飾らない 素直な 自分らしい毎日に乾杯!

ああ、きょうも、暑うなるぞ 尾道の港の上にて

東京物語の1シーンである。葬式が終わって翌朝、家には末の娘と戦死した次男の嫁が居る設定である。眼下には尾道の海が見える。『海が見えた 海が見える 5年振りに見る 尾道の海はなつかしい』と書いた林芙美子で有名な場所でもある。その放浪記は1928年であり、東京物語は1953年公開とある。偶々ではあるが、親の生まれた年と小生の生まれた年に当たる。

配役は、画に描いたような優秀な役者の山村總と、妻の役どころと同じ年代の東山千栄子、そして義理の娘役原節子である。末っ子役の香川京子も本当に若い頃である。中でも「はい、カット」というのが全くない完璧な名役者の杉村春子の演技は実に上手い。原節子の仕事内容は派遣社員風にも見えるので、今の状況にも通じるものがあるように思える。その中で、妻がまんまると太っている様はなんとも形容しがたい小津の魔法を感じずにはおれない。細身の笠智衆と対比させていて、長女と義理の娘との細やかな情の対比にも通じるものがある。

7月は観測史上最も暑かったそうである。そんな暑さの中、『ああ、きょうも、暑うなるぞ』と達観したような悟りにも似た主人公の言葉に、日々の暮らしへの言い知れぬ生命力が見え隠れしているようで、小津の真骨頂がここにも表れているように想えるのである。
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