木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

『白鯨』

2013-07-01 13:28:52 | 日記


「白鯨」メルヴィル

しょっぱなの鯨に関する抜粋で、すでに発狂寸前に追い込まれる読書体験。
読もうとする努力を、モーレツに必要とする本。

発売当時、売れなかったというのも納得。
鯨に関する知識を総動員するも、
勘違いだったり、古い知識だったり、こじつけ解釈だったりが混入。
なんのこっちゃ?な本文と訳注を併せて読み進むと、何が何やら。
カオ~ス!!

そもそも、船に関する基本的な用語に馴染みがないという致命的なハンデ。
言葉から映像を想像するのが苦しい。
船ったって、ブラックパール号ぐらいしか思いだせんぞ。
お粗末さまな知識で浮かび上がったボンヤリとした船の姿に、
メルヴィルの繰出す有り余る詳細説明。

更に神話やら宗教的、哲学的な記述の多さ。
もちろん、ついていけません。
柱の上で1年ぐらいは考えにふけらないとダメでしょうねぇ。
瞑想者メルヴィルには、追いつけません。

物語部分(宿やら乗組員の話)はさすがに面白いが、
気が付いたら、また説明やら解説に戻っているという─
ああ、無常。。。

メルヴィルの飴とムチぶりに翻弄されるがまま。
鯨=自然に振り回される乗組員状態。

詩的な散文にポエマーぶりを発揮するかと思いきや、
独白やらがチラホラと現れ。
ん?お芝居?戯曲かよ?

メルヴィル氏の知識と思索とテクニックを詰め込んだ船?本?
やっぱ船か?に、船酔い必至。

そして。
エイハブ船長、なかなか出てこないのな。
文学史上に燦然と輝く登場人物。
上手いこと小出しにされ、じらされるなぁ。。。
白鯨に片脚をもがれて、復讐心に燃えるのは分かる。
ただ、片脚を失ったからなのか、化け物のような白い鯨だったからなのか、
鯨に悪意を感じたからなのか、迷うところ。
ま、結局全部ひっくるめてなんでしょーけど。
憎しみを助長するのは、あっという間ですけども、
何が発端というか、一番の原因は何かは興味あるところ。

クライマックスの対決も引っ張るだけ引っ張られ─。
というか。
残り少ないページ数に、
どう盛り上げるつもりじゃ?と、か~な~り不安になりつつ読む。
って終わっちゃったよ。
さんざ説明しておいて、あれだけ色々つき合わせておいて…
手早い終わらせぶり、手短な文章に愕然。
飴とムチの行き着く先は、酢昆布でしたかぁ~。
不思議な甘みと酸っぱさで読了。。。

つーか、ストーリー部分だけ残したら、
確実に中篇小説になる本作。
心底腹立たしい説明部分を削りたい誘惑にかられるも。
明らかに、このクドクド説明文が無いと、成り立たない。
これだけは理解出来ました。

鯨に魅せられ、執着し、果てる。
愛と憎しみはひとつ、というギリシャ悲劇そのまま。
復讐というか、征服欲だな。これって。。。