どこか遠くでフッチボル

鹿島サポだが裏の顔は日本代表サポ組織「食う軍」の司令。徒然なるままボソボソと。

旅。深夜の訪問者/3月30日

2004-09-05 | TROUBLE TRAVEL
深夜に一度目が覚めた。
いや、覚めたと言うより、覚めさせられたと言うのが正解だろう。

深い眠りについていたが、テントを照らす強烈な明かりに気が着いたのだ。
時計を見ると深夜の2時半。
訳がわからず次の事態を待ち構えていると、バタンと言うドアを閉める音。
気が着かなかったが、車でテントを照らされているようだった。

ジャリ・・・ジャリ・・・ゆっくりと誰かが近づいてくる。

幽霊も怖いが、夜中に山の中で人と会うのも相当怖い。
何か用がなければ通らないような峠道だったからだ。

息を押し殺して待ち構えていると、足音が数メートル先で止まった。
数分にも感じる沈黙があった。

怖さから、やけくその反応をとってみる事にした。

「ウォッホン!ゴホゴホ」

唐突に咳払いをしてみた。
すると・・・

“うぉっ”

相手が小さな悲鳴を上げた。

ジャリジャリと車に戻る足音。
車は急いで車道に戻り、走り去っていった。

ホッ・・・。
本当に焦った。
なんだったんだろう。

待てよ。

夜中に峠道を走っていたら、変な場所に変なものが置いてある。
(テントだが、穴倉テントの為、恐らくそうは見えなかったろう)
思い切って車から降りて何があるのか確かめようとした。
ゆっくり近づいてみる・・・。
何だこれ・・・何かのシート・・・何かを包んでいるのか・・・
ソーーーーッ・・・・
突然、その物体から
“ウォッホン!”

驚いたろうなぁ。
悪い事しちゃったと思いながら、笑いをこらえるのが大変だった。
深夜の山中に静かに響く忍び笑い。
誰かが聞いていたら相当怖かったろうな。

再び眠りに着いたが、日の出の時間が過ぎ、周りが明るくなった頃にははっきり目が覚めた。
小用でテントの外に出てみる。

おっ!?

夜にテントを張ったので気が着かなかったが、直ぐ横に冷蔵庫などの不法投棄ゴミが捨ててある。
それも相当の量。
その横に俺のテントとバイク。
昨夜の訪問者も不法投棄でもしに来たのかな?
なんにせよ、変な場所に張ってしまったものだ。

持参していたラジオで天気予報を聞いてみる。
今日も紀伊半島は午後から雨と言っている。
2日連続の寝場所難民で疲れ果てた。
3日ぶりの風呂にも入りたいし、まともな物を食べたい。
思い切って、今夜は旅館にでも泊まってしまおう。

旅館と決めたら、心が楽になった。
安心して眠れる場所・・・家にいると何も思わないけど、それって本当に生活の基本なんだな。
頭の中は、今夜の風呂で満たされてしまった。

地図で現在地を確認してみる。
恐らく三重県の南島と言う辺りだ。

雨が降り出す前に、行けるところまで行ってしまおう。
昨日借りたストーブで米を炊き、早々に胃に押し込んで出発した。
峠はほんの数分走るだけで降りる事が出来た。
そこは小さな漁港で、海辺にはテントを張れる場所がゴロゴロみつかった。
“もうちょっと走っていれば、ここにテント張れたのに”
ちょっとした事で簡単に落ち込む。
昨日の自分を怒ってやりたい心境だった。

電話ボックスで旅館を探してみる。
国の経営だと安いなと思い、和歌山の国民休暇村、同じく淡路島と電話で聞くが、どちらも満員と言う事で断られた。
近くに旅館がありそうな場所を探す。

地図を眺めてみる。
和歌山の新宮から山に入った辺りに“湯峰温泉”と言う文字を発見。
どうせなら温泉だっ。
旅館の予定はグレードアップして温泉と変わった。

海岸線を沿うように南下を始める。
昨日紀伊半島に入り、四日市、津を過ぎた辺りから、景色は激変している。
車の数が減り、山がちな景色が目を楽しませてくれる。
走り出してみると、薄曇りの天気に合う、静かな小さな町をいくつも通り過ぎた。

尾鷲~新宮と走ると、湯峰温泉への分岐点に到着。
海辺から山へと気持ちもスイッチした。

山道へ入ったとは言え、右手に大きな川があり、道幅も広く景色も最高。
本当に気分が高揚した。
誰もいない道を走っていると、全てが自分の為に用意されたものだと思えてくるから不思議だ。
走りながら、思い切り叫んだ。

“ワーーーーーーーーァァァァァッ!”

道が狭くなり、温泉が近いと感じてきた。
こんな山の中に温泉が本当にあるの?
そう思い始めた昼過ぎ、湯峰温泉に到着した。

華やかな温泉街を想像していたが、宿も10数件しかない小さな温泉だ。
左手の温泉街を流れる小さな川からは湯煙が上がっている。
本当に静かな温泉で、聞こえてくるのは川の音しかない。

一件目で断られたが、二件目に聞いた宿は空いていると言う事。
ライダーをやっていて、ナリの汚さから宿泊を断られるのは慣れている。
ろくに着替えもしていない俺を泊めてくれる宿に感謝した。

通された部屋は二階の和室。
表て通りに面しているので、窓を開けると温泉街を一望できた。

温泉は小ぶりながら情緒がある岩風呂。
湯量が豊富な温泉だそうで、源泉の温度も高い。
体を洗い、頭を洗うと人間に戻った気がする。
最高の気分で部屋に戻ると、ビールを片手に温泉街を見ながら一杯。
つまみは川の音だ。

その夜は川魚主体の料理を堪能。
一人日本酒をかたむけていると眠気は直ぐにやってくる。
何十日振りにも感じる布団の感触は、瞬く間に俺を明くる日に連れて行ってしまいました。

つづく・・・。

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 天気:曇り時々雨
 時間:8:00~12:30
 距離:144km
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