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泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

犬として育てられた少年

2013-08-15 17:14:33 | 読書
 アメリカの児童精神科医が語る子どもの脳とトラウマ。トラウマを負ってしまった子どもたちと、試行錯誤しながら治療に挑む医師の関わりがとてもよく伝わってきました。
 たくさん線を引き、要所要所で反芻しました。
 1日8時間、暗闇でたった1人、置き去りにされ続けた赤ちゃん。
 子どもを育てた経験がなく、犬を飼うことは得意だった年配の男性が、犬と共に檻の中で子どもを飼っていた。
 訪問者に母を殺され、自らも喉を切られ、発見されるまで10時間も母を助けようとした女の子。
 性的虐待の最中に、頭の中に唯一の安全な場所を見出し(解離)、数年後、加害者との偶然の接触から意識不明の重体に陥ってしまった少女。
 トラウマとは、過去の惨事の中では適応反応だった状態が、その後も解けず、日常生活、特に人間関係においてふさわしい言動をすることができないこと。
 トラウマは、脳に異変を起こしていた。
 ネグレクト(育児放棄)にさらされた子どもの脳は、発達に必要な刺激を十分に受けられなかったために、痴ほう症に似た委縮状態となり、様々な症状を現す。
 どの時期、どんな刺激が足りなかったのかを知り、必要なものを用意することで、脳は渇いた喉を潤すように、欲していた刺激を吸収し発達していく。
 何が足りなかったのかを知ることで、何が必要なのかがわかってくる。
 子どもは発達の途上にいる。体が20歳まで右肩上がりに成長するのに対し、脳は4歳までに90%も成長する。だから4歳までにどのような環境によって育てられたかがとても重要だった。
 鼻からチューブで栄養を与えられても一向に体重が増えない子どもがいた。検査をしてもどこにも異常はない。
 成育歴を丹念に調べると、その子どもは深刻なネグレクトに遭っていた。肌の接触を増やすだけで、その子はぐんぐんと成長を始めた!
 ただの肌の接触だけではないでしょう。関心を持たれているか。言葉をかけられているか。人としての非言語の意思伝達情報に接しているか。歓迎されているか。肯定されているか。
 愛されているか。
 トラウマを治療するのは医師だけではなかった。患者の周辺にいる仲間、家族、友人、文化。
 人間関係の質と量だけが、人間の成長を促していた。
 トラウマに科学的根拠があり、根拠に対応した治療法がありました。
 無理に直面させようとしても逆効果です。少しずつ、消化していくのがよかった。
 君のペースで。君が主人公となって。
 この本のすばらしさを、もっと伝えたいと思うのですが、まだ消化できていないようです。
 トラウマへの正しい知識と対応法が広まるように、心から願います。

ブルース・D・ペリー/マイア・サラヴィッツ著/仁木めぐみ訳/杉山登志郎解説/紀伊国屋書店/2010

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