

「誕生日おめでとう」ミニョンがケーキの火を吹き消して、誕生会はスタートした。ミニョンは本当にうれしそうで、一人一人の顔を見つめてはにっこりと笑っていた。皆はおいしい食事とワインですっかり饒舌になり、今までのわだかまりが嘘のように話が弾むのだった。しかし、ここにチェリンとサンヒョクがいない寂しさもあったし、ここまでミニョンとユジンが越えてきた道のりは相当のものだったので、楽しい席にセンシティブな話題はあえて避けて、楽しい話題を中心に話に花を咲かせていた。キム次長とスンリョンとチョンアさんは、ヨングクとチンスクを連れて、二次会に行くと言ってすっかり酔っぱらっていた。「あとは10年ぶりに再会したラブラブのお二人で楽しんでくださいね~。」キム次長はひらひらと手を振ると、鼻歌を歌いながら去っていった。

ミニョンとユジンはみなを見送った後、嬉しそうに微笑みあった。
「ユジン、今日はみんなをよんでくれてありがとう。」
「私が呼んだんじゃないの。みんなが来てくれたのよ。」
「そうか」
それを聞いて、ミニョンは何でもないことのように言うユジンに感謝した。裏ではいろいろと手を回してくれたのだろうにと。
「チュンサン、あと一人ね。来られなかった友達。行ってみてよ。あなたの誕生日の様子や、体調を気にしてるわ。」そういうと、ユジンは「じゃあ行くね!」と歩き出した。そして振り返るともう一度にっこり笑って手を振って去って行くのだった。

すると、ミニョンの顔から笑みが消えて、一つため息をついた。そしてどこかに車を走らせるのであった。ミニョンの向かった先はチェリンの経営するブティックであった。ミニョンがチェリンの事務所に入ると、チェリンはびっくりして立ち上がり、ミニョンのそばまでやってきた。
「ミニョンさん!誕生日でしょ?ユジンと二人きりで祝えばいいのに、どうしたの?」
チェリンの声はとげとげしくて攻撃的だった。
「君には悪いことをしたと思ってる。チュンサンとしても、ミニョンとしても」
「それで?謝りに来たわけ?」
「そうだよ。ごめん、、、」
「そう思うなら戻ってきてよ。チュンサンは忘れられても、ミニョンさんは無理。だってミニョンさんは私のことを好きだったのよ。ミニョンさん、もう一度考え直して。前は私のこと好きだったでしょう?」

チェリンはたまらずにミニョンに抱き着いて涙を流した。すると、ミニョンはその手をそっと振りほどいていった。
「それは無理だよ。わかるだろう?やめてくれよ」
すると、チェリンは怒り始めた。
「だったらなぜ私に会いに来るわけ?どうせユジンに慰めるように言われたんでしょう?」
涙を流してソファに座り込むチェリンに、悲痛な面持ちでミニョンは言った。
「チェリンという友達を取り戻しに来たんだ。」
「友達?チュンサンに友達なんかいらないわ。私に必要なのはミニョンさんだけよ。」
チェリンは挑むような眼でミニョンを見つめていた。
「僕が急ぎすぎたようだね。」
ミニョンは後悔を声色ににじませてそっと背を向けた。歩き出すミニョンの背中に
「絶対にミニョンさんを取り戻して見せるわ」というチェリンの声が追いかけてくるのだった。

家に帰って一人になったミニョンは、ほっと一息ついた。今日はいろいろなことがいっぺんに起きたのだった。うれしいことも、悲しいことも、すべてが押し寄せてきた。その中でも、ユジンを中心として、かけがえのない人間関係が築かれていることが、とてもうれしかった。そして、チェリンのことはただただ申し訳ないとしか思えなかった。その時だった。ふいに激しいめまいが押し寄せてきた。最近疲れると時々頭痛やめまいを感じていた。ミニョンは疲れのあまり、着替えずにベッドで寝てしまうのだった。
その頃、バーでは二次会の5人がしこたま酒を飲んでいた。特にキム次長とチョンア、チンスクはベロベロに酔っていた。

「ほんと、あの二人には爺やとばあやがどれだけ気をもんだと思ってるのかなぁ。ミニョンは婚約者がいるユジンさんをずっと追っかけてるし、チェリンさんていう美人の恋人はほったらかしで、どうなるのかと思ったよ。あの吹雪の夜に二人きりで山頂に閉じ込められたときぐらいから、二人が変わっていったよな。でも、二人が高校時代に恋人だったなんて、言われてみれば何もかもがしっくりくるよ。まるでミニョンの好きなパズルみたいにピタリとはまるっていうのかな。」
キム次長が酔っぱらって大声で言えば、チョンアも大きなため息をついて言った。

「誰が、ばあやよ?!でも、ほんと理事と初めて会った頃のユジンは、挙動不審で思い詰めてるような、心ここにあらずで変だったのよ。でも死んだ初恋の人とおんなじ顔の人に会ったら動揺するわよね。あの子が理事を庇って怪我をしたときは、びっくりしたんだから。近くで見ている身としてはハラハラして身が持たなかったわよ。ねっスンリョン。」

「俺はよくわかんないけどさ、でもいつか理事とチョンアさんとキム次長とユジンで飲んだ時に、ユジンに初恋のことを聞いたら、理事の顔をじっと見つめて、飲めない酒をあおったことがあっただろ?あのとき、ユジンは理事の中にチュンサンて男を見てたんだな。最初から理事はユジンのものだったんだな。チョンアさんが言ってたミスターパーフェクトがさ。ユジンも初恋を実らせるなんてラッキーだな。」
すると、一番酔っぱらっているチンスクが話し始めた。

「あなたたちね、ユジンとチュンサンがどんな大恋愛だったか、チュンサンが死んだときのユジンの様子をよ~く知ってるあたしが話してあげるから。」
そういうと、チンスクとヨングクは高校時代の話と、ユジンがチュンサンの死後、チュンサンを忘れられずにどんな10年間を過ごしてきたかを話した。
話が終わると、5人はしんみりして黙ってしまった。そしてキム次長がみんなの気持ちを代弁して言った。
「もう一度、チュンサンの復活の誕生日に乾杯しよう。そしてミニョンことチュンサンとユジンさんの未来にも乾杯しよう。乾杯‼️」
するとチョンアが盃を飲み干して言った。
「順番から行くと、わたしにも白馬の王子さまが来てくれるはずなんだけどなぁ」
スンリョンがニヤニヤしながらキム次長を見て言った。
「白馬のおじさまがいるじゃん」
「はぁ?誰が~。あたしにだって夢を見る権利はあるでしょう?」
そう言いながらも赤くなってまんざらでもない様子のチョンアと、目を白黒しているキム次長を前に、皆大笑いをするのだった。楽しい飲み会は夜更けまで続いた。