私は地球で楽しく遊ぶために生きている

心はいつも鳥のように大空を飛び 空に吹く風のようにどこまでも自由に

女達の恋愛事情 キリカの場合~5~

2015-11-29 11:02:14 | オムニバス恋愛小説
田園地帯だったこの街も今では洗練された街となった。
カフェショップからお洒落な人々が改札口から出てくる光景を眺めていると
見覚えのあるオレンジのコートが視界に入った。美花だ。
美花はコートを脱ぎながらキリカの方へ歩いて来た。
「急にどうしたの?何かあったの?」
「ううん、何もないけど気兼ねなく呼べる友人は美花しかいないんだもの」
美花は軽く笑顔を作った後、すぐに駅の改札口を振り向き
「二子玉川も小洒落た街になっちゃったわねえ。
今では、セレブの街リッチピープルの住む街と言われているらしい。
田や畑のあるのどかな田舎町として暮らした私達には違和感あるわ」
美花とは幼稚園からつきあっている唯一の幼馴染だ。この街で暮らしてきた
同じ郷愁のような感情になるときが多々ある。
キリカはふっと溜息をつき言った。
「美花が私は思いやりが欠けていると言ったけどそうかもしれない」
「いや、あれは言い過ぎたわ。謝る。ごめん」
「ううん、当たっているよ。私やっぱり思いやりないわ。
だって男のために自分の感情を抑えて優しくできないもの。
自分が先にでちゃう。真世さんは男の為に犠牲にできる。
多分慶の為なら自分のパンを差し出せる人よ。自分がどんなにお腹空いていようと」
「それは真世さんが、慶に惚れているからよ。惚れている濃さの違いよ。
私最近思うのよ。女には2種類のタイプがあるって」
「2種類のタイプって?」
「つまり男に愛される女と男を愛する女と」
「私はどっちのタイプだと思うの?」
キリカは美花の次の言葉を待った。


続く・・・


女達の恋愛事情 キリカの場合~4~

2015-11-26 02:02:01 | オムニバス恋愛小説
能面無表情真世は注文したアールグレーティーを
ゆっくり飲み込んだ。どうやら紅茶がお好みのようだ。
「キリカさんは純文学では誰が好き?」
能面無表情真世が質問する。キリカは絶句した。
そもそも純文学と大衆文学の違いさえわからないのに。
唯一読んだタイトルを口にする。
「夏目漱石の我輩は猫であるかな」
何のことはない。これも中学か高校の授業で一度読んだだけだ。
「夏目漱石もいいねえ」2人で頷いている。
キリカはいたたまれなくなっていた。
サークルに入会したことを後悔した。
この先深く探求していくであろう文学の世界にギブアップ寸前だ。
慶が席を立ちトイレへ行くとキリカは真世に聞いた。
「慶とすごく気があっているのね」
「うん、感性が似てるから話していて楽しいわ」
キリカの心は急に萎えていった。
本当は本を読むことが好きではないのだ。
これ以上偽りの自分でいることに疲れていた。
「あの、今日図書館行けなくなっちゃった。
今自宅から急用のメールがはいって」
もちろんでまかせだ。
「そう、残念だわ」真世は寂しそうに言った。
真世の視線を背中に感じながらキリカは喫茶店のドアを開けた。
少し肌寒い風が体に吹いた。
何かから解放された気分になっていた。
美花にラインを送る。
【今何している?会えないかな?】

続く…


女達の恋愛事情 キリカの場合~3~

2015-11-22 03:19:25 | ミステリー恋愛小説
テーブルに置いてる文庫本を見る。「人間失格」太宰の代表作だ。
キリカも読んだが、何を言おうとしているのかさっぱり訳がわからない。
結局悲観的女好きの男が酒に溺れた話ではないか。
太宰を愛する慶にはとても言えない感想だが。
「太宰の小説はー何が好き?」
慶のそばにいたいという不純な動機で入ったサークル、
まさか中学時代の授業で読んだ走れメロスだけだなど口がさけてもいえない。
「私も人間失格好きです」そう言うと慶は微笑んだ。
キリカは注文したアイスコーヒーを飲み、悲しい表情で呟いた。
「太宰の本読むと人間て弱くて、醜いと思うわ。死にたくなっちゃう」
すると慶の表情が途端に曇った。
「うーん、そうかな。太宰の退廃さは人間が根底にある琴線を突いている」
キリカは行き当たりばったりの太宰論を悟られたような気がして恥ずかしさで
消えてしまいたい心境になった。
その時背後に声が聞こえた。
真世が分厚い本を抱えていた。
偽太宰論を続けなくていいことにキリカは安堵した。
真世は自然に慶の隣の席に座った。
能面、無表情の真世の顔が柔らかくなった。

続く…


女達の恋愛事情  ~キリカの場合~ 2

2015-11-12 19:32:11 | オムニバス恋愛小説
「キリカ、女は綺麗であることがすべてなのよ。お洒落をして
爪の先から髪までいつも気をつけて生活することが女を幸せにする術なの」
口癖のように聞いた母の言葉はキリカの生活に根付いていた。
父は年齢を重ねてもおんなでいることを意識して生活している母を溺愛していた。
父も「女は男に可愛がられて生きるのが一番だよ」という考えだった。
子供は父母の教育、環境、癖によって形成していくのだとキリカは思う。
そして、その母の女としての生き方を肯定して生きてきた。
母よりも優れている点は聡明な頭脳を持ち合わせたことだ。
しかし、ここにきてキリカは思う。
一体女の生き方とはなんぞや?単純にお洒落で女性であることを意識して
日々を生きることを肯定して生きてきたキリカにとって、
初めて自分から恋心を抱いた男の慶の女性観は真逆ではないだろうか。
何故なら自分の容姿に無頓着で能面のような表情をしている真世が好みなのだから。
慶と慶の友人が発足した「純文学を探求する会」同好会に入会したのも
慶の傍にいたかったからなのだ。しかし、そこに既に真世がいた。
そして、2人は相思相愛だというからダブルの驚きなのだ。
初めてキリカは人生の不条理を感じていた。

今日は夕方から国立図書館に行き太宰治について語り合うらしい。
太宰治なんて走れメロスを学生の時に読んだくらいだ。
待ち合わせた駅前の喫茶店のドアを開けると慶の姿が視界にはいった。
気がついた慶が手を挙げる。まだ誰も来ていない。
キリカは胸の高鳴りを感じながら慶の座る方へ歩いて行った。

続く・・・

女達の恋愛事情 ~キリカの場合~1

2015-11-08 14:12:46 | オムニバス恋愛小説
どうしてあんな冴えない真世を慶は選んだのだろう?
キリカは慶が真世と付き合っていることを友人美花から聞いて仰天した。
崎山慶に密かな恋心を募らせていたキリカは腑に落ちなかった。
「何故あんな冴えない女が好きなの?」
美花は「やっぱりね。その反応か」したり顔で言う。
「どういう意味よ」
「友人だからはっきりいうけど、キリカ自分のこと相当いけてる女と思ってるでしょう?」
キリカは一瞬言葉に詰まったがすぐに
「そんなこと思っていないわよ」
「確かにキリカは素敵な女よ。ミスK大の最終候補までいったし、
美人で、オシャレで、頭脳明晰で男性達からも人気があるわ。
でも最終候補までいって選ばれなかった理由て考えたことある?」
「・・・」それはキリカ自身も理由がわからなかい。
ミスキャンパスに選ばれた彼女より劣っているものなんてないと自負していた。
だから自分が選ばれなかった理由がわからなかった。
「キリカが最後に選ばれなかったのは見えない思いやりに欠けているのよ」
そんなことぐらいで私は負けたのか。
キリカは少し頬を膨らませて言った。
「そんなことで私は負けたの?」
「そんなことか。なるほどね。
それが大事なんだな。思いやりや優しさってキリカは軽んじているよ」
美花の大人ぶった訳知り顔にキリカは不愉快になっていた。
私は何も劣っていない。
頭脳明晰で、美人で、お洒落で、それに充分優しいつもりだ。
それなのに慶は私ではなく冴えない真世を選んだのだ。
何故?


続く・・・