私は地球で楽しく遊ぶために生きている

心はいつも鳥のように大空を飛び 空に吹く風のようにどこまでも自由に

春奈の告白 ~風間の妻~ 4

2013-08-27 01:13:47 | ミステリー恋愛小説

春奈の章

風間が浮気をしている。いえ、浮気ではない。
風間には愛する女がいると言う言葉が正確だ。

女には2つのタイプ以外にない。
すなわち愛される女と愛されない女と。
不幸にも愛されない側になってしまった女は
人生の妥協点をどこにおけばよいのだろう。
女としての愛を渇望する欲求の炎を鎮めるにはどうすればよいのだろう。
風間は優しい。人間愛にあふれたいい人だ。
彼を知るすべての人は彼に好感を持つだろう。
誰にでも優しく誰にでも善意で接する風間という男。
しかし、私は女として愛されていない。唯一愛して欲しい男に愛されない。
私のこと愛している?勇気を出して何度か聞いてみた。
しかし、哀しくも返ってくる言葉は「感謝している」だけだった。

ある夜、私は最後の望みに賭けた。少しは私を女として
見ていてくれるのではないかと期待を込めて、
「抱いて」と言った時の、
風間の表情を忘れない。暗闇の中でもはっきりとわかった
風間の私に対する侮蔑、不快感と、セックスを拒絶する冷たい醒めた顔。
風間との男と女の関係はこの時終わった、終わったのだ。
人は人に欲求や期待を求めなくなると喜怒哀楽の感情も枯渇
してくるのだろうか。
私は女を失った。自信を失った。それは、体の一部分を
もぎ取られたような喪失感だ。5年間夫に肌に触ってもらえないおんな。
私の心は暗い闇へと堕ちていく。

ある朝、学校に行く子供と、出勤する風間を見送ると、出かける用意を始めた。
息子には鍵を預けている。少し遅くなっていい。
水色の柄のワンピースに着替えて、自宅を後にした。
目的地はなかったが、独身の時以来ご無沙汰している美術館へと私の足は向かっていた。
Y駅を降りバスに乗り10ほどでS美術館に着いた。
入り口には、さまざまな催しが書いてある。
十年ぶりの美術館めぐりに久し振りに笑顔が戻る。
壁に掲げられている絵をゆっくりと見ながら歩く。
隣で同じ歩調で歩いていた男性が声をかけてきた。
「その絵、お気に召しましたか?」
それは、女性が小鳥を手の中に大事そうに抱えている哀愁とメルヘンを感じさせる
絵の前で止まっていた時だった。
パステルカラーの水彩画で描かれたその絵から懐かしさと癒しの空気が漂っていた。
私と同年齢だろうか、柔らかい雰囲気を持つ男性だ。
「癒される絵ですね」そういうと、男は私の顔を
見つめて言った。「これは僕が描いた絵です」
何かを説得しようとする瞳は人を圧倒する。

2時間後、私は男とホテルにいた。
気がつくと男の胸に抱かれていた。
戯れ抱き合い求め合っていた。
「きれいだ。何度でも愛してあげたい」
彼はありとあらゆる賛美の言葉を囁き続けた。
私は白いダブルベッドの中で生命を注入されているような息吹を感じていた。
男の甘い囁きも愛撫も、女を蘇らせてくれるものだった。

戯れの蜜月のひとときから出た時は5時を過ぎていた。
男は、慈愛に満ちた表情で微笑んだ。
私の中で何かが弾けた。
女の終わりは自分で決めるもの、
女であることを意識することも自分で決めるもの、
そう再生だよ。
私はもう一度再生できる。
再生するんだよ、春奈、
ありがとう癒し男さん・・・

続く・・・






今夜もサザンの着信音は鳴らない・・・   3

2013-08-21 09:01:29 | ミステリー恋愛小説
由里の章

残業が終わり携帯電話を取り出す。ランプが点滅していた。
風間からのメールが入っている。「ゴメン!今日は行けない。
急に子供が熱を出してすぐに帰ることになった。又連絡する」
まただ。子供の病気、家族の行事、妻の都合、一体何十回
彼の発する家庭の匂いの言葉に傷つけばいいのだろう。
肌に感じる夜風が虚しさと寂しさを運んでくる。
涙が頬を伝わる。風間と出会って3年、友人は次々と結婚していく。
数年後、可愛いベビーを添付して送信してくる子供の誕生お知らせメールが一番つらい。
もしかしたら私は一生赤ちゃんを自分の腕に抱けないのではないかという
恐怖にも近い不安が押し寄せてくる。風間との結婚を望んでも
報われないことだとわかっている。
風間もまた、妻とは別れるつもりはないだだろう。
会社の同僚の美香はいつも「不倫なんて先の見えない恋はやめなさい」
と厳しく忠告されている。
しかし、すでに私の心と身体は、風間の人生経験豊富な性や懐の深さに
翻弄され虜になっていたし、何よりも、彼の腕に抱かれて眠る時の
安堵感と甘美さは、たとえようもない。
いつしか風間は私の生活のすべてになっていた。
愛すれば愛するほど、彼が妻帯者であることに苦しむ。
彼の妻はどういう人だろう?
嫉妬が年月を重ねる度に強くなる。
何度か別れ話をしてきた。「もう嫌、普通の恋がしたい」
苦しさをぶつけたとき、風間は決まってこう言った。
「由里が別れたいのなら僕は何も言えないよ。僕は別れたくないけど」
「いつまでこういう関係が続くの?もう疲れた」「ごめん・・・」
「奥さんと別れるとは絶対言ってくれないのね」
「結婚は無理だと初めから言ったじゃないか」
「奥さんを愛しているの?」
「愛とかそういうのじゃないんだよ。親として、社会人として責任なんだ」
「嘘よ。ほんとに私を好きだったら奥さんと離婚してくれるわ」
「君は何もわかっていない。結婚は愛だけではやっていけないんだ」
「私を愛している?」
「愛しているよ。愛しているからこうして何とか時間を作って会っているじゃないか」
何度同じ会話をして喧嘩をしたことだろう。
美香は「ほんとに由里のことを愛していたら離婚するはずだわ」と言う。
一体風間の本心はどこにあるのだろう。私は風間にとってただの浮気相手なのだろうか?
もう考えることも疲れた。22歳で出会って3年、
何度か職場の先輩や、紹介で男性とデートをした。しかし風間ほど私の心を
ドキドキさせ、甘えさせてくれる男はいなかった。

夕闇せまる表参道のカフェ、
テーブルの携帯からサザンの「いとしのエリー」の着信音が鳴ることを心待ちながら
今夜も独り、風間の好きなハイボールを口に含む。

続く・・・


僕が麻耶を選んだ訳 2

2013-08-16 12:57:17 | ミステリー恋愛小説
テツオの章

僕の人生は、恵まれていると思う。
某私立の大学を出て、有名外資系商社に入社した。
学歴ににも仕事も容姿にもコンプレックスも挫折もなく
30歳の今日まで生きてきた。
僕は恋人選びには慎重だ。
その原因は兄の様々な恋愛事件のせいだ。

僕の兄、星斗は光源氏の生まれ変わりかと思うくらいに美貌と女好きだ。
今年で35歳、いまだに懲りもせず浮名を流している。
僕は兄の起こしているスキャンダルの渦中に何度も飲み込まれ、
何度別れの後始末をしたことか。
ある女は、逆上して、
「彼に精神的打撃を受けた。慰謝料をよこせ」と叫んだ。
「恋愛問題は二人で解決してくださいね」とやんわりと嫌味とも
とれるような注意をしたこと数件。
一番ひどかったのは、「別れを撤回するまで帰らない」と言い自宅の前で
騒ぎ出した女だ。3日間飲食をしないで玄関の前で毛布に包まって過ごした。
その女が元モデルだったと言っても誰も信じないだろう。
3日目に警察を呼び厳重注意をして女がやっと帰っていった。
警察には「恋愛問題は二人で解決してくださいね」と僕が注意をされる。
それでも兄の女好きはやめる事がなく今もどこかで浮名を流している。
「どうして女に懲りないの?!」とあきれて聞いた時
「なあ、テツオは、サッカーが好きだったよな。サッカーで怪我をしても
サッカー嫌いにならないだろう?それと同じだよ」と意味不明なことを言う。
恋愛によっては女は変貌するというころを、何度も目の当たりにしてきた僕の青春時代。
別れ際の女のギャク切れ、逆上、ヒステリー、ストーカー、
さまざまな女の裏顔を見てきた結果僕は20歳にして女性に失望していた。
恋に何も期待できなくなっていた。
美人の裏側のヒステリックさと冷酷さ。気配りの裏にある計算されたしたたかさ。
女の顔の皮一枚の向こう側の本質を見極めることは精神科でも難しい。

商社に入社してから仕事がおもしろくなり僕は仕事に夢中になった。
同僚の勇次に誘われ時々飲みに行く女友達も出来た。
3人共あっさりとしたタイプで安心している。
しかし、女は恋愛すると変貌することを知っているので僕はかなり用心している。
時々5人で飲みに行くようになり性格もわかってきた。
勇次は美香にメロメロだ。
確かに綺麗だし社交的だ。男受けするフェロモンを醸し出している。
モテるタイプだ。由里は、普通の感覚の女性で安心してつきあえる。
麻耶は、僕の気がつかないことをさりげなくアドバイスしてくれる
陰で気配りしてくれる賢い女性だ。
ある日僕は偶然に麻耶のもうひとつの顔を発見した。

僕の母は三人姉妹の長女だ。次女の早苗叔母さんは、アメリカ人と結婚して現在は
シアトルで暮している。三女の真理叔母さんはは恵まれない子供達の施設を
自ら立ち上げ、人生を捧げ今日まで独身で生きてきた。
僕は真理叔母さんが幼少の頃から大好きで、尊敬していた。
母は、あまり真理叔母さんが好きではないらしく
中学生になり隣町の県にある施設に遊びに行くことを快く思っていなかった。
「癒しの国」と名付けられた施設は、親の事情で一緒に暮せない子供達が
20人くらい常時いた。叔母の他ボランティア援助、協力してくれる
男性1人、女性2人で食事や日常の世話をしながら子供達を育てていた。
施設へ遊びに行くのも、僕の生活も多忙になり疎遠になっていった。
しかし、多忙な生活に疲れ癒されたい思うと時に必ず「癒しの国」を思い出し訪れていた。
商社に入社して無我無夢中で走ってきた。
仕事で上手くいかないとき、上司との折り合いや、後輩との付き合いに
悩み、傷ついた時必ず癒しの国に来て子供達に会いに来た。
子供達の純粋な瞳、無垢な心と向き合うと僕の心は浄化された。
「癒しの国」は僕が癒される場所なのだ。
その日上司との仕事上の見解の相違に悩みジレンマに陥り、「癒しの国に」を訪ねた。
「あら、珍しいわね。お昼時に来るなんて」
施設にはいつも平日の夜に突然現れ、翌日会社へ出勤するパターンなので
真理叔母さんは驚き喜んでいた。
「丁度よかった、これから皆で食事するの一緒にしよう」
僕は、ダイニングに向かった。並べられたテーブルに座る子供達。
その中に赤ちゃんを抱いた女性が立って見ていた。
見覚えのある顔だ。麻耶?会社の仲間の麻耶だ!
何故ここに麻耶がいるのだ?「ねえ、あの人は?」
「あ、麻耶ちゃんね。日曜日にお手伝いに来てくれるの。
ここでボランティアで働いている坂田さんの姪の麻耶ちゃん、
子供達に人気があるの。麻耶ちゃんが来るのを子供達楽しみしているのよ」
「知らなかった」
「テツオは日曜日ほとんど来たことないから知らなかったのね」
麻耶が抱いている赤ちゃんの鼻に自分の唇を近づけた。鼻に唇を合わせている。
「何をしているの?」「赤ちゃんが風邪を引いて鼻が詰まって息苦しいのよ。
それで、鼻がよく通るように口ですすって通りやすいようにしているの」
「ええっ!自分の口に赤ちゃんの鼻水が入るじゃない」
汚いよ・・・僕は言葉にできなかった。
「ここにいる人は、汚いと思って世話している人なんていないのよ。
麻耶ちゃんは特別に優しいけれど」
僕の体は震えていた。
僕の知らない麻耶がそこにいた。
いつも退社後、食事をして居酒屋で一緒に飲んでいる麻耶と
今目の前のいる麻耶が同一人物なのが信じられなかった。
「叔母さん、今日は帰るよ。僕が来ていたことは内緒にしてね」
足早に施設を去った。
・・・麻耶の思いやりは本物だった・・・

その日から麻耶に対する僕の意識が変わった。
居酒屋で飲んでも麻耶は癒しの国の話はふれなかった。
いつものように、皆の話を楽しく聞く麻耶がいた。
いつものように、人をなごませる麻耶がいた。
そんな中、ニューヨーク勤務の辞令がおりた。
栄転と言われるニューヨーク転勤、僕の中で麻耶の存在がはっきりと浮かんだ。

麻耶とニューヨークに一緒に行きたい。いつも麻耶に側にいて欲しい。
真理叔母さんの「癒しの国」に行き始めてから20年、
その場所で僕は最高の恋人に出会えた。
ある日、僕の人生を賭けて麻耶に告白した。
麻耶の瞳から涙があふれ、大きく頷いた。
僕にとって世界で一番美しい瞳がそこにいた。


続く・・・



テツオが麻耶を選んだ訳 1

2013-08-08 13:50:41 | ミステリー恋愛小説
美香の章

テツオが麻耶を選んだ。
私よりも麻耶を恋人に選んだのだ。
何故?信じられない。
私は自分でいうのも何だけどかなり綺麗だと思う。
十代から男達にはモテていたし、
今日まで何人もの男達が私の前にひざまづき告白した。
学生時代もそして3年前に就職をした今の商社でも私は男性達の
マドンナ的存在だと自負していた。
相川テツオは商社ナンバー3に入るやり手の営業マンだ。
仕事が出来てクールなハンサムな男30歳。
社内のあこがれの男性のひとりだ。
「美香と彼だったら美男美女でお似合いよ。彼も美香のこと意識しているんじゃない」
親しい同僚木村由里が好意的に言う。
由里は社内では仲のいい同僚のひとりだ
元気で明るい交友関係の広い由里の情報にはいつも脱帽している。
そして佐々木麻耶、彼女も仲のいい同僚だ。
麻耶はファッションも言動も目立つタイプではないが、
優しくて品のある動作に周りの人をなごませるものがあった。
今にして思えば私は無意識に選んでいたのだと思う。
私より容貌も女性としても魅力のない友人を選んでいたのだ。
私達三人は時々テツオと同僚の右田勇次と一緒にランチや、居酒屋で
飲む程度のよい関係が1年くらい続いていた。
ある時、テツオが飲んだ席で、
「ガールフレンドはいるけど特定の恋人はいない」と言った時から
私は意識していた。テツオの隣に座る恋人の席を。そして期待していた。
ある日、由里が仕事をしている私の席に走ってきた。かなり興奮している。
「どうしたの?由里」「テツオが海外転勤するんだって!何とニューヨーク!
彼だったらいつか海外転勤になると思っていたけど。すごいよねー」
そしてもうひとつの噂が広まっていた事実に驚いた。
その噂は女子社員の間ではかなりの話題になり広まっているという。
テツオがある女性に結婚を前提に告白したというのだ。
相手の名前を聞いた時私は耳を疑った。
「えっ?」「彼が告白した相手が麻耶なのよ。
結婚も考えてつきあってほしいと言われたらしいわよ。驚いたわ。
麻耶何も言ってくれないんだもの」
私は言葉がなかった。私は期待していた。もしかしたら三人を
時々ランチや飲みに誘うのも照れくさいからなのではと、密かに思っていた。
いつか私に告白してくる日がくるのではないかと密かに期待していた。
その甘い期待は見事に砕け散った。
翌日、私はひとりでランチを食べていた。由里に誘われたが麻耶も一緒だと
聞いて断った。今は麻耶の顔をまともに見られない精神状態だ。
時間をずらして近くのレストランで遅いランチをとっていると、
テツオが入って来た。私を見つけたテツオは笑顔で
近づいてくる。今一番会いたくない相手だ。
「ひとりなの?珍しいね。僕も今会社に戻ったんだ。一緒にいい?」
私は小さく頷く。
「ニューヨーク転勤なんですってね。おめでとう!」
「ありがとう。でも不安もいっぱいあるけど」
「大丈夫よテツオさんだったら、やり手だし人望もあるしニューヨークに行っても活躍するわ」
「とりあえず僕らしく頑張るよ。今まで由里さんや美香さんには色々と気遣ってもらって感謝してまーす」
「麻耶のことは言わないのね。そうか、恋人にもう言う必要ないよね」
「えっ、もう伝わった?」
「もう女子社員の間では噂になっているよ」「そうか」
テツオが照れた表情でパスタをフォークに絡ませている。
私のフォークを持つ手は震えていた。それを悟られまいとしてさりげなく聞いた。
「麻耶のどこに惚れたの?」テツオは運ばれてきたミートソースを一口ほおばり
水を喉に流し込むとゆっくりと口を開いた。
「彼女の優しさと気配りかな」
私だって優しいし気が利くわ・・・
「それに彼女といると自分自身でいられる。男ってどこかいつも
突っ張って生きているんだ。だから自分が素になりたい場所が欲しいんだ」
「麻耶はテツオさんにとってやすらぎの場所になったのね」
「そうだね、いつしか僕が僕らしくいられる居場所になっていた。
「最後に聞いていい?テツオにとって女性の容貌て気にならない?
麻耶の外見は好みのタイプだったの?
「外見は・・・好みというほどではなかった。でも性格が好みなんだ」
「男って外見の好みを重要視するのかと思っていたけど、テツオは違っていたのね」
キレイな男は自分がすでに持っているから女にキレイさを求めないということを
いつか本で読んだ。
「とにかくおめでとう!もう時間だから先に行くね」
私は足早にレストランを後にした。
テツオの言葉が蘇ってきた。「性格が好みなんだ」
すれ違う男性が、私を見て連れの相手に言うのが聞こえてきた。
「すげー可愛い!!超僕のタイプ!」
それでも私はテツオ選ばれなかったのだ。
唯一選んで欲しかったテツオに選ばれなかったのだ。
性格が好みだなんて、とてもかなわないよ・・・
私は空を見上げた。青空が目に染みた。

続く・・・