多くの美術館がそうであるように
国立近代美術館でも、特別展のチケットで常設展を観ることができます。
今回、鏑木清方展の入場まで2時間半も待ち時間があった私ですが
何しろ収蔵品が13000点もある同美術館。何度訪れても
その都度新しい発見があり、結局、待ち時間をほぼフルに使っても
見きれませんでした。
(もっとも、広すぎて途中、休憩を入れたせいでもあるのですが)
特に印象に残った作品を、ざっと紹介しますね。
まずは、ピエール・ボナールの新収蔵品。
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「プロヴァンス風景」。
そしてこちらが、梅原龍三郎。
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(ピントが甘くてすみません)
直接ボナールの影響を受けたわけではありませんが
強めの色彩やタッチなど、共通点が見つかります。
そして
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長谷川利行。
パリ…ではなく、「新宿風景」というタイトルがついています。
さらに
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佐伯祐三。ここまでくると、ボナールというよりは
ユトリロっぽいですよね。
こちらは…
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関根正二。大正時代の画家です。
一目見て、ゴッホの影響を受けていることがわかります。
中央がご本人だそう。
明治時代に伝わってきた洋画は、写実的な描写が
メインだったものの、大正時代に入ると
「うまいことより切実な心情があらわされていることを重視する風潮が
生じていました」(説明より)そう。
このころ、若い画家たちは、
外光を取り入れたキレイな印象派には魅力を感じず、
ゴッホに傾倒していったとのことでした。
しかし、生の絵を観たことがなく、モノクロの複製図版だけを観て
ゴッホの画風をものにしようとしたそうです。
それ自体が、切実な心情であり、パッションですよね。
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萬鉄五郎。ゴッホの色彩を取り入れようと努力した跡が
よくわかります。
こちらはどうでしょう?
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古賀春江。
近代美術が好きな方ならすぐピンとくると思いますが、
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パウル・クレー。こちらの影響を受けた画家のひとりです。
私がもっとも心惹かれた画家を、最後に紹介します。
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松本竣介。
少年時代に病気で聴力を失い、兵役にはつけず
終戦後ほどなくして、結核で30代にて亡くなってしまった画家。
経歴を見ると、なかなか恵まれた家庭で育ったようですが
反骨精神も旺盛で、戦時下の美術統制を批判していたよう。
この人のお兄さんと、私の出身大学が同じであることと、
晩年近くなって、ドイツの風刺画家ゲオルゲ・グロッスに傾倒していた
ということで、とても親近感を持ちました。
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なるほど、画風が似ているといえば、似ています。
(まあでもグロッスの方がもっと、カリカチュア的で
アバンギャルド)
前にも書きましたが、私は大学時代
芸大の故 若桑みどり教授の講義を受け、
その中でゲオルゲ・グロッスを知り、
彼のゆかりの地であるシュトゥットガルトを旅した際
ドイツ語の伝記や資料などを買い求めたことがあるのです。
80年代後半当時、グロッスのことはほとんど、日本には知られていませんでした。
同時代を生きて、ともに戦争に対しなにがしかのレジスタンスを
アートで試みた二人。
今のように、ネットで即時に地球の裏側の情報まで伝わる時代でなくても
世界はつながっているんだなあ…
いわんや、今は。
つながっていることが、当たり前に感じられるようになると
却って人は、身動きがとれなくなるものなのかも知れません。