてなし」ということを改めて考えることが多く、サントリー美術館のこの展示会は非常に気になっていました。こちらを拝見して、ますます行きたくなりました。

東京は、他国に比べても美術館が多いのですか。ちょっと意外でした。
個人的には見たい企画が多すぎて、勤め人としてはなかなか回りきれないという贅沢な悩みを日頃感じております。とすると、やっぱり多いといえるのでしょうね。
むだかび
甘~いたくらみ!
今はどこへ行ってもバレンタインのチョコレートがあふれていますね。バラエティー豊かなチョコの数々に、女の子の気持ちがのせられ、意中の男性の元へ行くんだなぁ~!と思うとその一つひとつのドラマを追って応援したくなります。甘いたくらみが成功したら、次のたくらみは「着物デート!」なんていうのも良いですね!男と女の駆け引きはエンドレスかな?
神奈川絵美
りらさんへ★
こんにちは 早速のコメントありがとうございます。

確かに東京って何をするにもことかかないし、文化施設も飲食店もショッピング施設もそろっているしで、外国の方にも好印象なんでしょうね。私はどうにも、副都心線などの近年できた地下鉄のあまりの深さに、恐怖を覚えることがままありますが…

「宴のしつらい」展、作品そのものの良さはもちろんですが、こうしたストーリー性のあるものはまた格別、面白かったです。

帯締めは、帯に合わせてお店が選んだだけあって、ベストマッチだと思っています。この日は着物とも上手く合いましたね
りら
東京の魅力
先日、CNNのサイトで「東京が世界一魅力的な理由」というのが発表されたそうですが、美術館の多さ、多様さ、質の高さというのはいつも感じます。

「おもてなし」というのは日本の重要な文化の根底だと思いますが、取り上げられた二つの例の、軽妙洒脱でいながら奥深い皮肉のなんと面白いことか!見てみたいです!

着物と帯の色が帯締めの赤にぎゅっと凝縮されたような、上手い差し色ですねぇ。
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