着て行ったのは……
スーツ着物に、今秋初の椿帯。
病院なので、悪目立ちしないよう
帯締めも地味にして、色数を抑えたコーデに。
お太鼓はこんな感じ。衣紋もぐっと詰めて。
今までに取材でお会いしてきた
何百人もの医師の、大多数は“一期一会”。
つまり、圧倒的に初対面であることが多い。
この日もそうだった。
そんなシチュエーションには、慣れているはずなのに、
道中ずっと、ドキドキがおさまらない。
初めての駅、初めての場所、
バス乗り場はわかるだろうか、
時間に、間に合うだろうか、
そんなことから気になってしまう。
でも(案の定)土地勘がなくて
駆けこんだ駅近くの交番では
自分の年齢ならこの位の年頃の子がいてもおかしくないなと思う
20代前半とおぼしき溌剌とした警官が、
丁寧に道案内をしてくれて、去り際に「お気をつけて」と。
そのすぐ後、わずかに降り出した雨に構わず
信号待ちをしていたら、
黙ってさっと、傘を差しむけてくださったご婦人が。
「す、すみません、どうぞお構いなく」
「いえいえ、(信号待ちの)ちょっとの時間だから」
-お着物だから、ね。-と微笑んだ顔の何と優しいこと。
出発ぎりぎりで、バスに乗ることができ、
問題なく、病院に着いた。
約束の時間まで、院内のカフェで一息。
心に余裕がないときの私は、
困ったときに必ず誰かが手を差し伸べてくれることを、忘れている。
こちらが何も言わなくても、助けてくれる人もいるというのに。
そんなことに気付いたら、
相変わらず緊張は続いているけれど、
一人だけで生きているわけではないという思いと、
親切にしてくれた方への感謝で、
胸の奥が温かくなり、
口元がふっとゆるんだ。
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神奈川絵美
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