私は地球で楽しく遊ぶために生きている

心はいつも鳥のように大空を飛び 空に吹く風のようにどこまでも自由に

さそり座の愛~占い刑事の推理第8章~

2012-10-25 10:52:12 | ミステリー恋愛小説
占い刑事の推理 2

感情が高ぶっていた藤木は我に返った。
「すまない。せっかく君の勧めてくれた店にきていい気分だったのに」
「いえ・・・僕も言いすぎました」
「しかし、何故僕の後を追ったの?僕に疑惑でも感じたのか?」
「どうしてと問われても答えられません。只、僕の独断で行動しました」
「独断で?」
そこまでする理由が麻生にあるのだろうか?
明るく元気で、グルメ嗜好の麻生のことを弟のような愛すべき後輩と思ってつきあってきた。
麻生という人間を刑事としてではなく、ひとりの人間として
考えてみれば、趣味の占いは心理的、精神的なものだ。
彼の内面は深層心理、人の心の機微には人一倍鋭いのではないか。
その鋭利な精神構造を元気で明るい男として演じているのではないか。
藤木は麻生を今まで傍で共に動いていた部下としてではなく、
もっと意識の高い人物に思えてきた。
麻生はバツが悪そうに、頭を掻きながら、
「理由は勘弁してください。いつかお話します」と言った。
そして、二人はもやもやとした気分のまま別れた。
ひとりになると、麻生は暗い夜空を見上げた溜息をついた。

何故、藤木を追いかけて大分まで行ったのか。
心の中で燻り続けていた感情は、藤木と二人で、坂崎雪子と初めて会った時からだった。
二人は知り合いだ。それもかなり深い。第六感だった。
それは刑事としてのカンではなく、長年趣味として学んできた占いのカンだ。
二人の間には、他人がその領域入っていけない絶対的な空気が存在していた。
男女間に漂う匂いのようなもの。
不謹慎な言い方だが、興味の湧くドラマのように麻生には映った。
麻生もまた、独断で坂崎雪子について調査をしていた。
そして、坂崎雪子が高校2年で大分県W市に転校したことを知った。
何故、高校2年生の時に転校したのか。
そこには転校せざるえない何かが起きたのではないだろうか。
とりあえずは、そこから雪子のルーツを知ろう。
藤木が田代雄太のルーツを調べていた頃、
麻生もまた別の真相を求めて大分のW市へと向かっていたのだ。
雪子が高校時代に暮した祖母の家は田舎つくりの瓦屋根の静かな町にあった。
庭には、多様な花が咲いていて穏やかな風情をかもしだしている。
その横にプレハブて建てた古い倉庫のようなものがある。
玄関のインターホンを鳴らすと、しばらく間をおいてドアが開いた。
70代後半の老人が現れた。おそらく雪子の祖母だろう
「どちら様ですか?」
麻生は警察手帳を差し出す。老人はいぶかしげに
「なんで警察がうちにくるんだい?」と少し不機嫌な声で言う。
「坂崎雪子さんはお孫さんでしょうか?」
「雪子?雪子が東京で何かしたのかい?」
「いえ、雪子さんの当時のことを聞かせてもらえないかと思いまして、
雪子さんは高校2年の時にこちらに転校してきましたけどそれはどうしてですか?」
老人の顔が歪んだ。
「何を探りにきたんだ!雪子の何を知りたくてきたのか知らないが帰ってくれ!
それに突然に現れて、非常識じゃないか。これが警察のやることか?」大声で放った。
麻生は、おおごとになり地元の警察に連絡されるとやっかいになるとまずいと思い
非礼を詫びた。不機嫌な老人は乱暴にドアを閉め中に入っていった。
麻生は、ここまできて収穫なしかとがっかりした。
出口の方に歩いている時だった。何気に視線を倉庫の方に移した。
あちこち錆びて、腐っている。かなり古い建物だ。麻生は玄関の方を見た。
老人の姿は見えない。すばやく倉庫の中に入った。
そこは、さまざまな雑貨類や、農業に使用していたと思われる古い機械が
乱雑に置いてあった。麻生はそれぞれに目を通した。
その時、隅に固まって置いてあった薬剤のような瓶やスプレーに目が止まった。
そのひとつの液体瓶を手に取った。
農薬の名を見る。これは?
・・・坂崎孝雄の死因は農薬、そして現在発売中止・・・
麻生の目が光った。
何故、この場所に農薬があるのか。
かつて雪子が暮した家に坂崎孝雄の死因の劇薬がある。
これは一体どういうことか?

続く・・・

さそり座の愛~占い刑事の推理第7章

2012-10-16 15:53:06 | ミステリー恋愛小説
占い刑事の推理1

「先輩、牡蠣料理の味はいかがですか?」
「上手いよ。生牡蠣も臭みもないし、プリプリしている。それと、蒸し焼きや、
焼いた牡蠣も絶品だね。君のグルメ通のお蔭で人生楽しませてもらっているよ」
「先輩のその一言が聞きたくて、あちこち紹介しているようなものです。
牡蠣スープも飲んでみてください。深い味だけどしつこくなくて僕大好きです」
藤木は牡蠣スープを飲む。牡蠣の深い味が今の心を癒されそうだ、と思う。
今夜も麻生に誘われ、牡蠣専門の店で食事をしている。
スープカップを置き藤木は、真顔になった。
「ところで、坂崎孝雄の死因ははっきりと出たのか?」
「はい、鑑識からの報告だと毒薬は農薬の一種で、少量で致死量に達するということで、
今は販売禁止となってるそうです」
「販売禁止の農薬を、坂崎はどこで手にいれたんだろう?」
「入手経路は不明です。他殺の物的証拠はまったく出てこない、指紋は坂崎夫妻だけです。
自殺ということで、捜査本部は近日解散になるということですが・・・」
「そうか、打切りか」藤木は内心安堵した。
「しかし、僕は、何かこの事件で腑に落ちないものを感じているのですが」
「たとえば?」
「他殺ではないとすれば自殺だという考えが短絡すぎてどうも解せない」
「他人が侵入してきた形跡がないことは重要な証明だろう」
「僕は別の視点から考えてみたのですが・・・」
口籠る麻生を促す。
「何か気になることがあったのか?」
「あくまでも、僕個人の意見として聞いてください。
坂崎の妻の部屋と隣のアパートの近さをどう思いますか?」
「どうって?」
「あの日、深夜に黒い影をアパートの奥の部屋の方で見たと言った男がいましたよね」
「ああ、あの男か。信頼できそうもない身なりと、態度だったじゃないか。
日中から酒を飲んでいる男の話に信憑性はないよ」
「いや、あれからそのことが気になって、聞き込みにいったんですよ。
そうしたら、月日も時間も間違いない。
何故ならその日は大好きなテレビで競馬番組があって終わったのが1時頃、
煙草の煙が部屋中に回って咳き込んですぐに窓を開けた時上を見たら黒い影がふわりと動いていたと」
「酒を飲んでいなかったのか?」
「その日はお金がなく酒を買えなかったということです」
「う~ん、それで君は何にこだわっているんだ」
「先輩に、以前に言ったこと覚えていますか?坂崎の妻の部屋と隣のアパートの一室が
向かい合っていて手を伸ばせばお互いの窓を開けられる距離だと」
「それが問題あることなのか」
「もし、お互いが知り合いだったら?」
「そりゃあ、お互いの部屋同士が向き合っていれば、偶然に顔を合わせることもあるだろうし、
挨拶するくらいはあるだろう」
「そうですよね。知り合いだった。いや知り合いになり仲良くなっていったら?」
「彼女には完璧なアリバイがあるだろう?」
「完璧なアリバイ、先輩はかつて完璧なアリバイ程気をつけろと言われましたけど。
あの日、坂崎の妻は伊豆のホテルに宿泊しました。
でも何故、ホテル館内ではなく庭に個々に立っているコテージだったのでしょうか?
「君は坂崎の奥さんを疑っているのか!捜査は打切りになるんだろう。詮索するのはやめたほうがいい」
声が荒立っているのが自分でもわかった。これ以上雪子の人生に踏み込んで欲しくない。
「それに、誰の許可をえてその男の聞き込みに行ったんだ。独断行動は許されないぞ」
「僕の行動は独断行動ですか?では、藤木先輩の行動は独断行動ではないのですか?
藤木さんは、何故大分までひとりで行ったのですか?
麻生の瞳から挑んでくるような強い視線を感じ藤木はたじろいだ。
「どうして大分に行ったことを知っているんだ」
「あの日、藤木先輩の後を僕が追っていたからです」
続く・・・




さそり座の愛~占い刑事の推理~第6章

2012-10-12 08:44:47 | ミステリー恋愛小説
雪子の計画

その時がついにきた。
この日の為に雪子は計画を練ってきた。
朝、雪子は出勤する孝雄に声をかけた。
「今日は高校時代の友人と食事をするので遅くなります」
相変わらず無関心な孝雄は靴を履きながら背中を向けたまま首を楯に軽く振った。
ほんとは伊豆へ行くのだが孝雄は知らない。
身支度を整えて、待ち合わせの新宿駅へと向かう。
友人原田美紀と伊豆行きの電車に乗った。
伊豆に到着すると、サボテン公園や、老舗のお土産店など見物した後、
ホテルに到着したのは、午後5時過ぎていた。この宿泊場所を選んだことも計画のひとつだ。
ホテルは多数のコテージがある。雪子は館内の部屋ではなくコテージを予約していた。
ホテル内の広大な庭に立っているコテージはそれぞれの部屋が離れている為、
宿泊者の状況が把握できない。そこが狙いだ。
ホテル内の温泉に入り、夕食を食べながらほろ酔い気分になった。
最上階のバーで雪子は美紀にビールや、ウイスキーを勧めた。
部屋に戻りベッドに倒れている友人を起こし睡眠薬の入った水を飲ませる。
美紀はされるがままに飲み干した。時計は9時を過ぎていた。
その後、レンタルで借りた自転車で駅まで走る。
駅の横の国道を走っているタクシーを止めた。
「母が危篤なのです。至急東京までお願いします!」
気のいい運転手に出会えたことはラッキーだった。
運転手のスピードの速さにより、東京に入ったのは11時。
用心の為に自宅の駅のひとつ手前の駅近くで降りた。
ここから自宅まで歩いて15分程、足跡を残さないためにも歩いた方が安全だ。
玄関の鍵を開けた。
「ただいま」返事はない。玄関の鍵と鎖のチェーンをかける。
2階に上がり孝雄の部屋をノックする。
「ただいま帰りました」ドアを開けると孝雄は赤ワインを片手にスポーツ番組を見ていた。
寝る前に必ず飲む赤ワイン。雪子はボードからワイングラスを取った。
「私もワインいただいていいかしら?」
近づいていくと、孝雄が振り返った。
「飲みたいのか?」
「そういう日もあるでしょう?」
「君が自分から言ってくるなんて珍しいな」そう言い、雪子のはグラスにワインを入れた。
一気に飲む干す雪子を見て孝雄は失笑した。
「ほんと飲み方まで知らないんだね」
侮蔑も今日限りだ。もうこの男に否定されることは永遠にない。
「ねえ、セックスしようか?」
孝雄は驚いた表情で「気でもおかしくなったのか?」と言った。
「そうかも知れない。久しぶりに友人と会って刺激を受けたのかしら。
タガが外れちゃったみたい」
「今日の君はいやらしくていいねえ」ニヤリと笑う。
そして「君がその気ならいいよ」横柄な態度で立ち上がり寝室へ入って行く。
部屋に入った孝雄を確認して、持っているワイングラスに素早く毒薬を混入した。
ベッドの中で雪子を迎え入れようとしている孝雄。
「いつもこんな女でいてくれたら飽きないのに」
そう言いながら両手を差し伸べてきた。
雪子はワインを自分の口の中に含んだ。
含んだワインをそのまま孝雄の口の中に流し込んだ。
孝雄の喉のあたりでゴクリと音がした。
途端に孝雄の歪んだ表情が目の前に表れた。喉や胸を掻き毟っている。
雪子は体を離してその様子を凝視した。
数分後孝雄の体の動きが止まった。時刻は、深夜1時になろうとしていた。
素早く自分の飲んだワイングラスをバッグに入れる。
そして、自分の部屋の窓を開け、向側の雄太の部屋の窓に手を伸ばす。
窓は簡単に開き、雪子は思い切り雄太の部屋の中へ飛び込んだ。
暗い部屋の中に雄太の姿はなかった。まだ帰宅していないようだ。
いつもどんな時でも部屋の窓を開けておいてほしいと言った言葉を雄太は忠実に守ってくれた。
雪子は窓に鍵をかけて、雄太の部屋から出た。
大通りに出てタクシーを拾い、伊豆まで走る。
ホテル内のコテージに着いたのは、夜中の3時を過ぎていた。
友人は熟睡していた。  大丈夫。アリバイは完璧だ。自分に捜査が及ぶことはないだろう。
ああ、これでもう私は自由だ。ほんとの私自身でいられる。
雪子は疲労困憊した体をベッドに投げ出すように倒れた。

続く・・・






さそり座の愛~占い刑事の推理~第5章

2012-10-06 16:59:12 | ミステリー恋愛小説
真実

「私たちは見知らぬ他人なのよ。警察が来ても自然に振舞って。大丈夫よ」
雪子と雄太が関わっている事を物語るその台詞に藤木は愕然とした。
あの二人が知り合いだとしたら接点はどこにあるのか。
上司に報告すべきなのはわかっていた。しかし、それは出来ない。
すでにこの事件は自殺の方向で捜査を終えようとしている
上司に報告したら、再捜査の可能性もある。雪子を傷つけたくない。

翌日の午後、藤木はアパート「太陽荘」へ向かった。
入口近くの管理人室と表札の出ているドアのチャイムを鳴らした。
「は~い」という声と同時にドアが開く50代後半の中年女性が顔を出した。
藤木は警察手帳を見せる。中年の女性の顔つきが変わった。
「2階の奥の田代雄太さんの件でお尋ねしたいのですが」
既に半分好奇の表情になっている。
「どのようなことでしょうか?」
「彼はいつこちらに引越して来ましたか?」
「田代雄太・・・ちょっと待っていてくださいね」
管理人は分厚いファイルを持ってきた。玄関先で広げページをめくる。
「ここのオーナーは、不動産業者に委託するとお金かかるからと、
私にできる仕事どんどん持ってくるから嫌になるわ。
ここのアパート住人の情報も私が保管してるのよ」
愚痴が日々のストレスのはけ口のように止まることがなくしゃべり続ける。
管理人の手が止まった。
「あっ、これだわ。田代雄太さんは、1年程前に入居していますね」
「保証人の連絡先はわかりますか?または本籍地は?」
「保証人も本籍地も同じ名前で、田代秀夫と書いてあります。父親です」
「住所を控えさせてください」管理人はファイル帳を差し出しながら、
尚も聞きたいそぶりだ。好奇心の表情を無視してメモ用紙に住所を書く。
「ご協力ありがとうございました」
上司に知れたら首だなと思う。しかし、それでも足が動いてしまう。
自分でもどうすることができない何かが体の中を突き動かしていた。

藤木は休日、田代雄太の故郷である大分県へと向かった。
新幹線に乗って5時間、田代雄太の実家に到着した時は夕闇が迫っていた。
藤木は住所を頼りに迷いながらようやく田代秀夫の家を見つけた。
古い建物だが、整然としている。門のチャイムを鳴らす。
「どちらさまでしょうか?」「突然すみません。東京の大田警察署の藤木と申します。
田代雄太さんの件でお聞きしたことがありまして」
「雄太のことですか?ちょっとお待ちください」玄関から40代くらいの女性が出てきた。
「雄太の母ですが、何かあったのですか?雄太は今どこにいるのですか?」
「雄太君は東京にいます。知らないのですか?」
「雄太が何かしたのですか?東京の警察の方が、
ここまで調べに来るなんて雄太が事件でも起こしたのですか?」
「いえ、ある事件のことで調べていまして」
藤木は大分までくるからにはそれなりの訳があるだろうと詰め寄られことを覚悟していた。
が予想に反した反応が返ってきた。
「私がいけないのです。雄太が家を出て行ったのは私のせいなんです。」と涙ぐんだ。
「ここでは話せないことなので、駅前の喫茶店「バード」で待っていてくれませんか。
1時間後に行きます。そこでお話しします」
藤木は承諾して、先に駅前の喫茶店で待った。コーヒーを注文する。
しばらくして、店のドアから、雄太の母親が入ってきた。
強張った表情で藤木の前に座る。ウエイトレスにアイスコーヒーを注文する。
二人の間に沈黙が続く。
母親は運ばれてきたアイスコーヒーをストローを使わず喉に流し込んだ。
そして、藤木の顔を正視して語り始めた。
「私達夫婦には10年間子供が出来ませんでした。
子供が欲しくて、養子をとろうかと真剣に考えていました。
そんな時知人から、生まれたばかりの赤ん坊を実の子供として
育ててくれる人を探していることを知りました。私たちは迷うことなく承諾したのです。
実子として戸籍に載せるのは、闇のルートを使いました。
そして私達夫婦は生まれてまだ1ヶ月の雄太を引き取ったのです。
でも皮肉なものですね。雄太が7歳の時私は妊娠しました。
生まれてみれば、やはり我が子は可愛い。
私も夫もいつしか血のつながりのある我が子だけに愛情を注ぎました。
雄太は敏感に家庭状況を悟っていったようです。
日々変わっていく私や夫の雄太へのぎこちない態度に耐えられず
中学卒業後すぐに家出をしてしまったのです。そして今も尚音信不通なのです」
「そうですか・・事情はわかりました。
踏み込んだ質問をしますが、その古いお知り合いの方はどのようにして
雄太君の存在を知ったのでしょうか?」
一瞬躊躇した表情を見せた。
「いえ、プライバシーのことですので、お話したくなのでしたら無理にとは言いません」
「いえ、ここまで話したら全てお話したことも同然ですからお話しします。
確か海野さんという方だったと思います」
「海野?今海野と言いましたか?」
「ええ、海野さんの親族の方が私の知人に相談して私達夫婦の元へお話があったのです」
高校生で出産して育てられる環境ではなく、可愛がってくれる夫婦の元で
育って欲しいと知人に相談されたと聞いています」
口の中が乾いて息が苦しい。
しかし、確かめなければならない。
「その海野さんという方はどこにお住まいですか?」
「ええっとW市です」
「W市!」
「孫が不憫だと泣いていたそうです」
「孫といいますと?」
「その方のお孫さんが出産したと聞きました。海野さんを知っているのですか?
その方の孫が生んだ子供を私達夫婦が引き取ったのです」
何か話そうとしても言葉が出てこない。
海野は雪子の母方の姓だ。
そして大分県W市に祖母がいることも雪子から聞いていた。
女子高校生の出産、その繋がりがどこへいこうとしていたのか?
思考はある考えで止まった。足元が震えた。
田代雄太は自分と雪子の子供なのか?

続く・・・



さそり座の愛~占い刑事の推理~第4章

2012-10-04 00:38:56 | ミステリー恋愛小説
疑惑
「行ってみますか?」
収穫は期待できないが、疑問は払拭したい。それは藤木も麻生も同じ考えだ。
二人は、車から降りてアパート「太陽荘」へと歩く。
ペンキの剥がれた階段を上り、2階の奥の部屋のチャイムを鳴らした。
厚紙で田代雄太と書いてある。カチャリとドアが開いた。
童顔だが瞳が鋭い20歳前後の青年と目が合った。
いつも何かに警戒しているようだな、藤木は直感で感じた。
警察手帳を見せると青年は少し驚いた様子だ。
「隣の事件のことで、少しお聞きしてよろしいでしょうか?」「何か?」
「昨日は何時に帰宅しましたか?」
「昨日は夜中の1時頃だと思います。」
「そうですか。その時に何か気付いたことはなかったですか?」「別に・・・」
藤木は質問をしながら部屋の様子を見た。
正面が雪子の部屋の位置になっている。麻生が言ったように窓を全開にしたら
雪子日常生活はすべて見える。青年から見てもも同じだが。
「何か気付いたことがありましたら、連絡お願いします」
と言うと、青年は小さな声で「はい」と言い無表情のままドアを閉めた。
車に乗ると麻生が首を傾げながら考えている。
「あの青年、どこかで見たことあるな・・・う~ん、思い出せない」
藤木の方は、は青年の鋭い瞳の奥に潜む闇が気になっていた。


数日後、警察署を出ようとする藤木に麻生が声をかけてきた。
「藤木刑事飲みに行きませんか?また、上手い飲み屋開拓しましたよ!」
麻生は、さまざまな飲食店を知っている。
イタリアンレストラン、日本料理店、アジア料理など、そのどれもが安くて美味しい。
食いしん坊と豪語しているだけあって、紹介された店は絶品だ。
今日は自宅近くの牛たんが絶品だという居酒屋に誘われた。
田舎風造りのドアを開ける。「いらっしゃませ!!」威勢のいい声があちこちから飛ぶ。
テーブルに案内され、注文を取りにきた男の顔を見た二人は驚いた。
「君はあの時の」アパート「太陽荘」に住んでいる田代雄太だった。
「ここで働いていたの?」雄太は少し照れ笑いをしながら軽く会釈をする。
麻生は好きな品を次々に注文していく。
慣れた手つきでメニューボタンに注文品を入れる雄太。
やがて注文したビールやハイボールなど次々とテーブルに並ぶ。
厚切りで網で焼いた牛タンをほおばる。
「牛タン塩焼きは絶品だな」酒とつまみでたわいのない話をした後、
麻生が事件の話をはじめた。
「今回の事件は坂崎孝雄の自殺ということで片付くでしょうか」
 藤木は黙っていた。何かが引っ掛かっていた。そして麻生もまた腑に落ちない何かを感じていた。
その後、一、二軒小料理屋を梯子した後、藤木は麻生と別れた。
既に、夜中の12時30分を回っている。
このまま暗く寒い部屋に帰るのは空しい。
今年で38歳、父は7年前に他界した。母も2年前に病気で死んだ。
妻も子供もいない天涯孤独となった現在、時々あの頃を思い出す。
あの時、雪子と子供を守っていたら天涯孤独にはならなかった。。
後悔と自責の念が年数を重ねるごとに強くなる。
あの頃、ほんとに大切なことが見えなかった。

藤木の足は自然と雪子の家の方に向かっていた。
アパート「太陽荘」の横を通り過ぎる時、階段の裏側の方から話声が聞こえてきた。
藤木はその方向に視線を移す。
かすかに聞こえてくる言い争うような男女の声。
薄暗い暗闇の中、おぼろげに見える二つの影が見えた。
暗闇に慣れてきた瞳は二人の姿が浮き彫りにされてくる。
雪子?まさか?どうして雪子がいるのか。
そしてもうひとりの影、田代雄太だ。あの二人は知り合いなのか?
そうだとしたら接点はどこにあるのか?ありえないことが目の前に起きていた。
藤木は酔いから完全に醒めていた。

続く・・・