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夜の国立能楽堂……。
お能を観るのは、何年振りだろう。
思い出せないほど、時が経ってしまっていた。
この日、着ていったのは……
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千總のカジュアルブランド(今はもうないかも知れません。
確かStudio 0001という名称だったような)の、通称「ヘタウマ菊小紋」。
花の大きさが、私の顔くらいある
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お能を観に行くには、派手かなあと躊躇したが、
この着物も2年後くらいには、断捨リスト入りしそうな気がして。
(以前も書きましたが、ドラマ「華麗なる一族」で原田美枝子さんが
着ていた着物と同じ。……というのを言い訳に、まだもう少し、着たいとは思っていますが)
帯はシンプルめに、日本刺繍の入った塩瀬の名古屋で。
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観世流の一派、梅若家の梅若玄祥さんが中心となり毎年開催されている「至高の華」。
演目は
野村萬斎、万作親子の狂言「清水座頭」と
能「安宅(あたか)」の二つだが、
最初に梅若さんと司会の方で、「安宅」についてのトークが20分ほどあり、
これがなかなか面白かった。
かいつまんでご紹介すると
「安宅」の初演は明治9年。それまで能といえば美しい女(役)が登場し、
幽玄な物語が繰り広げられる演目が流行っていた中で、
男がたくさん登場し、面をつけず、現在能(時間の流れに沿って進行する能)である
この演目は異色だったそう。
それをメジャーにしたのが梅若さんの祖父の兄、初世 梅若万三郎。
とにかく声が大きくて、迫力があって
「万三郎の安宅は、客を呼べる」と大人気。
それまで「安宅」は比較的静かな演目だったが、万三郎の登場で
うるさくなった-と梅若さん。
また、昔は9人の山伏が、例の勧進帳を連吟していたそうだが、
これも万三郎のころから弁慶の独吟に。
「歌舞伎だと、弁慶が(とっさの機転で)白紙の巻物を勧進帳のように読み上げ
…という解釈になっていますが、
能では、白紙ではなく予め、偽物を用意していて、山伏全員がそらんじていた
…という解釈もできるんです」(梅若さん)
※お話では、確固たる根拠には乏しいようなニュアンスでした。
こういうトークが事前にあると、作品への愛着も深まるし、
能そのものへの興味もより強まるし、特にビギナーにはありがたいなあと思った。
そして演目の方は……
まず、亀井広忠さんの大鼓を何年かぶりに聴けて感激!
私の席からは真正面に観られて、凛々しいお姿と張りのある声とともに
うっとり、堪能させていただきました
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「清水座頭」では、野村萬斎・万作さんそれぞれ演じる
盲目の人の「杖」の音が、それぞれまったく違っていてびっくり。
作品自体は、わかりやすいしクスリと笑える場面もあるのだが、
あまり軽妙というものではなく、淡々としていた。
そして「安宅」では、
何しろ山伏だけで9人、プラス強力(万作さん)、義経(子役)、
弁慶、富樫、太刀持ち…と
もちろん地謡、笛、小鼓、大鼓、後見もいて、
能舞台が埋め尽くされるほどの出演者。
山伏と富樫・太刀持ちがにらみ合い、一触即発の場面など
とても迫力があった。
梅若さんの舞も荘厳で、歌舞伎とは違うなあと実感。
でももっとも印象的だったのは、最後の最後で、
弁慶が橋がかりから客席の方を、遠い目で見る場面。
これからくる悲劇をすでに予感しているような寂しさが垣間見えて、
何だかうるっときてしまいました。
感想は手短な覚書レベルですみません。