テーブルの上にはチュンサンの誕生日のために、ユジンの腕を振るったたくさんのごちそうが並べられた。フルーツたっぷりのケーキ、チヂミ、チャプチェ、キンパ、キムチ、あえ物、そしてわかめスープまで、テーブルからあふれてしまいそうな量の料理だった。
「ちょっと作りすぎちゃったかな。もしかしたらチンスクが来るかもしれないけど、それでもやっぱり作りすぎちゃったかな」
ユジンがポツリとつぶやくと、ミニョンが言った。
「チンスクが?」
「うん。他のみんなが忙しいみたいだから、放送部を代表してチンスクを呼んだの。それにしても張り切って作りすぎちゃったかも。」
ユジンは自分を傷つけないように、友人たちが忙しいから、と断られた理由をつけて話しているのだろう。しかも、仕事の忙しい合間を縫って、これだけの料理を作ってくれたのだ。チュンサンだったときは、ミヒは演奏ツアーで、誕生日には一緒にいないことすらあり、お手伝いさんと二人きりなんてこともあった。ミニョンとしてアメリカで生活していた時は、バーベキューなど調理と呼べるほどの料理ではなくて、友達を呼んでワイワイパーティをしていた。ミニョンは、誰かにご馳走を作ってもらったことも、アットホームに祝ってもらうことも初めてだった。ユジンには感謝の気持ちでいっぱいだった。
「だれも来なくても、僕が全部食べるよ。」ミニョンは嬉しそうに言った。
ユジンはこの日一番伝えたかった言葉を言った。10年分の思いを込めて気持ちを伝えた。ただ生きていてくれることが嬉しかった。
「チュンサン、お誕生日おめでとう。」
そしてチュンサンも心を込めて応えた。
「ユジナ、本当にありがとう」
その時だった。玄関のインターフォンが鳴った。二人は「誰が来たんだろう?」と顔を見合わせた。ユジンが急いで玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは、花束を抱えたサンヒョクだった。サンヒョクは何でもない、というような顔で「久しぶり。誕生日おめでとう。」と言うのだった。笑顔で花束を受け取るミニョンの後ろで、ユジンはどんな顔をしたらよいのかわからずに、伏し目がちになってしまった。
ユジンとサンヒョクは無言でソファーに座った。しばらくは、何を話していいのかわからなかった。話したいことはたくさんあるのに、なかなか口から出てこないのだ。それにしても、さっき玄関を開けた時の、ユジンの満面の笑みがまぶしすぎる。こんな笑顔は自分といた時にはなかった。チュンサンと一緒にいて初めて浮かぶ、高校生の時のようなはじけるユジンの笑顔だと思った。サンヒョクは意を決して話し出した。「元気そうだね」それを聞くとユジンはますます身の置き所がなくなってうつむいてしまった。自分ばかりが幸せで、サンヒョクの気持ちを考えると、心苦しかったのだ。
「サンヒョクは元気?新しい番組が始まったんだよね。」
「どうして知ってるの?」
「チュンサンが気に入って聴いてるのよ。」
それを聞くと、サンヒョクは露骨にがっかりした顔をした。てっきり、ユジンが自分を気にかけてくれていると思ったのだ。
「始まったばかりなんだけど、またユヨル先輩と一緒にやってるんだよ」
ユジンは心配そうに言った。
「ずいぶん痩せたのね。」
「周りにはかっこよくなったって言われるんだよ。」
サンヒョクは照れ臭そうに笑った。
「そんなこと言って。カップラーメンばっかりたべてるんでしょ?駄目よ。」
「久しぶりに聞く、ユジンの小言だな。」
まるで彼女のような言い方をしてしまい、ユジンはバツが悪くなって苦笑いをした。
「ユジン、幸せだよな?」
サンヒョクは柔らかな笑顔で言った。ユジンは返事こそしなかったけれど、サンヒョクの顔をしっかりと見つめていた。その顔を見て、サンヒョクは寂しいと思いながらも、ほっとするのだった。
そんな二人を、ミニョンはコーヒーを入れながらそっとうかがっていた。二人の距離が少しでも改善するとよいと思いながら。静かで緩やかな時間が流れ続けた。
その後、ミニョンはサンヒョクを外まで見送っていった。
「今日は来てよかった。あんなユジンのうれしそうな顔は、初めて見たよ。ユジンをよろしく頼む。もう泣いたりしないように。」
ミニョンは心を込めて、大きくうなづいた。同じ女性を好きな者として、サンヒョクの気持ちは痛いほどわかった。ミニョンはこうしてサンヒョクがわだかまりを見せずに、誕生日に来てくれたことを、深く感謝していた。
サンヒョクはあらためて誕生祝を言って立ち去ろうとしたが、振り向いていった。
「そうだ、君のお母さんにインタビューしたんだ。素敵な人だね。カンミヒさんと僕の父は、同級生だったんだって。まるで君と僕みたいな関係だな。不思議な縁を感じたよ。」
それを聞いて、ミニョンはなぜかドキリとしたが、なぜこんなにも不安な気持ちになるのか、よくわからないままサンヒョクを見ていた。サンヒョクは今度こそさよならを言って帰っていった。