
昨日、『ジャーニー・ザット・マターズ/ティネカ・ポスマ』(55 Records)の本盤が届いたので改めて聴いたら改めて相当イイ、いや、猛烈にイイ。音楽的にどうイイかは『JazzLife』誌8月号のディスク・レヴューで書けたつもりなので、ここではさて音。こういうのが僕は大好きだ。ピアノのリヴァーブとシンバルの定位が左右にやや広いことにはじめは目がチカチカしたが、エッジの切れと下への沈み込みが深いアコベが、音像のしまりにけじめを付ける。ハイがキンキン来るキラキラ星のようなピアノも、ちょっとダーク・トーン寄りなティネカのサックスの芯をあぶり出す、遠赤外線ヒーターのような効果をあげている。ではと、試しにヘッドフォンでも聴いた。なぜなら、DAC1に対するネットの言説に「DAコンバーターの性能よりヘッドフォン・アンプの力の方が優れている」というのが多かったことと、BOSEのノイズ・キャンセリング・ヘッドフォンQuiet Comfort2を2年前に手に入れたきり、ろくなもてなしをしないままきたから。だから、ヘッドフォンの音にどうこう言える者ではないが、AU-α907XRとXA7ESのヘッドフォン・アウト三つを比べると、ソプラノ・サックスの高域に余裕が感じられるなど、いちばん繊細な再生音に思え、DAC1とBOSE、そして、ティネカ嬢の表現力を改めて見直した次第。ただ、密閉型ヘッドフォンの冬温かいのは結構だが、高湿な夏場はエアコンを効かせた部屋でもCD1枚聴くのが限界。そういえば昔、『FM fan』誌のディスク・レヴューに「ヘッドフォンでも聴いたらなお面白かった」みたいなことを書いたら、編集から「そのフレイズは削除して下さい」とどやされたことがある。ヘッドフォンを純オーディオ機とは見なさない、というのが向こうさんの言い分のようだったが、オーディオ頁にはよく出てきた記憶もなきにしもあらず。しかし、都内中央でよく見かける、ダブル・チーズバーガーみたいな耳当てかぶって一体何を聴くのかというヘッドフォン族、「暑くないの?」を通り越して脳軟化症にでもならなきゃいいがと、見るたびハラハラ汗が滲んできて困る。



ベンチマークDAC1が、DACプリとしてどこまで行けるか試してみたら、ウチのシステムではダメだった。いや、ダメでは言い過ぎで、パワー・アンプがオンキヨーのA-933程度だったせいか、ケーブル類が脆弱なのか、ローエンド機器ゆえか、帯域幅は変わらない感じなのに音像の直径が明らかに小さくなった。ではと奮起してトップボードはずしに慎重にリトライしたら、やった、開いた。まず、「何でも来い(デフォールト)」「光のみ」「同軸のみ」「XLRのみ」の4系統選べる入力ジャンパー・ピンを「同軸のみ」に固定し、次は同様に「0db」「-10db」「-20db(デフォールト)」「-30db」がチョイスできる「XLR Output Attenuation」のジャンパーを「-10db」に差し替え。酒を控えているにも係わらず、ルーペを持つ左手が震えたが、結果は大成功。ソニー技術部門トップ出の熟練エンジニアTさんの講釈が、ソニーXA7ES改内蔵DACと聴き比べることで身に染みて分かった。「ガラスで仕切られた向こう側の画像を、ゆがみを限りなく少なくした上で極めて精細に描き直している」との言が。ジッター1ppmをロジカルに謳う16bit&44.1kHzのD-Clock/DENTECと、アップ・サンプリング時にひとひねり加えることで24bit&192kHz対応にしたDAC1、なんか偉そうな口ぶりになってきたけど、ヤフオク送りをしばし考え直すことにした。というのも、DAC1の左右ステージ幅が狭くなることに目をつぶれば、両者の精細度の網目模様には甲乙つけがたいものがあったから。つまりカメラにたとえれば、DAC1はファインダーに映る景色だけを濃厚にタイトに映す一眼レフ、DENTECはフィルムにまで至らない周辺まで見せるライカM系のレンジ・ファインダー風、じゃないかと。LS3/5A間の内寸幅は82センチ。聴いた曲は『マイ・ルーム/チェーザレ・ピッコ』の1曲目。もう1枚の写真は円卓下の惨状。唯一の売りは、システムのフロント側にもリア側にもゆったり空きがあること。期間限定の断酒前は、ケーブルを新調するたび、アンプやらのリア・パネルを眺めながらよく酒を飲んだ。一方で最低なのは、SPケーブルがいかに妥協したにしても、片チャン最低5メートル要ること。パワードのSPにしたところで、今度はインターコネクト・ケーブルで同じ憂き目を見るわけで、やっかい極まりなし。