朝は7時から食事だった。
大きな食堂で、一同に食事。
一人旅が多いらしく、会話もほとんど聞こえてこない。
大きな食堂で大勢の人達と静かに、そして黙々と食べる朝食。
監獄の朝食ってこんな感じかな・・・そんな気持ちがふと過ぎ去った。
一夜の宿を離れるべく、8時に外に出てみた。
初めての九州の朝は雨。そして、かなりの寒さだった。
雨具を着込み、白い滑りやすいコンクリートで出来た道をそろそろと下ると、そこは南へ下る国道だ。
温泉地別府だが、雨具を脱ぐのがわずらわしく感じ、結局温泉には入らないまま別府を後にした。
海を左手に見ながらバイクを走らせる。
黒い雲、常にパラパラと落ちてくる雨。
南国九州のイメージとはかけ離れた天気に、気持ちは沈む。
黒い海に打ち寄せる波。
体に当たる風は寒さを更に増している感じ。
昨日フェリーで同乗した方達から観光情報を貰っていたが、一路宮崎を目指すことにした。
南へ行けば暖かくなるかも・・・その一心で南下を早めたくなったのだ。
道は海沿い一本だ。
覆面パトカーの多さに驚く。
気持ちのいい道が続くが、スピードは抑え気味だ。
別府から出て直ぐ、交差点で並んだバイクとしばらく並走。
いつもの様に声を掛けると、向かう方面が同じ宮崎。
ホンダのVT250に乗る彼の排気音と、自分のバイクが奏でる排気音が心地よく感じる。
人通りが少ない国道は、またしても俺の物となった。
二人で昼食をとる事にした。
街道沿いの喫茶店。
注文をお願いすると、それぞれの旅情報の交換だ。
彼は藤崎さんと言った。
広島から来ていて、大学入試に失敗して家にいづらくて旅に出ていた。
境遇が似ていて、お互いに笑いあった。
今夜は野宿を予定していたが、この寒さに対応できるキャンプ道具ではないと判断。
再びユースに泊まる事にする。
その事をVTさんこと藤崎さんと話すと、彼もユースに泊まってみたいとの事。
わずか一泊分先輩の俺は、ユースって云々と、能書きまで言っていたりもする。
宮崎に入ると、少し暖かくなった。
雨具を脱ぐ為に休憩する。
ふと横を見ると電話ボックスがある。
家を出て何日目だろう・・・。
思い出しながら数えてみるとちょうど一週間。
一週間。
もっと長い時間旅をしている気がする。
まだ一週間なのか。
平日の今日なら、両親は家にいないだろう。
電話をしてみるか。
両親がいないと分かっていても、受話器を上げてお金を入れると喉が一気に渇いた。
短い呼び出し音の後に相手が受話器を上げた音がした。
応えた声は祖母のものだった。
“もしもし、俺だけど”
「どこにいるのっ!?」
場所と元気の旨を伝えると、祖母は電話口の向こうで泣いた。
帰って来いとは言われない。
祖母が言うのは、気をつけて旅をしろの一点。
泣きながら言う祖母の言葉を聞くと、こちらの胸も締め付けられた。
大丈夫だよ。大丈夫だよ。
それだけを繰り返し、短い電話は終わった。
暗い顔になっている自分を感じ、無理に明るい顔に戻す。
VTさんには見られたくないのだ。
夕方6時に目標の日南ユースに到着。
加入した方が良さそうとの判断もあり、ユース会員加入の手続きもする。
VTさんに、一泊だけの先輩の件がバレた。
二人で笑った。
日南ユースは暖かい雰囲気だった。
九州の最南端近くに位置するこのユースに泊まる人達は、旅人そろいだ。
バイク乗りをライダーと言うが、各旅人には愛称がある。
自転車乗りはチャリダー。
鉄道で旅するやつらはテッチャンと呼ばれた。
この夜泊まっていたのは10人前後。
部屋は4人部屋でこじんまりとしている。
おのずと全員あっと言う間に親しくなる。
ライダーは自分も含めて5人。
いずれも大学入試失敗組。
こうして見ると、このユースは哀愁を帯びて感じるから不思議。
みんなそれぞれのドロップアウト振りを笑いあった。
テッチャンは3人でこの日南ユースを目指して旅してきたとの事。
この夜12時を向かえると、国鉄からJRに会社名が変わる。
その瞬間を、本土最南端のこのユースで向かえる為に来たのだと言う。
変わってるなと笑ったら、あんな熱いエンジン抱えて走るライダーは信じられないと笑われた。
本当に楽しい夜となった。
旅人か・・・。
人生のドロップアウト組から、旅人に変わった。
この夜がそうなった。
心地よい一体感は、忘れられない感覚となるだろう。
つづく・・・。
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天気:雨のち曇り
時間:8:00~18:00
距離:303km
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大きな食堂で、一同に食事。
一人旅が多いらしく、会話もほとんど聞こえてこない。
大きな食堂で大勢の人達と静かに、そして黙々と食べる朝食。
監獄の朝食ってこんな感じかな・・・そんな気持ちがふと過ぎ去った。
一夜の宿を離れるべく、8時に外に出てみた。
初めての九州の朝は雨。そして、かなりの寒さだった。
雨具を着込み、白い滑りやすいコンクリートで出来た道をそろそろと下ると、そこは南へ下る国道だ。
温泉地別府だが、雨具を脱ぐのがわずらわしく感じ、結局温泉には入らないまま別府を後にした。
海を左手に見ながらバイクを走らせる。
黒い雲、常にパラパラと落ちてくる雨。
南国九州のイメージとはかけ離れた天気に、気持ちは沈む。
黒い海に打ち寄せる波。
体に当たる風は寒さを更に増している感じ。
昨日フェリーで同乗した方達から観光情報を貰っていたが、一路宮崎を目指すことにした。
南へ行けば暖かくなるかも・・・その一心で南下を早めたくなったのだ。
道は海沿い一本だ。
覆面パトカーの多さに驚く。
気持ちのいい道が続くが、スピードは抑え気味だ。
別府から出て直ぐ、交差点で並んだバイクとしばらく並走。
いつもの様に声を掛けると、向かう方面が同じ宮崎。
ホンダのVT250に乗る彼の排気音と、自分のバイクが奏でる排気音が心地よく感じる。
人通りが少ない国道は、またしても俺の物となった。
二人で昼食をとる事にした。
街道沿いの喫茶店。
注文をお願いすると、それぞれの旅情報の交換だ。
彼は藤崎さんと言った。
広島から来ていて、大学入試に失敗して家にいづらくて旅に出ていた。
境遇が似ていて、お互いに笑いあった。
今夜は野宿を予定していたが、この寒さに対応できるキャンプ道具ではないと判断。
再びユースに泊まる事にする。
その事をVTさんこと藤崎さんと話すと、彼もユースに泊まってみたいとの事。
わずか一泊分先輩の俺は、ユースって云々と、能書きまで言っていたりもする。
宮崎に入ると、少し暖かくなった。
雨具を脱ぐ為に休憩する。
ふと横を見ると電話ボックスがある。
家を出て何日目だろう・・・。
思い出しながら数えてみるとちょうど一週間。
一週間。
もっと長い時間旅をしている気がする。
まだ一週間なのか。
平日の今日なら、両親は家にいないだろう。
電話をしてみるか。
両親がいないと分かっていても、受話器を上げてお金を入れると喉が一気に渇いた。
短い呼び出し音の後に相手が受話器を上げた音がした。
応えた声は祖母のものだった。
“もしもし、俺だけど”
「どこにいるのっ!?」
場所と元気の旨を伝えると、祖母は電話口の向こうで泣いた。
帰って来いとは言われない。
祖母が言うのは、気をつけて旅をしろの一点。
泣きながら言う祖母の言葉を聞くと、こちらの胸も締め付けられた。
大丈夫だよ。大丈夫だよ。
それだけを繰り返し、短い電話は終わった。
暗い顔になっている自分を感じ、無理に明るい顔に戻す。
VTさんには見られたくないのだ。
夕方6時に目標の日南ユースに到着。
加入した方が良さそうとの判断もあり、ユース会員加入の手続きもする。
VTさんに、一泊だけの先輩の件がバレた。
二人で笑った。
日南ユースは暖かい雰囲気だった。
九州の最南端近くに位置するこのユースに泊まる人達は、旅人そろいだ。
バイク乗りをライダーと言うが、各旅人には愛称がある。
自転車乗りはチャリダー。
鉄道で旅するやつらはテッチャンと呼ばれた。
この夜泊まっていたのは10人前後。
部屋は4人部屋でこじんまりとしている。
おのずと全員あっと言う間に親しくなる。
ライダーは自分も含めて5人。
いずれも大学入試失敗組。
こうして見ると、このユースは哀愁を帯びて感じるから不思議。
みんなそれぞれのドロップアウト振りを笑いあった。
テッチャンは3人でこの日南ユースを目指して旅してきたとの事。
この夜12時を向かえると、国鉄からJRに会社名が変わる。
その瞬間を、本土最南端のこのユースで向かえる為に来たのだと言う。
変わってるなと笑ったら、あんな熱いエンジン抱えて走るライダーは信じられないと笑われた。
本当に楽しい夜となった。
旅人か・・・。
人生のドロップアウト組から、旅人に変わった。
この夜がそうなった。
心地よい一体感は、忘れられない感覚となるだろう。
つづく・・・。
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天気:雨のち曇り
時間:8:00~18:00
距離:303km
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