神奈川絵美の「えみごのみ」

墨の調べ、書の響き - 出光美術館にて -

中国地方の豪雨に、心を痛めています。
被害に遭われた地域の方々に心よりお見舞い申し上げます。


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夏に見る墨の色は、冷たい。



小筆の独習、相変わらずちまちま、続けています……。
こちらは王羲之「蘭亭序」の訳文の一部。

今年初めに、国立博物館での王羲之展へご一緒した
イラストレーターの岡田知子さんが、
この夏にまた、別の書展(「和様の書」)へ出かけ、
「よかったわよー」 とのことで

「ああ、私もまた、書を観に行きたいな、
   でも、上野は遠いなあ」と迷っていたところ、


上野よりは(うちからは)やや近い日比谷で、
こんな展示が開催中なのを知り、さっそく出かけてみることに。


この日のコーデは……

“夏の真打ち”と呼んでいる一揃い。
これを着ないと、盛夏がきたという気がしない。
レモン色に後染めした、蚊絣の能登上布に、
澤田麻衣子さんの水族館帯だ。



出光美術館で8月18日(日)まで開催のこの展示は、
平安から現代までの文人の書を、その造形美を中心に俯瞰するもの。
(桃山~江戸の作品が多かったです)
しょせん、小筆は独学の私、あまり字を読むことには熱心でなく
料紙と一体化し一つの風景を成す毛筆の、流麗な美しさ、繊細さを
絵画的に愛でることを楽しんでいる。

書道家の、伝統とルールに則った書とは違い
文人のそれは遊びがあったり、エモーショナルな一面があって面白い。
ときに水墨画とセットになっていたり、ときに抽象化され謎解きのように
なっていたり。

さらに、一言で文人の書といっても、
(当然ながら)時代が下るにつれスタイルに変化が見られる。
平安や桃山時代は上の写真のように柔らかく優美な筆遣いだが
江戸以降になると筆や墨の濃さもさまざまで、
“アバンギャルド”な試みも少なくない。

個人的には、あまりこなれた江戸時代のものは
洒脱すぎて、狙い過ぎているように見えて…どうなのかな。
展示順でいえば一番最初の、平安~桃山時代の方が
慎ましやかで、品の良さも感じられて、今の私には好ましく思えた。

ただ、どの時代であれ、
彩を持たないはずの墨が、視覚的に華やかさや、色気のようなものを
こんなにも発するのか、と感心。
毛筆の持つ表現力について、改めて考えさせられた。
パソコンでの作稿が常となってしまった身に、
毛筆の筆跡は、何かをつきつけるかのように、響くのだ。



書だけではなく、文人に因んだ工芸も10点ほど展示。
こちらは尾形乾山の獅子香炉(江戸時代)。

私にはあまり知識はないので、ご興味のある方は
出光美術館のこちらのページで展示概要をご参照ください。
なお、国立博物館で開催中の「和様の書」についてはコチラをご参照ください。

コメント一覧

神奈川絵美
とうこさんへ
こんにちは
雨…降ってほしいところには全然、みたいですよね。
群馬の利根川水系も今、危ないらしいです。
東北の助け合い、心あたたまりますね。

字…ほめてくださってありがとうございます
もうちょっと漢字と仮名の大きさにメリハリがつくと、
上手に「見える」のですが…(そうそう上達は見込めないので、ぱっと見の印象で勝負?したいと思います
とうこ
http://ameblo.jp/toukolilas/
こんばんは。
墨の色って心落ち着きますね。
絵美さん、字、美しいです!!いいな。
レモン上布、待ってました。そして、私の好きな水族館帯・・・嬉しい組み合わせです。
こちらも、先週は断水でてんてこ舞いでしたが、どうにか復旧。その時に先の震災地の方々が「今度は・・・」と給水車を出してくださいました。助け合いに感謝です。中国地方の被害地域の早い復旧を祈ります。
神奈川絵美
はつきさんへ
こんにちは
そういえば、書の展覧会、多い気がします。
今、時間もお金もある世代は、書のたしなみがある人が多いということでしょうか・・・。
出光はこじんまりしているものの、きちんと見応えはありますし、疲れないのでいいです(笑)。
でも、国立博物館の方が、国宝の展示も充実しているし、たっぷりみられるのではと思います。

>人柄が文字や装丁に
そういうものかも知れませんね。
ちょっと前に話題に出した星新一氏も、かつてショートショートを書くコツみたいなのを訊かれたとき、
文章は人柄が出るものだから、小手先で繕っても無駄みたいな発言をしていました。
そうそう、書の展示、表装もキレイでした~
はつき
そういえば…
今年は、書の展覧会のブームですね。
行きたいと思ったまま、忙しさにかまけていくこと自体を忘れておりました(^^;)。思い出させてくださりありがとうございます!

若いころは、読めないこともあって書には全く興味がなかったのですが、最近、人柄が文字や装丁に表れていることに気づきにがぜん書に興味を持つようになりました。大人になるというのは、なかなか面白いものですね。
神奈川絵美
Tomokoさんへ
こんにちは
蘭亭序の訳文の件といい、今回の鑑賞につながる情報提供といい、Tomokoさんには本当に感謝しています
出光美術館、私も好きです~適度にこじんまりしているところや、アクセスの良いところが。雰囲気もいいですよね。

私など絵ゴコロはゼロだし、字も上達の兆しが見えないのですが、なんか、筆の字からは造形美が感じられて、最近好きになりました。墨のすっとする香り(まあ、原料臭は良いものではなく、香料に依るものと読んだことが)も心落ち着きますよね。
Tomoko
こんにちは。
お気に入りのお召し物で出光美術館(好きな美術館です)愉しんでこられたようで何よりです~。
学生のころは大の苦手だったお習字も、大人になって習ってみてはじめて知ることがいろいろです。
私は絵を描くせいか、漢字を仮名では筆先と腹の使い分けがまるで違っていたり、
書体た筆や紙によっても書き方が違ってきますので、そこを見るのがまた愉しかったりするのでした。
墨の香り、いいですよねえ~、私も大好きです。
神奈川絵美
straycatさんへ
こんにちは
そうでした、ご主人書のたしなみがおありになるんですよね。私などはただ書き散らしているだけですが、それでも結構、気分転換になって、好きな時間です。
拓本ですか! 王羲之展のとき、たくさん観ました。私は字のことはよくわかりませんが、彫りの妙を感じます。

>無地よりも奥行きがあって
ありがとうございます
最初は、せっかくのレモン色が(黒で)にじんで見えるかなーと気になりましたが、無地には無地の良さがあるように、絣もそれなりに良さが引き立っていていいかなー。
straycat
絵美さま♪

私も最近、書って良いなぁと思っています。墨の匂いって心が落ち着くんですよね。うちは夫が少々たしなみますが、書くことが気分転換になるようで、集中して書いているのを見るとちょっと羨ましく思ったりします。
私は石碑の拓本が好き、唐代の拓本などは端正で惚れ惚れしちゃいます。

絵美さんの能登上布は蚊絣なんですね。無地よりも奥行きがあって素敵。水族館帯ともフェミニンな雰囲気が響きあって、とても好相性だと思います。

神奈川絵美
風子さんへ
こんにちは
こっちの方は実はそんなに暑くなくて、この日も
30℃くらいだったかなあ。何だか梅雨みたいで
日差しも少なく…。でも間もなくまた猛暑が戻ってくると
思います。

墨の濃淡って幻想的でもあるし、
字がよく読めない分(スミマセン)、
いろんなものに見えてきたりします。
何より夏には涼も呼ぶようで、いいものですよね。
風子
こんんちは♪

「夏の真打ち」!
まさに盛夏の装いですね~、とってもきれいです。
このところ あまりの暑さ(35℃とか36℃とか)にひるんで
きものが着られていないのですが、絵美さんに見習って
着なくては、とこちらを拝見して思うのでありました。

水茎の跡 って おっしゃるように 墨一色でいろんな
ものを感じますね。
字だけで 一服の絵になるってすごいことだなあと
思います。
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