恋人はユーモアがあり優しくてフレンドリーで
魅力的だったがいつも怒っていた
その怒りは世の中の不条理でであったり
人間に対する不信感だった
学生時代の親友が結婚して考え方が変わってしまったと嘆き
知人の身の上相談が嘘だったことを知り怒る
ホームレスが食べ物がないと言えば自分のパンを差出し
恋人に振られて落ち込んでいる友人の悩みを夜明けまでつきあう
東に友人が困っていれば飛んでいき慰め
西に後輩が泣いていれば大丈夫だよと電話で励ます
まるで宮沢賢治のようだった
それでいて、彼に嘘をついたり心変わりをした友人知人が
去って行くといつも怒っていた
「人は環境によって変わっていくのは仕方がないよ」
または「同情は時として相手をダメにする時があるよ」
と私は落ち込むたびに言った
すると彼は私の方を哀しい目をして言う
「なんて寂しい考え方をするんだ。人が困っていたら助ける
人間として当然だろう」
自分がお腹を空かせても相手がお腹が空いていればパンを買ってきて差し出す
単純でお人よしの恋人はいつも誰かの嘘に惑わされて振り回されていた
「あいつ裏切りやがって」
「あの野郎俺に嘘ついていた」
何度それらのセリフを聞いたかわからない
彼の怒りの根本にあるものはなんだったのだろうか
怒りのエネルギーが彼の生きる証明だったのだろうか
ある日喫茶店でコーヒーを飲みながらしみじみと
「俺は優しすぎる。自分で自分の優しさが怖くなる。
ほんとに宇宙人かもしれない」と哀愁を込めて呟くので
私は即座に言った
「大丈夫よ。普通に人間だから。
だって宇宙人だったらあなたみたいに毎日怒ってないもの」
と言った途端に彼が物凄い形相で怒り出した(汗)