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方言について

2022-05-31 15:26:34 | 日記

井上章一氏と本郷和人氏の対談本『日本史のミカタ』(祥伝社)で、井上氏がNHK大河ドラマ「平清盛」(2012年放送)の時代考証をした本郷氏にある質問をしている。それは、京都が舞台になっている際の平家の公達や摂関家、宮廷の女房たちもみな標準語を話しているのに、海賊や山賊が関西弁になっているのはなぜか?ということで、井上氏は憤りを感じている。本郷氏は、それは差別だと思っていなかったのでそのままスルーしたと答えている。すると井上氏は、盗賊たちが関西弁を喋ることは、NHKドラマ班の制作陣が関西圏視聴者へのサービスではないか?ということを言っている。そんなサービスに関西人が喜ぶとでも思っているのだろうか。

また井上氏は、オードリー・ヘップバーンの『ティファニーで朝食を』の字幕版で、パーティを開くホリーの部屋の階下に住む日本人が文句を言いに来た時、なぜか関西弁の字幕テロップになっていた(現在は修正されている)と指摘している。うるさいのは関西人だという先入観があるからだろう。また、アメリカ映画の日本語吹き替え版で、黒人が登場するとなぜか東北弁で喋ることが昔は多かった。明らかに差別的だ。今こんなことをすれば問題になる。

大河ドラマで豊臣秀吉が登場すると、周囲はみな標準語なのに秀吉だけ尾張言葉で喋っていることが多い。井上氏は、「秀吉を尾張言葉にするのなら、石田三成も関西弁にしろよと言いたい。」と言っている。関西弁、北近江の言葉が正確なんだろうな。

結局のところ、歴史上の人物がどんな言葉、どんな方言で喋っていたかという証拠は取れない。エビデンスがない。それなら今の時代は東京中心主義なのだから標準語に統一していればいいのだ。小賢しい雰囲気演出、「こんな感じでしょ?」というサービスと勘違いした共感強制は必要はない。

この対談本は、京都の井上氏と東京の本郷氏のその歴史観の差異が面白い。