2日つづけて京都で仕事をする。
番組の撮影の立ち会いで、おれはインタビュアーになるのだが、
撮影の技術にはかかわりがすくないので、
時間があれば写真をうつすという恵まれた環境だ。
もちろんインタビューする対象者の〈おもり〉という仕事はする。
世間話から仕事に関係する話へつないでいくということで、
気楽といえば気楽です。
朝の京都。
ようやく寒さがやわらいできた。
すこし早く到着して、京都御苑を散策する。
自転車で通勤通学する人が通りすぎていくが、多くはない。
広い敷地が気持ちいい。
撮影隊と合流して、寺町通にある廬山寺に向かう。
紫式部の邸宅があった場所として有名になった天台宗の寺院。
それまでこの世界最古の小説を書いた女性の家は特定されていなかった。
古文書などから特定したのが考古学者の角田文衛博士である。
今では『源氏物語』ゆかりの桔梗の花や「源氏庭」で有名な古刹だ。
寒桜が咲いていた。
この時季と、秋9月にもう一度花を咲かせるのだという。
それにしても、いい庭である。
決して大きくないが、表情がゆたかだ。
苔むした部分は、流れる雲を造形している。
この苔の上に、祇園祭のころから中秋まで桔梗が咲くという。
ぜひその時季に訪れたい。
この廬山寺の裏手に小径をみつけた。
魅力的なので、思わず歩きだす。
すると苔が張られた庭に出た。
気持ちがいい。
空気がおいしい。
花粉の季節だけど、それを感じない。
庭の奥は天皇陵だという。
廬山寺を訪れる人も、あまりここまで足を踏み入れないようだ。
ひっそりとこうした場所があることが京都らしく、
それを見つけたことが幸運だと思った
その後、撮影隊と一緒にある民族衣裳コレクションを見に行く。
これはアフガニスタンの女性のもの。
まるで花畑のような色彩に、砂漠色のカブールを想い出す。
色のない世界でこのようなあざやかな衣裳が紡がれる。
いや、かつてのアフガンは緑あふれる世界だったのだろうか。
女たちはこの衣裳を身につけ、そこにベールを被っていた。
それがこの黒い大きな布である。
細かな刺繍がほどこされ、ずしりと重い。
古来からこのイスラム国の女性たちは素顔を出すことはなかった。
黒のベールを被り、魅惑の面影をいとしい者以外には隠した。
だが今、アフガニスタンの女性達はブルカと呼ばれる同じ色の布を纏う。
織物や刺繍など、服飾の技術が失われつつある。
文化史的な喪失である。
京都は長いが、まだまだ知らないところがたくさんある。
とりわけ上京の古い京都には宝石のような場がある。
新しい中京衆の地とは異なる隠れ京がある。
もちろん御池以南の鴨川沿いは、
刑場と芸能と歓楽の悪場所という魅力が充満している。
だが、しっとりとした雰囲気漂う上京に惹かれるのは、
年のせいだとは思いたくないのだが。