どこか遠くでフッチボル

鹿島サポだが裏の顔は日本代表サポ組織「食う軍」の司令。徒然なるままボソボソと。

旅。九州の寒さと共に南下する/4月2日

2004-09-12 | TROUBLE TRAVEL
朝は7時から食事だった。
大きな食堂で、一同に食事。
一人旅が多いらしく、会話もほとんど聞こえてこない。
大きな食堂で大勢の人達と静かに、そして黙々と食べる朝食。
監獄の朝食ってこんな感じかな・・・そんな気持ちがふと過ぎ去った。

一夜の宿を離れるべく、8時に外に出てみた。
初めての九州の朝は雨。そして、かなりの寒さだった。
雨具を着込み、白い滑りやすいコンクリートで出来た道をそろそろと下ると、そこは南へ下る国道だ。
温泉地別府だが、雨具を脱ぐのがわずらわしく感じ、結局温泉には入らないまま別府を後にした。

海を左手に見ながらバイクを走らせる。
黒い雲、常にパラパラと落ちてくる雨。
南国九州のイメージとはかけ離れた天気に、気持ちは沈む。
黒い海に打ち寄せる波。
体に当たる風は寒さを更に増している感じ。
昨日フェリーで同乗した方達から観光情報を貰っていたが、一路宮崎を目指すことにした。
南へ行けば暖かくなるかも・・・その一心で南下を早めたくなったのだ。

道は海沿い一本だ。
覆面パトカーの多さに驚く。
気持ちのいい道が続くが、スピードは抑え気味だ。

別府から出て直ぐ、交差点で並んだバイクとしばらく並走。
いつもの様に声を掛けると、向かう方面が同じ宮崎。
ホンダのVT250に乗る彼の排気音と、自分のバイクが奏でる排気音が心地よく感じる。
人通りが少ない国道は、またしても俺の物となった。

二人で昼食をとる事にした。
街道沿いの喫茶店。
注文をお願いすると、それぞれの旅情報の交換だ。
彼は藤崎さんと言った。
広島から来ていて、大学入試に失敗して家にいづらくて旅に出ていた。
境遇が似ていて、お互いに笑いあった。
今夜は野宿を予定していたが、この寒さに対応できるキャンプ道具ではないと判断。
再びユースに泊まる事にする。
その事をVTさんこと藤崎さんと話すと、彼もユースに泊まってみたいとの事。
わずか一泊分先輩の俺は、ユースって云々と、能書きまで言っていたりもする。

宮崎に入ると、少し暖かくなった。
雨具を脱ぐ為に休憩する。
ふと横を見ると電話ボックスがある。
家を出て何日目だろう・・・。
思い出しながら数えてみるとちょうど一週間。
一週間。
もっと長い時間旅をしている気がする。
まだ一週間なのか。
平日の今日なら、両親は家にいないだろう。

電話をしてみるか。

両親がいないと分かっていても、受話器を上げてお金を入れると喉が一気に渇いた。

短い呼び出し音の後に相手が受話器を上げた音がした。
応えた声は祖母のものだった。
“もしもし、俺だけど”
「どこにいるのっ!?」
場所と元気の旨を伝えると、祖母は電話口の向こうで泣いた。
帰って来いとは言われない。
祖母が言うのは、気をつけて旅をしろの一点。
泣きながら言う祖母の言葉を聞くと、こちらの胸も締め付けられた。
大丈夫だよ。大丈夫だよ。
それだけを繰り返し、短い電話は終わった。

暗い顔になっている自分を感じ、無理に明るい顔に戻す。
VTさんには見られたくないのだ。

夕方6時に目標の日南ユースに到着。
加入した方が良さそうとの判断もあり、ユース会員加入の手続きもする。
VTさんに、一泊だけの先輩の件がバレた。
二人で笑った。

日南ユースは暖かい雰囲気だった。
九州の最南端近くに位置するこのユースに泊まる人達は、旅人そろいだ。
バイク乗りをライダーと言うが、各旅人には愛称がある。
自転車乗りはチャリダー。
鉄道で旅するやつらはテッチャンと呼ばれた。

この夜泊まっていたのは10人前後。
部屋は4人部屋でこじんまりとしている。
おのずと全員あっと言う間に親しくなる。
ライダーは自分も含めて5人。
いずれも大学入試失敗組。
こうして見ると、このユースは哀愁を帯びて感じるから不思議。
みんなそれぞれのドロップアウト振りを笑いあった。
テッチャンは3人でこの日南ユースを目指して旅してきたとの事。
この夜12時を向かえると、国鉄からJRに会社名が変わる。
その瞬間を、本土最南端のこのユースで向かえる為に来たのだと言う。
変わってるなと笑ったら、あんな熱いエンジン抱えて走るライダーは信じられないと笑われた。
本当に楽しい夜となった。

旅人か・・・。
人生のドロップアウト組から、旅人に変わった。
この夜がそうなった。
心地よい一体感は、忘れられない感覚となるだろう。

つづく・・・。

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 天気:雨のち曇り
 時間:8:00~18:00
 距離:303km
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