昼間の電車の中、シートに座る人たちはそこそこ。
風通しのいい車内風景である。
おれの近くに座る男性、
40歳前後であろうか、
昼間なので会社員ではないと思う。
ダウンジャケットのラフないで立ち。
最近、40前後のこの手の男たちがたまにいる。
仕事は何をしているんだろう?
よくわからない。
阪急宝塚線の普通電車、
雲雀丘花屋敷ゆきだ。
もうこの駅名だけで詩になりそうだね。
おれは岡町まで行く。
十三を過ぎてからのこと、
そのダウン男がなにか言ったのだ。
「はい、そこのところがなんとかかんとか」
聞き取れなかった。
だが、男は眠っているのだ。
つまり寝言か。
また言った。
「もうそろそろやらないと……云々」
最初は滑舌がいいのだが最後の方はわからない。
電車の中で寝る人の寝言は初めての体験だ。
2021年8月から9月までのひと月入院したとき、
4人部屋だった。
となりのベッドの男が寝言の人だった。
真夜中、
「アパラチア!」
「どんづるぼう!」
という言葉を結構な声を張り上げた。
おれは目が覚めた。
カーテン1枚を隔てただけでその声はよく聴こえるから。
アパラチアは山脈という言葉が組になっているような言葉だ。
学校で習った。
どんづるぼうは、屯鶴峯と書く奈良県二上山の景勝地で、
香芝市にある県指定の天然記念物。
遠くから眺めると鶴が屯(たむろ)しているように見える。
この2つの寝言は実に印象的だった。
「どういうおっさんなのだろう?」
と興味を持って翌朝、看護師に聞いてみた。
元野球選手だという話だった。
プロかどうか知らない。
社会人かもしれない。
すこし前、この男が落とした硬球が、
おれのベッドの下まで転がってきたことがあった。
話しかけようと思っていたが機会を逃した。
おれより先に退院、もしくは転院されていった。
この人の寝言は強烈だったな。